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コンラッドたち一行はジョッシュの案内で水杖の製作工程を視察している。
開発者であるリナがいる手前、ジョッシュは張り切って説明していくれる……のはいいのだが、専門用語がバンバン飛び出すせいでリナ以外はよくわからなくなっていた。
まぁリナが楽しそうに聞いているので良しとしよう。
なんだか視察の主役が変わってしまっているが、もはや誰も気にしていなかった。
「__こちらでは、杖の芯材に刻印を行っております」
ジョッシュに案内されたのは水杖の基部にあたるパーツに魔法陣を施す区間。
そこでは、職人が2つの工程に別れて作業していた。
「ほほぉ、魔法構造式と術式境界を分けて彫ってるんですね」
「ええ。鉄魔法が使える者は限られますから、なるべく分業できるようにしています」
ジョッシュの言うとおり、鉄魔法の所持者はあまり多くはない。
そのため、この工場では術式境界の枠部分を手作業で、魔法構造式の細かい部分を魔法で行なっていた。
各工程もリナの興味をそそるものばかりだ。
円棒の周りをぐるりと一周する術式境界は、回転する機械と突きノミを使うことできれいな筋を入れている。
形が複雑な上に線の太さも大事なる魔法構造式は、彫る溝のところをくり抜いてある布をパーツに巻き、鉄魔法での彫刻を容易なものにしている。
これを線の太さごとに分けて行なうことで、正確な構造式を描いているようだ。
どちらも量産するからこその工夫であり、1つ1つを考えながら作っているリナには思いつかない発想だった。
「先に術式境界を掘ることで、魔法構造式を作る際のガイドになり作業効率もよくなるのですよ」
「なるほど!誰でも作業が行える工夫、素晴らしいです!勉強になります」
「リナさんにそう言っていただけるとこちらも嬉しいです」
「それはよかったが……すまない、我々にもわかるように説明してもらえないだろうか?」
「……それもそうですね、つい。これは失礼いたしました」
置いてけぼりの男衆にジョッシュがわかりやすく説明している間、リナは回転する機械をまじまじと眺める。
すると、それに気がついた職人の1人に声をかけられた。
「嬢ちゃん、あの視察のお供かい?」
「はい、色々と勉強させていただいてます」
「ほぉー、そいつぁよかった」
そう言うと彼は席を立ち、リナに進める。
「やってみるか?」
「え!いいんですか!?」
「せっかく来てくれんだ、いい思い出になるだろ」
「わはー!ありがとうございます!!」
機械の前に座らせてもらい、軽くレクチャーを受ける。
ろくろを改造したというそれは、足のレバーをリズム良く踏むことでパーツを回転させる。
始めこそ手足のバラバラな動きに戸惑ったリナだったが、慣れるのも早い。少し練習をしただけですぐに動きをマスターし、そこからサクサクとパーツに溝を施していく。
「うまいな嬢ちゃん!もう1本やってみるか!」
「はい!」
パーツを変えてもらい、作業を続ける。
そのまま職人たちに紛れリナは溝彫りを進め、説明を終えたジョッシュが気づいた頃には箱いっぱいのパーツの溝を掘り終えていた。
パーツの交換もいつのまにか1人でやっており、リナに教えていた職人は彼女を置いて隣で作業していた。
「リナ、何やってんの……」
「あ、カイン。今ね、術式境界の溝彫りの体験をさせてもらってたの」
「体験って量じゃない!!」
リナの作ったパーツを見てカインが驚く。一体いつからやっていたのだろうか……もうバイト代をもらうべきだと思う。
とりあえず隣でコソコソ逃げようとしていた職人はジョッシュに怒られた。
「いやぁ、そうかそうか!お嬢ちゃんが魔道具の開発者だったのか!どーりで作るのが上手いわけだ!」
「上手いわけだ!じゃないですよ!なんでお客様に作業させてるんですか!!」
「せっかくだから体験を思って……」
「別にありますよ体験コーナー!!」
あるんだ。
「申し訳ありませんでしたリナさん」
「いえいえ、こちらこそ勝手に行動してしまいすいません。楽しかったです」
