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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信する話  作者: 9bumi
4章 英雄の誕生

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第35話 英雄の誕生

 狙うは、紫冥将の左胸に輝く金色の魔核。

 俺は剣の切っ先をその一点に向ける。


「雅人。準備はいいな?」

「はい。いつでも」


 俺が答えるのと同時に、牧さんは地面を蹴り、それに宮辻さんと木戸さんが続く。


 久しぶりに見たな、皆の本気。


 三人の速さは今までの三割増しといったところ。

 この瞬間のために取っておいた正真正銘の本気の連携。


 初めて見る攻撃に、紫冥将は対応できない。

 三人の攻撃をまともに受けて、完全に体制を崩した。


「今だ」


 地面を蹴って、紫冥将の方へ真っすぐ向かう。

 剣道で面を放つ前のように、剣を頭の真上に構える。

 右手の感覚を補うために柄頭に左手を添える。


 そして、聖剣(仮)を紫冥将の胴体めがけて振りぬいた。

 

 聖剣(仮)の刃は、ゴーストの青い炎を切り裂きそのまま黄金の魔核へと接触する。


 思ったより、堅いな……


 これ、もしかしてダメなやつ?


 そう思った瞬間、魔核に小さな亀裂が走る。

 よかった、大丈夫なやつだ。

 

 刃が魔核の食い込んでいき、半分を過ぎたところで、そのまま勢いよく真っ二つに割れた。


「……っ」


 魔核を失い、兜の隙間から見える黄金の瞳が大きく見開かれる。

 そして次の瞬間、身に着けていた鎧だけを残して、青い炎は同色の粒子となって消えていった。


「俺たちの、勝ちだ」


 全く動く気配のない右手に代わって、俺は辛うじて動く左手を力なく突き上げ――


         ※※※


 あの紫冥将が消えていく。


 想像もしなかった光景に、上宗一郎はカメラを片手に言葉を失う。


 そんな宗一郎を他所に、コメント欄はお祭り騒ぎだ。


 一般人:雅人がやった!

 一般人:俺たちの雅人が!

 りかファン:さす雅

 元メンバー:↑新しい造語が

 元メンバー:野田呼びが消えたw


 普段から雅人の配信を見ていた視聴者や元メンバーが明るいコメントを残す一方で、それとは異なる雰囲気のコメントも見られる。


 一般人:負けろとか言ったやつは?

 一般人:出てきて謝らないの?


 実は、アイラの配信から来た元アイラファンや瀬ノ内ファンが、結構な頻度で紫冥将を応援するコメントを残していた。

 今となっては、配信から消えている状況だ。


 一般人:せっかくだし請求するか?

 一般人:いいな、それ

 元メンバー:↑やめとけ

 一般人:は、何で?

 元メンバー:幹部たちはそんなこと望まない

 元メンバー:学生リーダーの活躍が霞む

 一般人:↑な、なるほど……

 一般人:↑一理ある


 せっかく雅人が奮闘し、勝利をつかみ取ったというのに、裏で裁判沙汰が起きていたなど後味が悪い。

 さすがは元メンバーといえるコメントである。


 一般人:というか、同時接続数見た?

 一般人:戦い見るのに夢中で見てなかった

 一般人:なんか途中ヤバかったらしい


 戦いが終わった今は100万を少し超えている程度だが、雅人が聖剣(仮)を八割の力で使っていた時は300万を超えていた。

 それ以降は、雅人がボロボロになる姿を見れない勢が消えて落ち着いていったが、それでもダンジョン配信至上最高記録を大幅に塗り替える結果になった。

 ただ、配信者本人たちはその辺のところ、最近はどうでもよくなっている感じではあるのだが。


 一般人:おっ、紫冥将が消滅したぞ

 一般人:雅人が手を上げてる!

 りかファン:あれが覇王か

 元メンバー:覇王ってか英雄?

 一般人:↑英雄の誕生だ!


 雅人のパフォーマンスにコメント欄のテンションが最高潮に達する。しかし――


 一般人:あれ、何か様子が

 一般人:変、だな

 元メンバー:ヤバいかもしれない

 元メンバー:学生リーダー……っ!

 

 雅人は左腕を上げてすぐに、その場に背中から倒れそうになる。


「――っ、野田くん……っ!?」


 雅人の異変に気付いて、ようやく正気を取り戻した宗一郎が雅人を支えるために地面を蹴った。

 そして同時にカメラを手放し、カメラは思い切り地面に激突――配信は思わぬ形で終了となるのだった。


         ※※※


 頭が重いというか、痛いというか、何とも表現しがたい感覚に襲われる。

 この感覚が来るときは、大抵睡眠を取り過ぎた時だ。どうやら、長い間眠っていたっぽい。

 あと、背中から伝わる感触と消毒液の匂いから察するに、多分病院のベッドの上だと思う。


 とりあえず、僅かに重たい瞼を開けてみる。


「――っ、雅人くん……っ!」


 あれ、おかしいな。


「ここ、天国……?」


 視界の右側で、アイラが俺を見下ろしている。

 それに、雅人くんって……?

 

 どう考えても、ここがあの世で、その上天国なる場所でなければ到底説明がつかない現象だ。

 

 そうか、俺は……


「――さん」


 どうやら、この場にはもう一人いるらしい。

 視線だけを声がした左側へ向けると、そこには――


「雅人さん……?」


 里香がハイライトの消えた瞳で俺を見ていた。


「何だ、現実か」


 どうやら俺はまだ、生きているらしい。


「雅人さん。さっきの、どういうことですか?」


 里香が何やら俺に尋ねているが、俺は何も聞かなかったことにして瞳を閉じる。


 どうやら、まだ疲れは取れていないらしい。


 丁度いいタイミングで来た、抗おうと思えば抗える眠気に対して、俺は素直に従うのだった。


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