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無能扱いされた少女たちの才能が見える俺、適材適所で最強国家を築く  作者: 浅入燈馬


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第十六話:勝利の余韻と、消えない壁

 猫娘族の戦士たちが戦線に加わったことで、崖下の死闘は新たな局面を迎えた。

 しかし、多勢に無勢であることに変わりはない。狼男族の戦士たちは、増援の出現に苛立ちを露わにし、さらに凶暴性を増していく。

「散るな! ティオナさんの盾の陰に入って!」

 ユウマの声が戦場に響く。彼は戦う力こそ持たないが、ルネがオッドアイで捉えた敵の動向を即座に言語化し、喉が焼けるような大声で猫娘族たちに指示を飛ばしていた。

「ルネ、次はどこだ!?」

「右の岩の影に三匹……っ、今、跳んだですぅ! 頭上に気をつけて……ですぅ!」

「右から来るぞ! 槍を構えろ! ティオナさん、上をお願いします!」

 ユウマの叫びに応じるように、ティオナの巨大な盾が垂直に跳ね上がる。

 **ガキィィィィン!!**

 空中で牙を剥いた狼男の爪を、大盾の面が真っ向から受け止めた。ティオナはそのまま盾を水平に薙ぎ払い、味方の戦士たちを狙っていた横からの奇襲をも完璧に遮断する。

「……はぁっ、ですっ!」

 ティオナは盾を支点に鋭い蹴りを繰り出し、怯んだ敵を押し返した。彼女の戦い方は、自分を守るためではなく、隣で槍を振るう同族たちを死なせないための戦い方へと変わっていた。

 自分を拒絶し、恐れてきた者たちの前に立ち、その命を一身に背負って盾を掲げる。猫娘族の戦士たちは、目の前で火花を散らす背中の大きさに圧倒されていた。自分たちの数倍はある狼男の連撃を、たった一人の少女が、一度たりとも後ろへ通さない。

 やがて、執拗な攻防が数刻続いた頃。力押しの通用しない「城壁」を前に、狼男族の戦士たちにも疲弊と動揺が広がっていた。

「……ちっ、今日は引き上げるぞ! だが覚えておけ、次はこんなものでは済まさん!!」

 リーダー格の叫びを合図に、狼男たちは闇の中へと次々に姿を消していった。地響きのような足音が遠ざかり、代わりに夜の静寂が崖下に戻ってくる。

 戦いは終わった。

 静まり返った一本道で、ティオナは仁王立ちのまま、敵が去っていった森の深淵をじっと見つめていた。自分よりも遥かに大きな盾を支えに、肩を激しく上下させ、荒い息を整えている。彼女の赤いポニーテールは乱れ、頬には一筋の返り血が伝っていた。

 勝利。間違いなく、彼女が一人で手繰り寄せた勝利だった。

 駆けつけた猫娘族の戦士たちは、槍を下ろし、互いに無事を確かめ合っている。しかし、誰一人として、最前線で立ち続けるティオナに駆け寄る者はいなかった。彼らはチラチラと彼女の背中を盗み見る。そこには感謝や賞賛の色もあったが、それ以上に、やはり本能的な「忌避感」が勝っていた。返り血を浴び、月光の下で真っ赤に燃える瞳を持つ彼女は、彼らにとってやはり、理解を絶した恐ろしい存在だった。

「……おい、戻るぞ」

「ああ……フェリス様に報告だ」

 戦士たちは、ティオナを避けるようにして、黙ったまま村へと戻り始めた。感謝の言葉も、労いの声もない。ただ、彼女という異質な存在をそこに残したまま、日常へと帰っていく。

 ティオナは、遠ざかっていく同族たちの背中を、悲しげな微笑を浮かべて見送っていた。彼女にとって、これはいつもの光景だった。どれだけ尽くしても、最後には独りになる。それが彼女の選んだ生き方なのだ。

