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魔石の取り付け工程では、魔石を2つのパーツで挟み込む作業を行なっている。
しかし、魔石の形は千差万別。ただ挟むだけでは接触面積に差ができ、使う際に魔力のムラができてしまう。かといってカットも魔力が流れ出てしまうため不可能。
じゃあどうするか?
簡単な話だ。魔石の形に合わせて、受け皿の形も変えればいい。
「それ実現するのがこの熱可塑性魔鉄粉樹脂です」
「ねつ……なんて?」
「ねつかそせいまてっこじゅし。熱を加えるとやわらかくなる樹脂に、魔鉄の粉を混ぜたものだよ」
「その通り、リナさんがいると話が早くていいですね」
熱可塑性魔鉄粉樹脂は文字通り熱を加えることで何度も形を変えることができる。
魔力の伝導率はさほど高くないが、樹脂は魔力による影響をほとんど受けないために何かと使い勝手がいい。特に装置全体に魔力が流れる魔道具にとってはかかせないアイテムだ。
「ここではこの熱可塑性魔鉄粉樹脂を水杖の受け皿に詰め、熱加工で魔石を密着させています。
こうすることで安定した魔力供給を行えるようにしているのです」
ジョッシュの説明を聞きながら、加工場の様子を眺めるリナ。すると、樹脂の入った箱のロゴマークに目が留まった。
「おお、ハイディアマナクレイですか。わたしもこれ使ってますよ」
「リナさんもですか!!熱可塑性魔鉄粉樹脂はやっぱりハイマさんですよね!多少値が張りますが、きめ細やかで曲げにも強いですから」
「わかりますわかります!ハイマさんの使ったら他の樹脂使えなくなりましたもん!」
「いやあ、リナさんもお目が高い!」
そこから謎に盛り上がりはじめた2人を前に、カインたちは呆然としている。
「やばい何言ってるかわからない」
「これが職人の会話ってやつか」
「オタクの会話の間違いですやろ」
リナいわく、ハイマことハイディアマナクレイは魔鉄粉を使ったセメントや樹脂を扱うメーカーだそうだ。多くの国民は知らないだけで、城壁や鎧などあらゆるところにこのメーカーの製品があるらしい。
我々の生活は、こうした縁の下の力持ちによって支えられていることを忘れてはならない。
「あのー、そろそろ戻ってきてくれません?」
「「はっ、つい!」」
魔石のホルダーに透明なガラス製のカバーを付け、全てのパーツをビスで固定すれば水杖の完成だ。
水が出るだけである水杖は、点火杖や風砕機ほど強固な作りにする必要はなく、さまざまな意匠が施される見た目にも楽しい魔道具だ。
中でもこのガラスカバーは中の魔石が見えるため人気がある。
冒険者からすれば見飽きた魔石でも、一般人にはキラキラと宝石のようで美しいものらしい。「あれ、汚ねえゴブリンから出てきたんだぜ」とか言ってはいけない。
工程の説明を聞いた後、少しの間自由に見学させてもらう。お貴族様が作業場を歩き回っているので、作業中の者たちは内心冷や汗ダラダラだ。
リナだけは色々なところでマニアックトークに花を咲かせていた。
そんな中、作業場を回っていたコンラッドはふと気になるものを見つけた。
「これは?」
「ああ、使用済みの水杖ですね」
木箱に大量に入ったそれは、各家庭から集められた魔力切れの水杖。職人たちはそれらから魔石を外し、新しいものに付け替えている。
「あれも商品になるのか?」
「はい、あちらもリユース品として販売いたします。魔石の交換は普通の人では難しいので、魔力切れのものをデポジットを払って回収し、魔石を交換して再販しているのです」
魔法陣の細かい彫刻が必要な魔道具は生産に時間もコストもかかる。そのままでは、日常的に使うには手が出しにくい価格になってしまうのだ。
そこで商業ギルドは、魔力切れのものを回収してリユースすることで価格を抑えている。
買う側は割安で買うことができ、生産側も安定した供給が行える。まさにウィンウィンの方法だ。
それを聞きコンラッドは納得する。
「なるほど、酒の空瓶の回収みたいなものか」
「……えっ、あ、はい。そういうことです」
「どうした?」
「いえ、侯爵家の方の口から空瓶回収の話が出てくるとは思わなかったので……」
「貴族たるもの、庶民の動向にも目を向けねばな」
なんてことのないように言うコンラッドに、ジョッシュは感動する。
貴族の中には平民を下に見る者も多い。節約などは卑しい行為だと非難されることだって多々ある。
しかし、このソーディス家の次期当主は違う。平民の生活に目を向け、その暮らしを認めてくれるではないか。
彼らが後ろ盾になってくれているなら、魔道具はもっと多くの人に広まっていくはずだ。
「あージョッシュさん、なんか無駄にかっこよく言ってますけど、兄上はケチなだけです。何せ紅茶の出涸らし5杯いく人ですから」
「こら、バラすな愚弟が」
思った以上のケチだった。
しかし、こういう方だからこそ……いや出涸らし5杯は多いな。薄く色ついたお湯じゃん。
ちょっと感動を返してほしくなるジョッシュだった。
**
「あー、楽しかった!!」
帰りの馬車の中、リナは満面の笑みを浮かべる。
自分が世に送り出した水杖がどのようにして生産されているのかを知ることができ、工場ならではの工夫や職人の作業を間近で見ることもできた。
それに、普段はできないマニアックな材料トークなどもでき、大満足だ。
「有意義な時間ではあったな。リナたちの話はよくわからなかったが」
「リナが楽しそうでよかったよ。途中から話についていけなかったけど」
「ジョッシュはんも喜んでくれたし、リナを連れて行ったのは正解やったわ。話全くついてけへんかったけど」
「……申し開きもございません」
楽しくて話し込みすぎた自覚はある。3人を置き去りにしたことは素直に反省しよう。
「でもようわかったやろ、魔道具がどれだけ作られて、使われてるか」
小さくなっているリナにトーリが声をかける。
顔を上げ、それに答える。
「うん。こんなにたくさんの人が関わって、たくさんの人が使ってくれて、ほんとに嬉しい」
馬車の外を見る。
なんてことのない街並みに、魔道具は広く浸透し始めている。
飲み水に、灯りに、寒い日の暖に、料理に。平民でも湯浴みができるようになり、DIYを楽しむ人も増えた。
魔道具は、人の生活を確かに豊かにしている。
「__こうやって、どんどん魔道具が広まっていくといいな」
リナが呟く。
その小さな一言に、その場の全員が頷いた。
「なっていくさ、きっと」
**
「ふあ〜ぁ」
大きなあくびが出る。
まだ外も暗いが、朝ごはんの準備をする時間だ。
釜戸に火を入れるべく小さな杖を手に取った。
魔道具、点火杖。小さな火種が出せるこの道具は、火おこしの手間を大きく省いてくれた。
発売当初は割高な気もしたが、今ではなくてはならないアイテムになった。
今日もまた、いつものように点火杖のレバーを握る。
__ピキ
「?」
変な音がした。なんだと思ったその時、杖の中心が赤く輝き始めた。
慌てて杖から手を離してもその光は消えない。それどころか、光はドンドンと強くなっていく。
そして、次の瞬間__
轟音が鳴り響き、目の前が真っ赤に染まった
「リナ!大変や!!」
朝一で駆け込んできたトーリの叫び声でリナは叩き起こされる。
後に続く言葉は、リナの目を覚ますには充分だった。
「点火杖で爆発事故が起きた!!」




