18
まだ日が登りきっていない朝方。
リズベットも眠っているだろうこの時間に、ハルファウナはいつも1人で朝ごはんの準備をしている。
「ハルさん、おはよー」
そんなハルファウナに声をかける者がいた。
「あら、リナ。今日は随分と早いのですね」
「いっつも寝坊気味だからさ。たまにはリズ姉さんやあの子たちを驚かせようと思って」
にしし、とイタズラめいた笑みを浮かべるリナ。
しかし、小さな頃から彼女を育てているハルファウナだ。リナが何かを隠していることはすぐにわかった。
それが何かも、だいたい見当がつく。
「リナ、また徹夜したのですね」
「……ソンナコトナイヨ?」
「目の下に隈ができていますよ」
「うそっ!? 1日ぐらいじゃできないはず……あっ」
「ほらやっぱり」
カマをかけたらすぐにボロが出た。本当にわかりやすい子だ。
ハルファウナはわざと笑顔でリナを見つめる。気まずくなった彼女は目を逸らし、音の出ない口笛を吹き始めた。
そのまま逃げようとしたところでため息を1つ。リナは肩が跳ね上がり、恐る恐るこちらの方を向いた。
ハルファウナはそんな彼女にゆっくりと近づき、その頭を撫でてやる。
「私ね、リナに熱中できるものができてうれしいのですよ。
魔道具が作れるようになる前は、あなたは本当に後ろ向きで卑屈な子でした。
それが今じゃ、こんなに明るくなって、魔道具で民の生活を支える存在にまでなったのですから。こんなにうれしいことはありません。」
「ハルさん……」
「でも、だからこそ、あなたが過労で倒れてしまわないか心配なのです。だってあなた、一度夢中になったら何日も徹夜するでしょう?」
「うっ……それは、ごもっともです……」
「次は気をつけなさいな」
「……はーい」
痛いところをつかれ、リナは小さくなる。それでも撫でろとばかりに出した頭は戻らない。
こういうところは今も昔も変わらない。
大きくなっても手のかかる少女に、ハルファウナはくすりと笑った。
「それで、今度は何を作ったのですか?」
そう問いかけると、しょぼくれていたリナの顔がパアッと明るくなる。
「見て、これ!題して『魔剣マギアブレイカー』!!」
リナは腰から剣を抜く。もちろん、周りに配慮はしてだ。ここキッチンですから。
「あら、剣を作ったの?」
「ううん、これはもらいもの。この剣に魔法陣を描いて強化したの」
ガーレン工房に行った際、工房主のガーレンからもらった薄刃の剣。リナはこれに徹夜で手を加えていたのだ。
……ネーミングに関しては、気にしないでほしい。
「前に研究してたのに、武器を強化する魔力刻印っていうのがあってね。それを改良したものをこの剣につけたんだ。
魔法だろうが魔物だろうが、切ったものから魔力が吸収できる優れもの!吸った魔力は魔法の刃にして飛ばすこともできるの!!」
「それはまた……すごいわねぇ」
魔法刻印を知らない彼女に向け少し丁寧な説明が入ったリナの話に、ハルファウナは関心する。
聖女だった頃に何度か戦いを経験しているハルファウナは、遠距離魔法の怖さを知っている。
それを吸収し、かつ反撃に転じれる剣というのは、なんと心強いことか。
「ふっふっふ、これでどんな魔物もバッサバッサと倒せるよ。全てこの剣の錆にしてくれよう、ふはははは」
そんなハルファウナの気持ちもよそに、リナは不気味な笑い声をあげていた。
……こういうところは、だいぶ物騒になったなと思うハルファウナだった。
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リナの思惑通り、リズベットも子供たちも早起きのリナに驚いていた。若干リズベットには疑われたが、ハルファウナは黙っていてくれた。ありがたし。
そして朝ご飯を済ませたリナはガーレン工房に向かっていた。
今日は魔法刻印の特許取得のため、明細書を見てもらう予定だ。一応トーリも来る予定。
せっかくなので、2人にもマギアブレイカーを見てもらおうとリナは腰に差し、ルンルンと歩いていた。
「おはようございまーす」
「おう、待ってたぜ!」
「ガーレンさん、本日はよろしくお願いします」
工房をノックするとガーレンが出てくる。一瞬ドキッっとしたが、もちろんハンマーは飛んでこない。
初対面がアレだったのでまだちょっと怖いリナである。
「おー、来たなリナ。ビリけつやから一発芸な」
「なにそれ聞いてない!?」
「冗談や……やろうとせんでええねん」
中に入るとすでにトーリが待っていた。約束した時間よりも早く来たはずなのだが、一体いつからいるのだろう。優雅にお茶飲んでるし。
「じゃ、早速始めるか」
「はい!ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」
「そんな畏まられるとこっちが緊張しちまうじゃねえか」
「え?ガーレンはんも緊張するんです?」
「おい……俺は結構繊細なんだぞ」
そんな話をしながら2人はリナの持ってきた明細書の草案を受け取る。
ガーレンはそれを眺め始める。それをリナはドキドキしながら見ていた。
正直、この時間が一番怖い。不備があるだろうか。どこを指摘させるだろうか。そしてそれに答えられるだろうか。
たった十数分のはずの時間がとても長く感じる。
すると、一通り目を通したガーレンが顔を上げた。
「うーん……よく出来すぎてて、俺が言えることほとんどねぇぞ、これ」
「……あれ?」
思った以上のお褒めの言葉をいただいてしまい、リナは拍子抜けしてしまう。
「そらそうですわ。これ王立騎士団に持ってってるやつやし。内容とかに問題はあんまないと思いますで」
「それ、俺いるか?」
「細かいところはやっぱ専門の目があった方がええですから」
「……いるか」
何だかトーリにいいように使われている気がしなくもないが、まぁいいかとガーレンは考えることを放棄した。
「細かいところで気になったの聞いていいか?」
「はい、お願いします」
その時、リナの緊張は緩んでいた。
だが忘れてはいけない。目の前の人物がアスタリア王国最高峰の職人だということを。
「んじゃ、まずはここだな__」
ここから怒涛の質問攻めが始まった。
しかも突いてくるところが非常に細かい。
重心を変える魔法陣をつけた際の金属にかかる負荷の計算。
硬質強化した刃が欠けた際の修復速度に規模とは別の微細なブレが生じる理由。
「突き」「薙ぎ」といった動作ごとの魔力供給差を修正する魔法陣の位置が武器の紋様などによってズレた際のより詳しい修正式。
エトセトラエトセトラ……
思いもよらぬところも多々聞かれたりし、リナは答えるので精一杯だった。しかもリナが打てば響く人だったために、興に乗ったガーレンの質問はどんどんと難しくなっていく。
だが、これがとてもおもしろいしためになる。
次第に質疑応答から討論会に変わっていき、熱中した2人は時間を忘れて語り合う。トーリに止められた時にはすでに昼を過ぎてしまっていた。
マギアブレイカーは忘れ去られていた。
不憫な武器である。




