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「ほう、切ったものから魔力を吸い取る剣か。おもしろいもん作ったじゃねえか」
少し遅めの昼食をとっていると、話題は魔改造された薄刃の剣マギアブレイカーのことになった。
なお、昼食は工房のお弟子さんが準備してくれた。ありがとうございます。
「魔法も切れるんか。ちょっと想像できへんな」
「__やってみる?」
「ほう?ええで」
「コラ、先に飯食えお前ら」
手のサンドイッチを置いて2人が構えると、口元にパン屑を付けたガーレンに怒られた。
確かに食事中にすることではない。2人は反省してサンドイッチをいただいた。
「ったく、魔法使いってヤツは熱を上げるとすぐ力試ししたがるんだから」
「そんなこと言ったらガーレンはんたち職人だって、熱中したらすーぐご飯忘れるやないですか」
「どうしよう、両方ともわたしに刺さるんですけど……」
そんなこんな言い合いながらも食事を終えたリナとトーリは、早速とばかりにマギアブレイカーの試し切りを始める。
その様子をガーレンは腕を組んで眺める。
自分の打った不良品の剣がリナの手でどうなったのか、とても楽しみだ。
「ほないくでー。“土生成”“土生成”“土生成”“土生成”“土生成”“盾土”“盾土”“盾土”……」
「多くないかなっ!?」
“土生成”の分厚い壁と“盾土”の巨大なタワーシールドが裏庭に乱立する。
裏庭に連れてきてよかった、とガーレンは内心冷や汗を垂らす。これを工房の中でやらせていたらとたまったものではない。
ガーレンは商会員としてのトーリこそよく知っているが、魔法使いとしての彼はほとんど知らなかった。まさかここまで息を吸うように魔法を使えるとは。
「やーいやーい、これるもんならきてみー」
「ムキー!」
……煽り方は悪ガキのそれだが。
そんな悪ガキに挑発されたガキが剣を片手に土の壁に切りかかる。
「ええんか?考えなしに突撃して」
「へ?」
「“刃土”」
その瞬間、土の壁から剣が生えた。
「おわあぁっ!?」
咄嗟に剣の腹で土の刃を受ける。マギアブレイカーの魔法陣が光り、その光を受けた刃は砂になって消えた。
「なんや、切らんでも吸収できるんか」
「そうだよっ!そうだけどっ!攻撃するなんて聞いてないっ!!」
魔剣マギアブレイカーの魔法陣は両面の腹に描かれており、切った際に切断面と剣の腹がすれ違うことで魔力を吸収する仕組みをしている。
そのため剣の腹で守った時も魔力を吸収することができるのだ。
そのことは、作った本人が一番よくわかっているのだが、いきなり攻撃されるとさすがに焦る。
睨みつけてやろうにも相手は土の壁で遮られて見えない。その向こうからカラカラと笑い声が聞こえてくるのが余計に腹立たしい。
「ええやんええやん、このくらいでくたばるリナじゃないやろ。
__その剣の力、隅々まで見させてもらうで。“刃土”」
その言葉と共に地面から大量の剣がリナに迫ってくる。
「……っ、お、おぼえてろトーリこのおバカーーーーっ!!」
リナは涙目でマギアブレイカーを振り回し、その全てを砂に変えていく。
すると、マギアブレイカーがうっすらと光を帯び始める。
「きた!仕返しの時間!!」
リナは柄頭を押し込む。瞬間、剣が風を纏った。
「モード“風”!一閃!!」
その言葉と共に振り下ろす。真空の刃が一直線に飛び出し、土の壁を切り裂いた。
「おおっ!」
これにはガーレンも声を上げる。
吸収した魔力を剣の強化だけでなく、同時に風属性魔法に変換して飛ばせるとは。先ほどまで明細書を読んでいたからこそよくわかる、あれは魔法刻印とは大きく異なる仕組みだ。
自分の打った剣は、1つの魔道具として生まれ変わったようだ。
「げ、3枚もっていきやがった!毎度毎度エグいなホンマ!!」
「うそぉ、3枚しか切れないのー!?もうほんと硬くてヤダー!!」
そんなガーレンをよそに、トーリとリナはそれぞれに嘆いていた。
だが、この一撃は戦局をひっくり返すには充分だった。ここからリナの反撃は勢いを強めていく。
土の壁も刃も、ただの剣なら折れそうなほどに硬いタワーシールドも、マギアブレイカーはまるで熱したナイフでバターを切るかのように切り飛ばし、砂に変えていく。
最後の一枚を真空の刃で真っ二つにし、リナはトーリに剣先を突きつける。
「__参った!降参や降参」
試し切りもとい模擬戦はリナの勝利に終わった。
「とりあえず負けたトーリは一発芸ね」
