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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信する話  作者: 9bumi
4章 英雄の誕生

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第34話 聖剣(仮)の力

 聖剣(仮)。白金竜の魔鉱石を使って作られたこの剣の力は異常だ。


 圧倒的な切れ味に、二、三割の力で振っただけでBランク相当の魔物を瞬殺できる。


 初めてこの剣を握って戦った時、絶対に本気で振ってはいけないと思った。

 どんなにダンジョン内の魔力で肉体が強化されていたとしても、限界はある。

 本気の一撃を出せば、衝撃に耐えられないのは確実だ。

 力を入れるのは六割が限界だろう。


 実際、紫冥将相手に六割の力で戦っただけで、肉体に相当の疲労が溜まっていた。

 牧さんが俺にアイラを任せたのは、精神的なリフレッシュだけでなく、聖剣(仮)による疲労も考慮してのことだ。


「雅人。いきなり本気は出すなよ?」

「分かってます」


 どうなるか分からない以上、徐々に入れる力を上げていく必要がある。


「最後は雅人が決める。そのための連携で行くぞ」


 牧さんの言葉に宮辻さんと木戸さんが頷き、すぐに地を蹴った。


 宮辻さんが薙刀の切っ先で紫冥将の左胸を狙い、紫冥将が瞬時に剣でガード。

 その隙をついて、木戸さんがハンマーで背中に強烈な一撃を叩き込み、紫冥将が地面を転がり、その勢いで体制を立て直そうと試みる。


 当然、そんなことはさせない。

 立ち上がろうとする紫冥将に、牧さんが追撃を仕掛ける。


 ここだ……っ!


 まずは七割の力で、紫冥将に胴体めがけて剣を振るう。

 本能的に危険だと思ったのか、紫冥将は牧さんの攻撃をあえて受け、その勢いで俺の攻撃を躱す。しかし――


 はは。ヤバいなこれは……っ


 攻撃は躱され、毛細血管が大量に切れたのか腕が僅かにビリっとする。

 そして、攻撃を躱したはずの紫冥将の左二の腕より先が消えていた。


 真空刃だけで、紫冥将の鎧を再生が不可能なレベルにまで粉々にしてしまったのだ。


 七割でこの威力。八割、九割と上がっていけばどうなるのか……


「雅人。大丈夫か?」

「はい。次、八割で行きます」


 このまま七割の攻撃を続けても有効ではないかという声が聞こえてきそうだが、それは違う。

 紫冥将に、一度見せた攻撃は通用しない。

 今まで、紫冥将に対して決定打にかけていたのもそれが原因の一つだ。


 さて、今度はどうなるかね。

 少なくとも腕の感覚くらいはなくなりそうだ。


         ※※※


 新宿支部の中で、里香は一人、雅人たちの配信をスマホで見ていた。

 外では姉のアイラが戻って来て騒がしくなっているが、里香にとっては雅人の方が優先だ。


「すごい……っ」


 雅人が放った一撃によって、紫冥将の鎧の一部が一瞬で粉塵と化す。

 その一方で、視聴者の反応は――


 一般人:高級武器はやっぱ違うな

 一般人:つまり武器のおかげ?


 武器の性能のおかげだと、雅人を評価しないコメントも少なくない。

 一般人に理解しろという方が無理があるとは思いつつ、里香はそんなコメントに対して眉を顰める。

 武器の性能がずば抜けているのは事実だが、今一番に評価するべきはそんな武器を使いこなしている雅人だ。

 

「どうして、私は……」


 今、あの場所にいないのだろうか。

 雅人の凄さを実感すると同時に、そんな悔しさでスマホを持った手に力が入る。


 そんな中、雅人が八割の攻撃を紫冥将へと放った。

 結果は悲命中。だが、真空刃によって完全に左腕が消しとんだ。

 これならば、次はと期待が持てる。しかし――


「雅人さん……」


 強力な一撃の代償として、確かに雅人が肉体にダメージを追っているのを里香は感じる。

 肉体を強化されているダンジョン内でこれだ。この後、ダンジョンの外へ出た時のことを考えると胸が締め付けられるような思いだ。


「お願いです。どうか無事で――」


 祈ることしかできない自分に改めて無力感を覚えながら、里香は再び配信に見入るのだった。


         ※※※


 八割の力で放った攻撃は、攻撃自体こそ躱されたが、今回も真空刃はヒットし紫冥将の左腕が完全に消し飛んだ。


「どうだ、雅人」

「――次、九割で行きます」


 右腕の感覚全体が鈍くなっているが、力はまだ入る。


 問題ないと俺が答えると、表情を曇らせながらも牧さんは小さく頷き、再び他の二人と共に紫冥将へ攻撃を仕掛ける。

 左腕を覆っていた鎧が完全になくなった紫冥将は、バランスが上手く取れないのか、攻撃への対処が遅れている。


 これなら……っ!


 大きくできた隙をついて、九割の一撃を胴体へ放つ。


 届いた……っ!


 届いたといっても、胴体に本当に少しかすった程度。

 加えて、弱点と思われる左胸は外している。

 しかし、上半身を覆っていた鎧の大部分が吹き飛んだ。


 残っている鎧は、兜と下半身、そして剣を持つ右腕の一部だけ。

 そして、先ほどまで必死に攻撃を当てようとしていた左胸には、魔核と思われる野球ボール程の黄金の球体が青い炎の中に浮かんでいた。


「雅人。やったな……雅人!?」


 ついに弱点を暴き出せたことに歓喜している牧さんが、腕を抑えてうずくまる俺を見て駆け寄って来る。


「大丈夫か、雅人!」

「大丈夫、ではないですね」


 恐らく骨折までは行っていないが、少なくとも腕の数か所の骨には確実にヒビが入っている。

 ダンジョン内でなければ、今頃きっと発狂しているだろう。


 九割でこれなら、最大限まで力を入れたら間違いなく骨折だろうな……


「最後、行きますよ」

「雅人、お前……っ」

「止めは俺が指します。でないと、割に合わないでしょ」


 苦し紛れに笑って見せると、それ以上牧さんは何も言わず、黙って前を向く。

 そんな仲間に感謝しながら、俺はゆっくり立ち上がり剣を構える。


 さあ、最終攻撃ラストアタックだ。

 




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