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「クソッ!あんな話乗ったばっかりに!!」





 近くの木箱を蹴飛ばす。空の酒瓶がガチャガチャと音を立てて崩れる。




 いつもより多くタバコをふかしながら、マルクスは路地裏を歩いていた。




 先日、ミルバ・ミシックタイムズが報じた点火杖(てんかじょう)のスクープ。しかし、そのすぐ直後に商業ギルドが事故の原因と対策を発表。

 見出しに書かれた“魔道具の欠陥”などないことが判明し、人々の不信感は報道に向いた。



 その上、魔道具開発者リナの後見人であるソーディス侯爵家からも抗議文が届いた。ミルバミシックタイムズは正式に謝罪を行い、記事の削除を行った。





 その記事を書いたマルクスは責任を取らされ解雇されたのだ。





「何が“金になる”だっ!!あのクソ貴族が!!」



 近くにあるものを片っ端から蹴り飛ばし怒号を飛ばす。

 それも酒場から聞こえる喧騒にかき消される。それもまたマルクスの神経を逆撫でする。



 抑えきれない苛立ちのままあたりを蹴散らしていると、こちらを見る視線に気がついた。






「ん?」




 それは女だった。フードを目深に被っているが、そこからオレンジ色の髪がのぞかせる。

 その色は忌々しき魔道具開発者の色だ。マルクスはその女に掴みかかり押し倒す。




 あの女に似た髪の色をしたコイツをグチャグチャにしたら少しでも気が晴れるだろうか。



 そんな考えがよぎった時、自分の腹部が熱いことに気がつく。その理由に気がつき、マルクスは目を見開いた。




 そこには、赤く滴るものがついたナイフがあった。




「が……、キ……キサマ……!!」




 逃げる女に手を伸ばす。その手は届くはずもなく、裏路地の泥水に落ちた。








**







 その日もリナは徹夜をしていた。




 リズベットにお叱りを受けているところでドアベルが鳴る。





「はいどちら様……」




 扉を開けると、青い騎士服に身を包んだ男が2人立っている。青色の4番隊は刑事事件を担当する部隊のはずだが……




「リナだな。まあ聞くまでもないが」

「朝早くからお疲れ様です。どうしました?」



 普通ならもっと緊張しそうなものだが、なんというか気安い。

 さすが騎士団に出入りしまくっていた、いや今もしまくっている人間。この2人ももちろん知り合いなのである。




「いきなりで悪いな。この男に見覚えはないか?」




 騎士の1人が姿絵を取り出し見せる。そこに描かれている男性はリナの記憶にも新しい。




「ミルバ・ミシックタイムズのマルクス記者ですね。1度突撃されたことがあります」

「今は元、記者だけどな。昨日夜、この男が死んでいるのが発見されてな。その場からオレンジ色の髪をした女が逃げていったのが目撃されているんだ」





 そこまで聞いて、リナはピンときた。




「なるほど、わたしに疑いがかかっているわけですか」

「そういうことだ。すまないが、1度話を聞かせてくれないか?」

「わかりましたっ!リズ姉さーーん!!ちょっと出かけてくるーーっ!!」





 リナは嬉しそうに飛び出す。事情聴取にここまで乗り気な参考人も珍しい。



「コラーー!!まだお説教は終わってないわよーーっ!!」




 ……ただ説教から逃げたいだけだった。



「いいのか?」

「お願いします連れてって」







 そうしてうまく逃げ……連れてこられたのは物々しい雰囲気の建物。多少のことではビクともしない頑丈な石造りの外壁に囲まれており、採光にしか使えないような小さな窓には逃走防止用の柵がついている。



「相変わらず詰所とは思えない出立ちですね」

「元々監獄だからなぁ。おかげで全然休まらん」

「それはなんとも……おつかれさまです」



 そんな足のすくみそうな建物を前に、緊張感もへったくれもない少女が1人。



 魔法刻印の実用試験がこの詰所で行われていたのだ。何せ頑丈だから。

 そのため、リナはしょっちゅうここを訪れていた。





 慣れとは恐ろしいものである。





 薄暗い廊下を通り、聴取室に案内される。




「__さて、まずは昨日の夜11の時、リナは何をしていた?」

「11……先日の点火杖の原因調査をしてました」


「それを証明できる人は?」



 それを聞かれた瞬間、リナの肩が跳ねる。

 挙動不審になった彼女に騎士が声をかけようとしたその時、リナがボソッと言った。



「孤児院の、全員」

「……ん?」




「おっきな音が出まして、全員起こしちゃいました……」


「だから怒られてたのか……」



 違う事実が判明した。



「その後はリズ姉さんに寝るまで抱き枕にされていたので部屋から出ていません」

「うーん、そうか」



 リナいわく、密着していて暑苦しかったそうだ。

 ちょっと羨ましいと思ったのは内緒である。



「……とりあえず、孤児院の全員、それと近隣の住人にも夜中に大きな音を聞かなかったか話を聞いてみよう。すまないが、それまではココにいてくれ」

「はい、よろこんで!」



 リナはぱあっと顔を明るくする。



「証言が取れたらすぐ帰るんだぞ。悪いことした自覚があるなら逃げずに怒られなさい」

「……はーい」



 彼女が喜ぶ理由など明白だ。

 すぐに釘を刺され、リナはガックリ肩を落とした。







 聞き込みの結果、確かに夜中に孤児院から爆発のような音がしたという証言が得られた。


 あまりの音の大きさに、近隣どころか通りの向こうまで届いていた。なんだったら最も近い騎士団の詰所でも聞こえていた。

 その音は魔物の襲撃かと警戒態勢をとるほどのものだったそうだ。





 これでリナはマルクスの死亡時刻にアリバイがあることが証明された。

 そしてとんだ近所迷惑少女であることも証明された。











 やっぱりリナは怒られろ。







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