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無能扱いされた少女たちの才能が見える俺、適材適所で最強国家を築く  作者: 浅入燈馬


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第十五話:不抜の城塞、孤高の盾が刻む轍

 崖下の一本道は、瞬く間に地獄の様相を呈した。

 上空から降り注ぐのは、岩をも砕く暴力の塊。狼男族は、その強靭な四肢で断崖を蹴り、弾丸のような速度でティオナへと肉薄する。

「……はぁっ!」

 ティオナは、自身の身長を遥かに超える巨大な盾を**ブンッ**と振り回した。風を切り裂く重低音が響き、正面から突っ込んできた狼男の顔面に盾の縁が叩き込まれる。

 **グシャッ**という嫌な音とともに、巨体が木の葉のように吹き飛んだ。

「左の岩陰……上から来るですぅ! 三秒後、右斜め後ろからも一匹くるですぅ……っ!」

 後方でユウマに支えられながら、ルネが叫ぶ。彼女のオッドアイは、闇と土煙に紛れて死角から迫る「殺気の線」を完全に見切っていた。

「……了解いたしました、ルネさん!」

 ティオナの耳が**ぴくん**と跳ねる。彼女は後ろを振り向くことさえしない。ルネの言葉を全幅の信頼で受け入れた彼女は、盾の石突きを地面に深く突き立て、軸にして身体を独楽のように回転させた。

 **ドガァァァン!!**

 上空から奇襲を仕掛けた狼男が、ティオナが掲げた盾の表面に激突し、自らの衝撃で腕の骨を砕く。さらにその回転の勢いを殺さず、ティオナは盾の面で背後の敵を**ドォンッ**と撥ね飛ばした。

「……凄い。あんな巨体を、あんなにあっさりと……」

 ユウマは戦慄した。ティオナの動きには一切の無駄がない。スリムな体格からは想像もつかない剛腕で、数倍の質量を持つ敵を圧倒している。だが、狼男族も次第にその異常な防御力に気づき、力押しを捨てて執拗な波状攻撃へと切り替えた。

「小癪な小娘め……死ねぇ!!」

 左右から同時に放たれた鋭い爪の連撃。さらに、正面からリーダー格の狼男が、全体重を乗せた強烈な体当たりを仕掛ける。

 **ガギィィィィン!!**

 金属と獣の爪が擦れる火花が夜闇を照らす。一瞬、ティオナの身体が**ズルッ**と地面を削り、後退したように見えた。盾の重みに耐えきれず、彼女の細い腕が微かに震えている。

「ティオナさん!!」

 ユウマが叫び、駆け寄ろうとしたその時だった。ティオナの赤い瞳が、冷徹なまでの冷静さを保ったまま鋭く光った。

「……大丈夫ですよ。この大好きな村を、指一本触れさせはしないのですから」

 彼女は後退した勢いをそのまま利用し、盾の角度を絶妙に傾けた。狼男たちの猛攻が、滑るように盾の表面を受け流されていく。敵の力が完全に抜けたその隙を逃さず、ティオナは盾の縁で地面を一突きし、爆発的な踏み込みを見せた。

「……下がってくださいですっ!!」

 盾の表面に収束した衝撃が、物理的な圧力となって解放される。

 **バォォォン!!**

 五体の巨体が、まるで爆風に煽られた紙屑のように後方へと弾き飛ばされた。ユウマが危機だと思ったその瞬間さえ、彼女にとってはカウンターを狙うための布石に過ぎなかったのだ。

 その時だった。村の方から、無数の足音と松明の明かりが迫ってきた。

「こっちだ! 裏手の崖へ急げ!!」

 フェリス率いる猫娘族の防衛隊が、ようやく現場に到着した。だが、彼らは崖下の光景を目にした瞬間、金縛りにあったように足を止めた。

 そこには、二十人近い狼男族の戦士を相手に、たった一人で立ち塞がり、一歩も村へ近づけさせない少女の姿があった。

 彼女が振るう大盾は、月光を反射して銀色に輝き、返り血を浴びた赤い瞳が夜闇の中で美しく、そして恐ろしく燃えている。

「……ティオナ……、あいつ、一人で……?」

「嘘だろ……あの狼男族を、五人も同時に相手にして……傷一つないなんて……」

 戦士たちの間に、困惑と、そしてかつて彼女に向けた蔑みを恥じるような沈黙が流れる。しかし、その静寂をフェリスの鋭い声が切り裂いた。

「何を呆けている! 彼女がたった一人で、我らの里を守り続けてくれたのだぞ!! 今こそ応えよ! 猫娘族の意地を見せるのは今だ!!」

 その言葉が、戦士たちの心に火をつけた。

「うおおおおおっ!! 続けぇ!! ティオナに加勢しろ!!」

「村を守るんだ! 奴らを追い返せ!!」

 かつて彼女を「化け物」と呼び、避けていた者たちが、今は彼女の背中を目指して駆け出す。ティオナは、背後から聞こえてくる仲間たちの雄叫びに、一瞬だけ驚いたように耳を動かした。そして、その頬に、本当の意味での喜びを宿した微笑が浮かんだ。

「……ありがとうございます。皆さん……っ」

 ユウマは、最前線で盾を振るうティオナの背中を見つめていた。

 これほどの力、これほどの意思を持ちながら、彼女は今日までずっと一人でこの疎外感に耐えてきたのか。こんなにも村を愛している少女を、あんな孤独な場所に追いやってはいけない。

 激突する両軍の怒号の中で、ユウマは静かに、だが強くそう思った。

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