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「……なるほど、昨日コイツがリナに押しかけとったんか」
「うん、相談しようと思った矢先にこんなこと書かれるなんてね」
昨日の夜に受け取った名刺を商業ギルド長とトーリに見せる。
大手新聞社ミルバ・ミシックタイムズが取り上げた大スクープ。
『魔道具に重大な欠陥』『開発者は黙認か』などと大々的に書かれたそれの執筆者は、名刺の名前と同じマルクスだった。
「リナさんはこの記者と話を?」
「いえ。点火杖のことを聞かれましたけど、何も答えてません」
「その対応は正解やったけど、逆に利用されたな。こんなん、虚偽報道にもほどがあるやろ」
トーリがため息と共に新聞を机に投げる。
そもそも、事故が起きた昨日の今日で原因は未解明。事故を起こした点火杖に欠陥があったのかすらもわからない。
開発者であるリナは絶賛原因の解析中であり、黙認などしていない。
事情を知る者からすれば、偏向報道であることは明白だ。
「でも、何も知らない人からすればこれが真実だよ」
「そうなんよなぁ……ホンマ、やってくれたわ」
「すぐに新聞社に抗議しましょう。ソーディス侯爵家にも連絡を……」
「その必要はない」
ギルド長の言葉が終わるよりも先に扉が開かれた。
「コンラッド様!」
「早馬を飛ばしてきた」
そう言う彼は汗ひとつかいていない。なんて爽やかな御人なんだ。
「火消しはソーディス家に任せろ」
「ご迷惑をおかけします」
「気にするな、貴族連中相手ではよくあることだ。貴族など足の引っ張り合いが常だからな」
「それはそれでどうかと……」
何とも言えない気持ちになるが、この国の三大侯爵家の1つであるソーディス侯爵家が動いてくれるのはとてもありがたい。
「それで、この記事はどこまでが真実だ?」
「事故があったとこまでですわ」
「なら9割捏造か。この記者については?」
「昨日リナさんに接触してきたようです」
ギルド長はコンラッドにわかっていることを共有する。
それを聞き終えた彼は、リナの方を向く。
「リナ、そのマルクスという男に気になるところはなかったか?」
「うーん……
……あ、そうだ。1つだけ」
リナは思い出す。マルクスの質問には違和感があった。
「あの人、“爆発事故”だと知っていました」
それはほんの一単語だ。しかし、ギルド長とトーリはすぐに納得した。
「それは変ですね。ギルドが公表したのは事故があったことのみ、爆発だったことは伏せているはずです」
「爆発の規模もよくある“炎生成”暴発ぐらいやったし、そこにいたとしても魔道具が爆発したとはわからんわな」
点火杖が普及する前から“炎生成”の魔力操作を誤り爆発する事故は多々あった。
今回の一件だって、この手の事故と見た目はほとんど変わらない。壊れた点火杖を見るまで、商業ギルドの誰もが魔道具が爆発したとは思ってもみなかったほどだ。
それなのにマルクスは点火杖の爆発事故だと認識していた。
「どこからか漏れたか、最初から知っていたか……その男について、調べる必要がありそうだな」
そう話していたところで再び扉が開かれる。今度は息せき切らせた職員が汗だくで駆け込んできた。
「ギルド長、リナさん、大変です!!
__点火杖の爆発事故が、新たに3件発生しました!!」
「次から次へと……!」
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新たに爆発した点火杖は全て、昨日とは別の工場で生産されたものだった。
しかし、暴発の状況も残骸の様子はとてもよく似ている。
「問い合わせ等はギルドで対応いたしますので、リナさんは原因究明にあたってください」
「貴族共の相手は我々ソーディスが受け持とう。リナは安心して調査にあたってくれ」
「ありがとうございます、ギルド長、コンラッド様。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」
リナは2人を見送ると、すぐに作業を開始した。
それぞれの破片から、残った魔法陣を描き写す。それらを昨日のものと比べてみるが、魔法陣の形は全くと言っていいほど変わらない。
「そりゃそうだよね。ココが特許技術として登録されてるんだし」
同じ紋様の紙を4枚並べ、リナは頭を悩ませる。
魔道具の特許は、ほとんどがそれに使われている魔法陣に由来する。
なぜならココが違えば、発動する魔法が変わってしまうからだ。
だからこそ魔法陣に何か改造の跡でもあれば、それが爆発の原因になったかもしれないと思ったのだが。紙に描き写されたものを見る限り、それらはリナが示した魔法陣そのものだった。
作った本人だからこそ言える、これでは爆発など起こるはずもないのだ。
「う〜ん」
では魔法陣以外で爆発が起こる要素があるのかといえば、それも考えにくい。
魔鉄は魔力があるだけで魔法的な作用はしないし、木材も魔法植物由来のものではないから魔力も希薄だ。
爆発が起こせるはずもない。
魔石だって、魔法を暴発させる力はない。
そんな力があれば、それはもはや魔石の姿をした魔物である。
「うう〜ん」
こう言ってはなんだが、4つも爆発したのだから少しは何かわかると期待していた。
ところが、わかったことはわからないということだけだ。
「足りない……情報が足りないよ〜」
机に突っ伏すリナ。彼女が横に目を向けると、そこには回収された大量の点火杖が入った木箱。
「サンプルが増えたら、何かわかるかな……?」
そう思い立ったリナはすぐさまギルド長室に駆け込み、回収品の使用許可をもらってきた。
そして各木箱から10個ずつ点火杖をサンプリングし、実際に火をつけてみることにした。
「多いな……」
しかし取り出してみると、点火杖の数がすごい。
各箱から10個ずつとはいえ、箱がたくさんあるととんでもない量になるわけで……目の前の点火杖は1000本を超えている、気がする。
これを今からひとつひとつ調べていくのかと思うと気が遠くなる。
「手伝いましょうか?」
「うひゃああぁぁっ!?」
突然後ろから声が聞こえ悲鳴をあげる。
振り向くと、別のギルドの受付嬢がクスクスと笑っていた。
「ドッキリ大成功」
「な、ナナリーちゃん!?」
「お疲れ様ですリナさん。冒険者ギルドより助っ人がやって参りました」




