第二十二話:不屈の城壁、揺らぐ黄金の誇り
**ドォォォォォンッ!!**
大気を震わせる衝撃音が広場に響き渡った。狼男族の族長が繰り出した、巨木をも一撃で粉砕する剛拳が、ティオの構える大盾の真正面に激突したのだ。
ティオの足元の地面が**バリバリ**と音を立てて裂け、彼女の身体は数センチほど土に埋まった。だが、彼女は一歩も後ろへは下がらない。
「……っ、く……ぅぅっ!」
盾の裏側で、ティオは奥歯を噛み締めていた。腕の骨が悲鳴を上げ、視界が衝撃で白く染まる。それでも、彼女の赤い瞳は決して逸らされることなく、盾の縁越しに族長を睨み据えていた。
「ほう……。俺の拳をまともに受けて、立っていられるか」
族長の黄金の瞳に、不快げな色が混じる。彼にとって、族長である自分に比べて遥かに小さく、子供のような容姿の少女を捻り潰すことなど、小枝を折るよりも容易いことであるはずだった。
「ならば、これはどうだ!」
族長は間髪入れず、猛烈な連撃を叩き込んだ。右、左、そして両手での振り下ろし。一撃一撃が地響きを伴い、盾の表面に深い傷跡を刻んでいく。
**ガンッ! ガギィィン! ドォォンッ!**
凄まじい暴力の嵐。しかし、ティオはそのすべてを、盾をわずかに傾け、足首で衝撃を逃し、最小限の動きで捌ききっていた。彼女の身体は衝撃で小刻みに震えているが、その盾が形作る「境界線」は、依然として針の穴を通すような精密さで保たれている。
「……無駄、です……。私は……皆さんの盾になると、決めたのですから……っ!」
「黙れ、小娘がぁ!!」
苛立ちを募らせた族長が、卑劣な手段に出た。彼は突進する振りをしながら、その強靭な脚で地面を強く蹴り上げた。
**バサァッ!!**
舞い上がった大量の土砂と砂礫が、ティオの顔面を襲う。
「ティオさんっ!!」
後方でルネが悲鳴を上げる。視界を奪い、その隙に首を刈り取る。族長としてのプライドを捨てた、勝利のみを渇望する一撃。
だが、ティオは目を閉じなかった。砂が目に入ろうとも、彼女は気配だけで敵の動きを察知していた。ユウマとの訓練で、ルネの合図や風の動きだけで盾を合わせる感覚を研ぎ澄ませていたからだ。
**キィィィィィン!!**
族長の爪が、ティオの喉元を掠める直前で、盾の縁に弾かれた。
「……な、に……っ!?」
族長が驚愕に目を見開いた。砂をかけ、完全に視界を潰したはずの状況で、なぜこれほど正確に「先」を読めるのか。
その光景は、周囲で戦っていた狼男族の戦士たちにも戦慄を与えていた。
自分たちが最強と信じて疑わなかった族長が、必死の形相で卑怯な手まで使いながら、たった一人の少女を崩せない。
(……あの娘は一体なんなんだ? あの小さな体で、なぜこれほどの力を出せる……なぜ潰せないんだ……っ!)
次第に、狼男たちの士気が目に見えて削られていった。攻撃の手が緩み、恐怖が伝染していく。
「……はぁ、はぁ、……っ。……今ですっ! 皆さんっ!!」
ティオが枯れかけた声を振り絞った。
彼女の背後に隠れ、族長の圧倒的な威圧感に耐えていた猫娘族の守備隊たちが、その声に弾かれたように飛び出した。
「今だ! 族長の足元を狙えっ!!」
守備隊は族長と正面からぶつかり合うような愚は犯さない。彼らはティオという巨大な岩の影から、蛇のように鋭く、チクチクと攻撃を仕掛けた。一人が族長の足を槍で突き、族長がそちらに気を取られれば、逆側から別の戦士が脇腹を切り裂く。
「チョロチョロと……羽虫どもがぁ!!」
族長が腕を振り回して追い払おうとするが、その巨体ゆえに、小回りのきく猫娘族の動きを捉えきれない。さらに、彼が大きく動こうとすれば、必ずその正面にはティオの盾が「壁」として立ちはだかり、逃げ場を塞ぐのだ。
「ぐ、おぉっ……! おのれ、おのれぇ……っ!」
何度も盾を打ち付け、さらに卑怯な手まで使ってスタミナを浪費した族長に、明らかな疲れが見え始めていた。対して、ティオの盾に守られてきた守備隊たちは、体力も気力も十分だった。
**チクッ、チクッ、ズブッ。**
小さな傷が族長の身体に増えていく。それは致命傷ではないが、確実に「暴力の化身」の誇りと体力を削り取っていた。
「……ユウマさん、見ていてください……。戦況は、変わりました……!」
ユウマは、最前線で膝を震わせながらも、勝利を確信したような瞳で族長を見据えるティオの背中を見ていた。
かつては疎まれ、孤独だった盾が、今は多くの戦士たちを統率する「中心」となっている。
戦況は、完全に傾いた。
最強を自負していた族長を擁しながら、狼男族はかつてない壊滅の危機に直面していた。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
作者のモチベーションアップに繋がりますm(_ _)m




