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魔道具プレゼント回です
「__カイン、おつかれさま」
子供たちの勉強の時間が終わり、片付けをしているカインにリナが話しかける。
「リナ、ありがと。今日はお休み?」
「うん。作りたいものがあったから。
それでさ、今ちょっといい?」
「?」
かしこまった様子のリナにカインは片付けの手を止める。
少しの期待と、リナのことだから何かとんでもないことをお願いされるのではという不安がカインの中でせめぎ合う。
「あのね……これ、プレゼント」
上目遣いで渡された箱にカインは思わず固まる。
__まさかの期待の方だった!しかもすでに期待を上回ってきた!
「……カイン?」
「……ご、ごめん。いきなりで驚いちゃって」
「じゃあサプライズ成功だね」
にひっと笑うリナ。その無邪気な笑顔にカインも自然と笑みが溢れる。
「__君には敵わないな」
「ん?なんか言った?」
「いいや、なんでも
箱、開けていいかい?」
リナはうんうんと頷く。
青いリボンを解き、箱を開ける。
量産品のリボンだが、自分の髪色に合わせてくれたようでとても嬉しい。これだけでもしばらく見ていられそうだが、のんびりとしていたら中身を見て欲しいリナに急かされた。
「これは……魔道具?水杖に似ているけど……」
「さすがカイン、一目でわかるなんてね」
中を覗くと、そこに入っていたのは手のひらよりも一回り大きな魔道具。
ベースは市販の水杖のようだが、グリップやストックが新たに取り付けられており、トリガーも大きく作り直されている。まるで小さなクロスボウのようだ。
「これは水杖を戦闘用に改造した魔道具なの。
ほら、カインからもらっちゃったのあったでしょ?何か形にして返したくてさ」
「そんなこと気にしなくてもいいのに。というか、戦闘用なの?これ」
「うん。
__戦闘中にさ、2つの魔法が同時に使えたら、便利だと思わない?」
「!!」
その一言にカインは目を見開く。
2つの魔法を同時に使った戦いなど、考えたこともなかったからだ。
魔法は術者の『イメージ』と専用の『魔法名』が魔力を介して合わさることで発動する。
この『イメージ』は魔法ごとに独立している必要があるため、2種類以上の魔法を使うには並列思考を要求されてしまうのだ。
しかし、ヒトの脳では並列思考はできない。できても思考を交互に切り替えるマルチタスクだが、それではどちらの魔法もイメージが中途半端になり、その力は大きく弱体化する。
できなくはないが別々の方がはるかに効率がいい、というのが魔法使いの共通認識になっている。
だが、どちらの魔法も十全に発動できるのならば話は別だ。
「魔法使いが1度に使う魔法は1つ」という前提条件が覆り、魔法戦そのものが大きく変化するだろう。
それができるものこそが、このボウガンのような水杖なのだという。
「これはね“水生成”と“弾水”の魔法が使えるの。レバーで魔法の切り替え、出力の調節は水杖と同じ方法でできるからすぐ慣れると思う」
「なるほど……試し撃ちしてもいいかな?」
「もちろん!魔力尽きるまで、ガンガン撃ってって!」
「いやそこまではしないよ……」
カインとリナは孤児院の外にでる。的代わりに薪を立て、カインは魔道具を試してみる。
まずは“水生成”。切り替えレバーを持ち上げ、トリガーを引く。
ズジャァァァアアアッ!!
「……は?」
凄まじい勢いの水がまるでレーザービームのように薪を貫く。想像をはるかに超えたその威力にカインの開いた口が塞がらない。
「これで最低威力だね」
「これで!?」
「大丈夫、生活水用の威力が別にあるから!飲み水には困らないよ!」
ちゃんと水杖の機能も残しているとドヤ顔のリナだが、問題はそこじゃない。
最低でこの威力、並の魔法使いのそれよりも強いのだが。
これ最高威力は……
「最高威力なら岩が貫けるよ!」
だそうです。
なるほど、リナが武器だと言うのも納得だ。
次は“弾水”。
基本の魔法である“水生成”すらアレだったのだ、こちらも凄まじい威力なのは間違いないだろう。もう驚くまい。
と思いながら引き金を引いたその時__
薪が爆散した。
「……」
「どうでしょう?」
「……うん、すごいね」
なんてものをプレゼントしてきたんだこの友人は。
弾が速すぎて見えなかった。自分の使う“弾水”よりも速いと思う。
水魔法の名門ソーディス家の一員として、なんか負けた気がする……
そんな己のプライドが折れかねない弾速の魔法が、連射できてしまうのだ。サブウエポンどころか主兵装である。
本当になんてものをプレゼントしてきたんだこの友人は。
「なかなかいい武器でしょ」
「なかなかどころじゃない、ちょっと恐いくらいだよ……
でも、とても気に入った。ありがとう、リナ」
「こちらこそ。あの時の言葉、嬉しかったよ。
ありがとう、カイン」
塔から追い出されたあの日の不安な気持ちを聞いてくれて。自分の作ったものたちが人々の役に立っていることを教えてくれて。
それは誰でもよかったことなのかもしれない。でも、カインだったからこそその言葉が自分に届いた気がする。
だからこそ、カインにはちゃんと感謝を伝えたかった。このプレゼントもそのきっかけにすぎない。
だがしかし、面と向かって言うのはものすごーく気恥ずかしいことで。なんだか顔が熱くなってきた。その気持ちを紛らわせたくて、リナは少々強引に話を変えた。
「そうだ。その魔道具の名前、まだ決めてないの」
「そうなの?リナがつけた名前、結構好きなんだけど」
「おもしろがってるだけでしょ。いいから、カインがつけて」
「ええー、そうだなぁ」
カインは手の中の魔道具を見る。
銀色のボディには魔法陣以外にも細かい意匠が凝らしてあり、そこに散りばめられたコバルトブルーの飾り石が映える。
武器としての威力に驚かされてばかりだったが、この見た目も目を見張るものがある。
その装飾が夕日にキラキラと煌めく様子はまるで__
「『漣』……なんてどうかな」
「おお!わたしじゃ絶対思いつかないような名前!かっこいい!」
魔道具に負けないキラキラした瞳のリナが手放しで褒める。
恥ずかしくなったカインが目を逸らすと、胸のペンダントが輝いた。
「それにしても、ペンダントしかり、この漣しかり、リナにはもらってばかりだね」
「そんなことないよ。わたしだってカインにはたくさん助けられてる。魔道具はそのお礼なんだよ」
ちょうどその時、子供たちが夕食の時間を告げにきた。
2人揃って返事をし、歩き始めたところで、ふいにリナが振り返った。
「それに__カインなら信じられるから。わたしの魔道具を、正しく使ってくれるって」
それだけ言うと、リナは一足先に孤児院まで走っていった。「カインもはやくー!」という弾んだ声に応え、カインも駆け出す。
「本当に、君には敵わないな」
その呟きに、今度はリナは気づかなかった。