 ポツンと、月の光の下で佇む小さな背中。その孤独な姿を見て、ユウマの胸に言いようのない痛みが走った。

「……ティオナさん」

 ユウマが歩み寄り、静かに声をかける。ティオナはビクリと耳を震わせ、ゆっくりと振り向いた。

「……ユウマ、さん。……お怪我は、ありませんでしたか?」

「ああ、僕は大丈夫だ。ルネも無事だよ。……それより、ティオナさん。君こそ大丈夫か? 凄い戦いだった。君がいてくれなかったら、この村は今頃……」

「……ふふ、お恥ずかしいところを。……皆さん、無事に帰られたようですね。私も……そろそろ、自分の家に戻ります。……おやすみなさい、ユウマさん」

 彼女は巨大な盾を背負い直し、一人で暗い道を進もうとする。その足取りは重く、どこか頼りなかった。

「待ってくれ」

 ユウマは思わず声をかけた。

「……え?」

「そのまま帰る前に、僕たちが借りている部屋に寄っていかないかい? 暖かい水もあるし、お芋もまだ残っている。少しだけでも、休んでいってほしいんだ」

「……ですが、私のような者が一緒にいては……」

「そんなこと、気にしないよ。……君のあの勇敢な姿を見て、怖がるような奴は一人もいない」

 ユウマの言葉に、ティオナの瞳が微かに潤んだ。彼女は戸惑うように視線を彷徨わせたが、やがて小さく「……ありがとうございます」と呟き、ユウマの後に続いた。

 空き家に戻ると、先に帰っていたリリィが、ルネの顔を拭いてやっていた。二人はティオナの姿を見ると、すぐに駆け寄った。

「ティオナさん! 本当に凄かったのぉ! 盾でバーンってして、狼男さんたちをポイポイ投げ飛ばしてぇ……リリィ、感動しちゃったのぉ!」

「……ティオナさん……格好よかった、ですぅ。……怖くなかった……ですぅ。私、ずっと、見てた……ですぅ」

 二人の飾らない言葉に、ティオナは照れたように顔を赤くし、背負っていた巨大な盾を壁に立てかけた。その盾は、彼女の身長よりも遥かに高く、部屋の隅で静かな威圧感を放っている。

 ユウマはティオナに椅子を勧め、温かい飲み物を差し出した。

「改めて言わせてくれ。ティオナさん、君は本当に勇敢だった。この村の人たちが何と言おうと、僕たちは君が命懸けで皆を守ったことを知っている」

「……過ぎたお言葉です。私はただ、この場所を守りたかっただけなのですから」

 ティオナは俯き、自分の指先を見つめた。

「……幼い頃から、この瞳のせいで疎まれてきました。両親さえも、私を見るたびに怯えていたのです。……それでも、この村の人たちは私を追い出さずにいてくれました。だから、私は……せめて盾になって、お返しをしたかったのです」

 ユウマは、彼女の隣に座り、真っ直ぐにその瞳を見つめた。

「……ティオナさん。狼男族の連中、あの様子じゃあ、きっと一度では諦めないだろう。彼らのプライドは傷ついた。次はもっと巧妙な手を使ってくるはずだ」

 ティオナの表情が強張る。

「この村の戦力は、君が知っての通りだ。バラバラに戦っていては、いずれ限界が来る。……だから、提案があるんだ。僕たちと一緒に、この村を守らないか? 君の力に、僕の知識やルネの目、リリィの知恵を合わせたいんだ。補い合えば、もっと確実に村を守れるはずだ」

 ティオナは驚いたように顔を上げた。

「……私と、一緒に……ですか? 私の瞳を見て、……怖くないのですか?」

「ああ。君の瞳は、燃えるように熱い決意の色だ。僕にはそう見えるよ」

 ティオナは長い間、ユウマの顔を見つめていた。その赤い瞳から、ポロリと一粒の涙が零れ落ちる。

「……今まで、そんなふうに言っていただいたことは、一度もありませんでした。……私で、お役に立てるのでしょうか」

「役に立つどころじゃない。君がいてくれないと、僕たちは明日を迎えることさえ難しいだろう。……お願いだ、ティオナさん。力を貸してほしい」

 ティオナは、震える手で目元を拭い、深く深く頭を下げた。

「……承知いたしました。ユウマさん、リリィさん、ルネさん。……微力ながら、皆様と一緒に戦わせていただきます」

 彼女の声には、先ほどまでの寂寥感は消えていた。初めて、自分を必要だと言ってくれた他者のために。孤独だった少女は、その強靭な意思を、一つの新しい歩みへと繋ぎ止めた。

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