「楽しかったのですか……」
「はい!とっても!」
いい笑顔で即答するリナに、ジョッシュは呆気にとられ、カインたちは笑いを堪えていた。
ええ、単純作業は大好物です。
「それにしても、この機械はすごいですね。普段の何倍も早くできます。」
「普段はどのようにして?」
「突きノミでフリーハンドですね」
「……俺たちからすりゃその方がすげえよ」
その一言に、ついにトーリが吹き出した。
流石は学生時代からの数年を魔道具に費やした娘だ。
やり方が違う。
**
次に案内されたのは、水杖の燃料になる魔石の倉庫だった。
ここにいる中で最も背の高いコンラッドよりも大きなコンテナがところ狭しと並んでいる。
この中が全て魔石だというから圧巻だ。
「これ、何匹分なんでしょう……?」
「コンテナ1個でだいたい1万2千匹ぐらいでしょうか」
「それがひい、ふう、みい……8個……10万匹弱ですか」
魔物といえど、それだけの命が果てた跡がここにはある。
リナたちは思わず手を合わせた。
「ここを見た方は皆よくやるのですよ」とジョッシュも一緒に手を合わせる。いい人である。
「魔石は保管中に魔力がなくならないよう、定期的に魔法で保護をしています。おや、ナイスタイミング」
ジョッシュの説明を聞いていると、ちょうど魔法使いが保護の魔法をかけに来た。水魔法の使い手らしい彼女はコンラッドとカインの姿に目を見開く。
水魔法の名門と言われるソーディス侯爵家の人間がいる前で水魔法を使うのは緊張するだろう。それでもなんとか平常心を取り戻した彼女はコンテナに魔法をかけていく。
「なるほど、魔力水か」
「はい。魔力水に浸すことで魔石の魔力が安定するそうで」
「内外の魔力の濃度差が逆転しますからね。魔力も浸透圧のような現象がありますから」
「さすがリナさん、お詳しい」
ジョッシュに褒められリナは素直に照れた。
空気中の魔力量はごく僅かなため、魔石を放置すると徐々に魔力が抜けてただの綺麗な石になってしまう。それを防ぐために、ここでは魔力を込めた魔法の水に浸しているようだ。
「君」
「ひゃいっ!!な、なんでしょう?」
突然コンラッドに話しかけられ、魔法使いの女性の肩が跳ねる。
相手は大貴族、しかもソーディス侯爵家の嫡男だ。粗相などしようものならどうなるかわからない。
内心、どころか全身冷や汗ダラダラの彼女を前に、コンラッドは口を開く。
「なかなかいい腕をしているな」
「……ひぇ?」
その一言に、変な声が出る。
「詠唱も早く、水に内包された魔力も均等、それも魔石の魔力量に合わせて調整している。うむ、いい仕事を見た」
「……は、はい!ありがとうございます!!」
まさか褒められるとは思ってもみず、呆気にとられる魔法使いの女性。それでもすぐに気を取り直し、頭を下げる。
「お褒めの言葉、いただいちゃった……!」
すごく嬉しいそうな小声が聞こえてくる。
学園を卒業して2年、この地味な仕事に疑問もあった。この日から、彼女にとってこの仕事は誇りに変わるのだった。
「うむ、今のはいい感じに話せたのではないか?」
「兄上……」
そんな女性のことなど梅雨知らず、お褒めの言葉を言った本人は全く別のところで上機嫌になっていた。
コンラッドはその見た目と話し方から、どうにも畏まられやすい。
彼をよく知る者からすれば、先ほどのも世間話のノリで話しかけただけだとすぐにわかるのだが……なまじ地位と威厳があるのも困りものである。
「さ、次はこの魔石取り付ける工程に参りましょう」
そんなこんなでしばらくの後、パンッと手を叩きジョッシュは案内を再開する。
__ピキ
「……ん?」
みんなに続いて倉庫から出ようとしたリナはふと立ち止まり、振り返る。
何か今、小さな音が聴こえたような……
「どうしたの、リナ?」
「__いや、なんでもない」
まあこれだけ魔石があるのだ、バランスを崩して動くものくらいはあるだろう。今の音も、きっとそういったものだ。
そう結論付け、リナはカインたちのところに早足で向かった。
(魔物の幽霊……なんてことはないか……ないよね?)
考えたらちょっと怖くなったリナだった。