「なんそれ聞いてへん!?」
「いいじゃんいいじゃん」
リナはしっかり根に持っていた。
トーリは本当に一発芸をやらされた。不覚にもちょっと面白かった。
**
「あー、楽しかった!」
「特許書類書いてて楽しいなんてのたまう輩は、リナだけやろなぁ」
それから明細書の残りの内容を詰め、そのまま討論会が始まり、終わった頃にはだいぶ日が傾いていた。
「しっかしまたとんでもないもんをこさえたな」
「ん?マギアブレイカーのこと?」
「そうそうそれ。ネーミングはいつも通りの痛さで安心したわ」
「ひどい」
帰り道、話題はリナの腰に差した魔剣マギアブレイカーになった。
トーリはすぐ魔道具の名前をいじってくるが、彼のネーミングは「杖型飲用水生成器(水杖のこと)」「魔法式点火装置(点火杖のこと)」とものすごく機械的。
コイツのセンスも大概だとリナは思っている。
「これが量産されたら魔法使いの立つ瀬がなくなるんとちゃうか?」
「残念、細かすぎて量産できないんだなあこれが。
あと、できても使われないと思うよ。この厚みの剣じゃないといけないから折れやすいし、抜刀中は自分の使う魔法とか“強化”すら吸収しちゃうからね」
「なんや、ほんならほぼリナ専用っちゅーわけか」
「そゆこと♪」
ふふん、とリナは自慢げに剣に手を置く。
魔力がないことに劣等感を感じることは多い。
だが、それを逆手に取ってこうした無茶な魔道具が使えるのも確か。特異な身体だからこそ、それを存分に活かして生きていきたいものだと最近は思えるようになってきた。
「でもほんとは、わたし専用じゃなくて誰でも使えるような魔道具が作りたいな。わたしの夢は魔道具で誰かの役に立つことだから」
「ほんならその夢、今は少し叶っとるのかもな」
「そうだね」
水の魔道具「水杖」、種火の魔道具「点火杖」、風の魔道具「風砕機」、リナが世に送り出したこれらはすでに生活必需品になりつつある。多くの人の手に渡り、役立っている証拠だ。
魔道具の開発者としてこれほど嬉しいことはない。
「あ、そうや」
そう感慨にふけっていると、トーリが手をポンと叩く音で現実に戻される。
「なあリナ、今度水杖の工場の視察にいくんやけど、来るか?」
「なにそれ!いくいく!!」
「ソーディス侯爵様の付き添いって形になるからちょっと大仰になるけど、気にせんでな」
「それは構わないよ。ソーディス侯爵家にはこの件で色々お世話になってるもんね」
魔道具の特許を取得する際、カインたちソーディス侯爵家にはその後ろ盾と、特許申請者であるリナの後見人になってもらっている。
カインのペンダントのこともあり侯爵は喜んで引き受けてくれたが、リナはこのことを感謝してもしきれなかった。
「わたしが塔にいる間、かなり迷惑かけちゃってるよね……改めてお詫びしないといけないな」
「おー、行っとき行っとき。多分盛大に歓迎されるで」
「それは……ありそうだね」
リナにはその様子がありありと想像できてしまった。
そういう家なのだ、あの侯爵家は。
リナとソーディス侯爵家は家族ぐるみの付き合いだ。
侯爵夫妻からは娘のように可愛がられ、カインの兄君であるコンラッドとクレストからもよくしてもらっている。妹のレイラにいたっては、「姉様」と呼ばれ慕われているぐらいだ。
マリアンナ王女といい、なぜリナはこんなに年下のご令嬢に好かれるのだろうか……
兎にも角にも、ソーディス家はなんだかリナにものすごく優しい。詫びに行くのに歓迎されるなど本末転倒だが、あの家ならやりかねない。
それはそれで逆に申し訳ない。
かと言って、お詫びに行かないのはさすがにマズいし……。
どうしようとウンウン悩むリナの肩に、トーリはポンと手を置いた。
「遠慮しいのリナには、侯爵様くらい大仰な方がええやろ。心配かけたと思うならしっかり歓迎されとき」
「そうだね……今度ちゃんと謝ってくるよ」
「そこやそこ。なにも謝りに行かんでもええんとちゃうか?
こんな時は、感謝を伝えればええねんで」
「……そうか!それもそうだね!」
トーリのその一言に、リナはハッとする。
自分の罪悪感ばかりが先行し、詫びることしか頭になかっていた。
だが伝え方はそれだけではない。
その言葉をありがとうに変えるだけでよかったのだ。
「ありがとトーリ!やることわかった気がする!」
「おーよかったな。ワイへの感謝はパティスリー・アンネリーゼの爆盛りフルーツケーキパフェでええで」
「……そういえばトーリ、そういうの好きだったね」
彼は甘党だった。




