第33話 異次元
自分は今、何を見せられているのだろうか。
目の前で繰り広げられる圧倒的な戦いを前に、上宗一郎は思う。
以前、宗一郎自身、雅人たちがまだ本気を出していないのではないかと疑念を抱いたことはあったが、まさかここまでとは思わなかった。
「格が違う」
宗一郎の言葉に、配信を見ている視聴者からコメント殺到する。
一般人:今、日本最強何て言った?
一般人:格が違う
一般人:↑マジ?
元メンバー:さすがに今のは耳を疑った
元メンバー:元幹部、ここまでとは……
ALLの元メンバーたちですらこの反応。
宗一郎が驚かされるのも当然だ。
一般人:異次元過ぎてついていけない
一般人:今、何してるの?
一般人:教えて、日本最強
イヤホン越しに聞こえてくる視聴者の声に、宗一郎は小さく笑みを浮かべる。
(日本最強、か……)
恐らく、この配信後にその称号は彼らの内の誰かに渡ることだろう。
そうなると、これは日本最強として最後の仕事ということになる。
(それもアリか)
心の中で頷くと、宗一郎は視聴者に対して解説を始める。
まずはアイラの配信が途切れていた間に起こったことから。
「紫冥将がゴーストで、倒すために核を破壊する必要がある。その件について、認識は合うかな?」
雅人が戦っていたということもあり、今集まっている視聴者の多くはアイラの配信を見ていたのだろう。
殆どの視聴者が理解しているという反応を示す。
「みんな、紫冥将の鎧を見て欲しい」
戦いの中心にいる紫冥将へ、カメラをズームして見せる。
「何か、違和感を覚えないかい?」
宗一郎の問いに、視聴者たちは様々な反応を見せる。
一般人:ボロボロってこと以外は
一般人:↑同じく。元メンバーは?
元メンバー:考え中
元メンバー:あれ、もしかして……
一般人:↑何か分かったのか?
元メンバー:どこか庇ってる?
さすがは探索者、雅人たちと一緒に戦っていただけはある。
宗一郎は感心しながら、視聴者に答える。
「気づいた人もいるようだが、今、紫冥将はある一点を庇いながら動ている」
雅人たち元ALL幹部による連携攻撃に対して、紫冥将の防御は間に合っておらず、鎧の至る部分に傷を作っている。
それは雅人たちの連携の練度だけが理由ではない。一番の理由は、紫冥将の取っている極端な防御にあった。
一般人:庇ってる?
一般人:どこだ?
元メンバー:左胸
元メンバー:本当だ
元メンバー:よく見ると鎧の傷がない
そう。最後に元メンバーが言った通り、一番分かりやすいのは紫冥将が庇っている部分に傷がないことだ。
「庇うということは、そこには何があると思う?」
一般人:魔核!
「その通りだ」
雅人が戻って来る間、宗一郎を含む四人で攻勢をかけ、弱点が分かるところまで状況を進展させることができた。
「最初の質問に戻ろうか」
雅人たちは今、何をしているのか。
「野田くんたちは今、魔核を破壊するためにあらゆる手を尽くしている。そして、それ以外は俺には分からない」
宗一郎が告げた事実に、コメント欄が騒がしくなる。
一般人:それ以外分からないって
一般人:それ、俺でも分かるよ?
一般人:それでも全一か?
煽るような言葉に、宗一郎は自嘲気味に笑って見せる。
「言っただろ。格が違うんだよ」
あのレベルになると、宗一郎でも何をしているのか分からない。
四人の中に入れば少しは分かることがあるかもしれないが、恐らくそれでも一割か二割、理解できればいい方だろう。
実際、雅人が来るまでの宗一郎はそんな感じだった。
一般人:それで、勝てるの?
一般人:結局そこだよな
元メンバー:こればかりは何とも
元メンバー:だな……
実際、その点に関しては宗一郎も同意見だ。
確かに、雅人たちの実力は別格だ。
しかし、その実力を持ってしても、紫冥将の防御を突破できていない。
(このままでは、分が悪い……)
ゴーストは疲れ知らずだ。対して、雅人たちにはいずれ限界が来る。
加えて、押している状況とはいえ少しでも間違えれば致命傷を負うという状況に変わりはない。
肉体だけなく、精神的にも負荷がかかり過ぎている。
「やはり、野田くんが鍵か」
自分に代わり入った雅人。
この停滞した状況を変えるのは、彼しかいない。
一般人:野田、ガンバ
りかファン:雅人、りかちゃんが待ってる
元メンバー:↑まさかの公認?
一般人:ダンジョン前でいちゃついてた
一般人:↑今、話題になってる
宗一郎はイヤホンを外して、戦況を真剣に見つめるのだった。
※※※
紫冥将と戦闘を始めて5分弱。
押している状況ではあるが、状況は変わっていない。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「ああ!」
「ええ!」
「おじさん、まだまだやれるよ!」
幸い、四人ともまだ集中力は切れていない。
しかし、この状況が続けばいつかはこちらが危なくなる。
その前に、何か手を打たなければいけない。
「やっぱり、アレしかないか」
使えば、どうなるか分からない。
少なくとも、俺は戦闘不能になるだろう。
だが、やるしかない。
覚悟を決めて、俺は皆に告げる。
「皆さん、聖剣(仮)を本気で振ります」
俺の言葉に、三人は黙って頷いた。
聖剣(仮)の真の力が、今、解き放たれる。




