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孤児院周辺の聞き込みを終えた騎士たちが帰ってくると、聴取室には先客がいた。
「あら、ごきげんよう」
「……なんでいるんですか、アイサファイエ嬢」
最近は騎士団と共に訓練をしている侯爵令嬢レイリーア=アイサファイエ。とはいえ、今日はここに来る予定はなかったはずだが……
「リナいるところにわたくしありですわ!!」
「お帰りください」
リナのことになると変なエンジンがかかるレイリーアである。
リナよ、ドン引きしてないで手綱を握りなさい。
「それで、リナの嫌疑は晴れましたの?」
「ナチュラルに聞いてきますね……まあいいです。とりあえず周辺の聞き込みの結果、殺害時刻にリナは孤児院にいたことは証明されました」
それを聞き、レイリーアは目を輝かせる。反対にリナはすごく嫌な顔をする。
「それはよかった!!ねえ、リナ。今から我が家に来ない?最近全然話せてないもの」
「お!それはぜひ……」
「待て待て」
二つ返事で行こうとするリナを引き止める。
「どうしたの?」
「アイサファイエ嬢、残念ですがリナは今すぐ帰らなければならないのです。怒られるために」
「お、怒られるため……?」
疑問符を浮かべるレイリーアに説明しようとする騎士は、涙目のリナと目が合う。
やめろそんな顔で見るんじゃない。こっちが悪いみたいじゃないか。
「こいつな、真夜中に実験しててどデカい音出したらしいんだわ」
「言われてしまった……」
リナのささやかな抵抗も虚しく、真夜中の大爆音事件はレイリーアにバラされる。
最後までそれを聞いたレイリーアは、そろりそろりと逃げようとするリナの肩をがっちりと掴んだ。
「リナ、送っていくわ」
「やだ!見捨てないでレイアっ!!」
「騎士団が警戒態勢とるほどの爆音はさすがに擁護できませんわよ!!」
こうして孤児院までドナドナされたリナ。
「え……?」
しかし到着した孤児院はそれどころではなかった。
「ちょっと、何よこれ……」
孤児院の柵は壊され、壁にも魔法が当たったのであろう穴や焦げ跡が見える。
庭の草も焦げて炭になっていた。
リナとレイリーアが呆然と見ていると、軋んだ音を立てて扉が開いた。
「あっ……あちゃー、帰って来ちゃったわね」
「リズ姉さん!よかった、無事だったんだね!」
「おかえりなさい、リナ」
リズベットはレイリーアにも優雅に挨拶したが、こちらはそれどころではない。
「ねえみんなは!?無事!?」
「もちろんよ。多少表が散らかってるだけだからそんなに慌てないで」
「多少ってレベルではございませんわよ!地形変わってるじゃないですの!!」
慌てふためく2人。しかし、リズベットが恥ずかしげに言ったその一言に呆気とられ、落ち着きを取り戻すことになった。
「これ、七割くらい私の魔法のせいだから……」
それはそれでどうかと思う。
**
みんなの無事を確認したリナとレイリーアは、ハルファウナとリズベットから何が起こったのかを聞いた。
ことの発端は聞き込みに来た騎士が帰った頃、孤児院に見知らぬ男女の集まりが現れた。
「危険な事故を引き起こす魔道具は即刻使用禁止にするべきだ」と話す彼らは開発者であるリナを出せと要求してきた。
しかし、リナは騎士団に連れられ不在。それを伝えたところ彼らは突然逆上し、「死の商人を庇い立てるのか」と、こともあろうか子供たちに向けて魔法を放ったらしい。
それがリズベットの逆鱗に触れ、撃退するために放たれた炎魔法が少し強火になったがこの惨状のようだ。
少し……?
鉄製の柵は溶けているし、地形も変わってますけど?
少しってなんだっけ……?
「子供たちを守ろうとするのはいいのだけれど、それで子供たちを危険に晒すのは本末転倒ですよ、リズベット」
「ごもっともです……」
ハルファウナに優しく説教され、リズベットは小さくなる。
「話を聞く限り、魔法主義の過激派連中ですわね。リナがその場にいなくてよかったですわ」
「そうですね。リナはぽやっとしているからすぐに攫われてしまうでしょうから」
「わたしぽやっとしてないよ?」
その発言には誰も返事をしない。
「わたしってぽやっとしてると思われてるんだ……」
「そんなところもかわいいわよ」
「嬉しくないよ……」
リナがぽやっとしているかはさておき……。
「魔法が使える者こそ優れた存在だ」とする魔法主義者にとって、誰でも魔法の恩恵を受けられる魔道具は当然よく思われていない。
そんな彼らにとって今回の事故は責めるための格好の理由になったようだ。
今回はちょうどリナが不在だったので助かったが、これからも狙われる可能性は大いにあるだろう。
子供たちに魔法を向けたところを見るに、リナの命を狙ってくる輩も出てくるはずだ。
「リナに騎士団から護衛をつけさせましょう。リナといえど、さすがに心配ですわ」
「そうですね。レイリーア様、お願いいたします」
「私からもお願いします」
レイリーアの提案にハルファウナとリズベットが頷く。
だが、ただ一人乗り気でない者がいた。
「ええー、そこまではいいよ」
正直なところ、護衛が付いたら動きづらいし無茶な実験は確実に止められる。
そう渋るリナの頭をレイリーアは小突いた。
「そういうところがぽやっとしてるのよ。騎士団じゃなければわたくしが近衛付きで毎日お泊まりに来るわよ……こっちの方がいいわね、役得じゃない」
「……ごめんなさい、騎士団にお願いする方向で」
「なんでよっ!!」
だってお泊まりしたら夜這いしてくるんだもん。まだ刺客に狙われた方がマシです。
「……まあいいわ。それでは、わたくしは騎士団に戻って話を通してきますわ」
「あ、ならわたしも……」
「ダメよ、リナは昨日の説教がまだでしょう?ここは私が……」
「ズルい、リズ姉さんだって……」
「リナ、リズベット」
こぞってレイリーアについて行こうとする二人。ハルファウナが名前を呼ぶと、彼女たちは同時に肩が跳ね上げた。
「逃げようとするなんて、二人とも反省が足りないようですね」
微笑んでいるはずなのに、目が全く笑っていない。ハルファウナに睨まれたリナとリズベットは縮み上がった。
「「すいません……」」
この二人、思考回路が似ているらしい。
**
「アリアちゃーん!注文頼むわー!!」
「はーい!ただいま参りまーす!!」
お昼のフラン食堂は書き入れ時だ。主に王都内で働く人たちがひっきりなしに集まり、注文が絶えない。
ショウもアリアも休む間もなく動き回る。知名度も上がってきた今、そろそろアルバイトを雇うべきかもしれない。
「ショウくーん!!お水お願いしますー!!」
「はいよーっ!!」
アリアにお願いされ、ショウは水杖を取り出す。
水魔法が得意ではない二人にとって、この魔道具は必需品だ。
これのおかげで一々井戸水を煮沸する必要もなくなり、冷たい水をサービスとして提供できるようにもなった。
本当に、リナには頭が上がらない。
「……っと、魔力切れか」
感慨にふけっていたら水杖から出る水が止まってしまった。
すぐに新しい水杖を開封し、コップに向けてスイッチを押す。
ピキ
「ん?」
……変な音がした。
不思議に思い水杖に目を向ける。
水は一滴も出ておらず、その代わりに透明なガラスカバーの中が赤くなっていた。
「ちょ、マジかよっ!!?」
その声と同時に、辺りが爆音と熱風に包まれた。




