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“Amoeba Proteus msp. slimer”という魔物がいる。
数十センチから数メートルにもなる超巨大な単細胞の魔物だ。ポヨポヨとした球状をしており、細胞の一部を仮足を伸ばして移動や捕食を行う。
細胞内には魔石を伴う核が1つあり、そここの魔物の急所である。核のサイズはかなり個体差があるものの、魔石のサイズはどの個体もほとんど変わらない。
どこにでもいる魔物であり、生息域や食性などにより姿形は多種多様。中には酸や毒、重金属を体に溜め込む危険なものまでいる。つい最近では石油で体内を満たした個体なんかも見つかったらしい。
基本的に無害な魔物なのだが、増殖速度が極めて早いためほぼ毎日狩らなければならない。数日放っておいた結果、森から溢れ出たこの魔物に村を壊滅させられた例もある。
とは言っても、この魔物は動きも鈍く、攻撃もとても弱いため討伐するのは容易。最近では魔石の需要が急増したことにより、低ランク冒険者の生活費として狩られることが増えた。
あまりにも狩られるようになったため、絶滅防止に人工的に増やす試みもあるのだとか。人間とは勝手な生き物である。
「__というのがスライムなんだけど」
「前振りが長すぎる」
そう、この魔物は“スライム”だ。
……果たして、ここまで語る必要があったのだろうか。
根気強く読んでくれた人はありがとう。本当にありがとう。
「それで、この石がスライムだと?」
騎士の言葉にリナは頷く。
「ショウ……今日の水杖事故の被害者の人が教えてくれたんです。
この石、爆発前に“赤く”なって“『ピキ』と音がした”って」
それを聞きカインもピンときたようだ。
「なるほど、“攻撃色”と“魔法起動音”だね」
「うん。どっちもスライム特有の性質を示しているの」
と、理解できたのはカインだけ。
「……すみません。私たちにもわかるようにご説明いただけますか?」
「「あ……」」
商業ギルド長と騎士2人には何の話だかさっぱりだった。
これが普通の反応である。“攻撃色”も“魔法起動音”も一般的な知識ではない。というかそんなスライムに詳しい人、そんなにいない。
これだけで通じ合っているリナとカインとショウがむしろ変なのだ。
やーい変人。
“攻撃色”は攻撃をする際に体の色が変化する現象。
一部の魔物種にのみ見られるものであり、種ごとにその色が異なる。
“赤色”はスライムにのみ確認されている攻撃色だ。
また、“魔法起動音”は魔物が魔法を使う時に発する音のこと。人が“炎生成”や“刃風”などと口にして魔法を出すのと同じである。
この魔法起動音は魔物ごとに音の傾向があり、『ピキ』というガラスにヒビが入ったような亀裂音はスライムに多い音なのだ。
つまり、赤色の攻撃色を示し、『ピキ』という魔法起動音を出したこの石は、スライムである可能性が極めて高いということになる。
……そんなこと、さっき全く説明していないじゃないか。マジであの長文なんだったんだ。
改めて根気強く読んでくれた人はありがとう。本当の本当にありがとう。
「なるほど、リナさんたちの考察は理解できました。これがスライムというのも納得です」
それはそれとして、ギルド長たちにも理解してもらえたようだ。
「でも、こんなスライム見たことないわ。どこから捕まえてきたのかしら?」
「コレ、実験用のスライムじゃないですかね?」
そう答えたのは、リナではなくカインだった。
「そういえばカインって、学園時代に魔物研究室しばらく通ってたね」
「領地内に未知の魔物が出た時があってね、教授に話を聞きに行ってたんだ。
実験用のスライムの話もその時に。そこでは使ってなかったから、実物は見たことないんだけど……」
スライムはその単純な構造や体細胞分裂で容易に増やせる点などから、実験動物もとい実験魔物としてよく用いられている。
それは試験管で育つ大きさであり、騎士の手のひらにある石ぐらいのサイズ感なのだ。
「カイン様、もしそうだとすれば尚のこと大問題じゃないですか!!」
「今までの騒動全てが仕組まれたもの可能性まであるのね」
そんな話をしていると、周りのざわつく声が耳に入ってきた。
「場所を変えましょう。リナさんにもお話ししたいことがありますので」
商業ギルド長に案内され、リナ達は2階の応接室にやってきた。
騎士2人は部屋の外で待機してくれている。めちゃくちゃ話に参加したそうだったが、本来の職務は護衛なので諦めてもらった。
「例の点火杖の件で、爆発したものの工場に卸される魔石を調べたところ、共通する商会との取引がありました」
ギルド長から1枚の紙を渡される。
「マーシー商会……」
「比較的新しい商会ですね。魔石事業には早い段階で参入したようですが」
その商会はリナの知らないところだった。しかし、カインは違うようだ。
「ここって、アフール伯爵が立ち上げた商会でしたよね?」
「ええ、そうなんです。だから魔石事業に乗り出していたのには違和感がありまして……」
「??」
リナはカインとギルド長の話についていけなくなった。
「……アフール伯爵って?」
**
日が落ち始め、街中のカラスが森に帰っていく頃。
その森の先、大きな塔が天に向かってそびえ立っている。
アスタリア王国が誇る魔法研究機関、魔術塔。
魔法が大好きな研究者が集まり切磋琢磨していたこの場所も、今は魔法主義の貴族が支配する独善的な場所に成り果てていた。
「それで?必要数は揃ったのかしら?」
その一画、ビビアン=アフール伯爵令嬢は爪を塗りながら目の前の部下に尋ねる。
「もちろんです。あとはお嬢様の魔法を定着いただけましたら」
「そう。あとで運んできなさい」
塗った爪に息を吹きかけながら、反対の手で部下を下がらせる。
「ほんと、お父様も酷いわ。わたくしにこんなものを作らせるだなんて」
ビビアンは部屋の隅に目をやる。研究室とは思えない煌びやかな部屋には似つかわしくない、一周回って研究室らしい無骨な箱の中には、透明で小さな石が詰まっていた。
「でも、おかげでおもしろいことができたから許してあげる」
どんな人間も魔法の恩恵に預かれるという、魔法使いを冒涜する魔道具というもの。
その燃料によく似たこの石を市場にばら撒いたことで、人々に魔道具への不信感を芽生えさせることができた。
このふざけた道具を売り始めた商業ギルドにも打撃を与えられた。
「__あんたが悪いのよ。魔法は魔力を持つものの特権なんだから」
なまじ頭のいい彼女なら、もう原因くらいは特定した頃だろう。
だが証拠ももうじき消える。原因がわかったところで、ここまで辿り着くのにはもう遅い。
「__ねえ、リナ?あんたの作ったものが、大好きな人を傷つけるさまを見るのは、どんな気持ちかしら?」
石を転がしながら、ビビアンはクスクスと笑う。
その様子を、窓の外から1羽のカラスが眺めていた。
スライムの学名は創作です。
この世界ではアメーバ属として扱われています。




