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魔道具製作回です
「ふっふっふっ……」
孤児院の外、レンガで整地された小広場でリナは並べられた魔鉄板を前に笑い声を漏らす。
その様子をなんだなんだと、クロまめが覗き込む。
だが、それが悪かった。
リナにむんずと掴まれたクロまめは彼女に揉まれる。
「見てくれクロまめくん!商業ギルド経由で注文してた魔鉄板が届いたの!
さぁ、今日はこれで魔道具を作るよ!!」
「チューン!」
揉まれながらもクロまめは元気な返事をした。
クロまめも魔道具作りが気になるのだろう。そう解釈したリナはどこからか小さなエプロンを取り出し、クロまめに着せる。
「チューン?」
「ナナリーちゃんが作ってくれたんだよ。今度お礼言わないとね」
「チュン!」
冒険者ギルド受付嬢のナナリーは、クロまめのために時々何かを持ってくる。このエプロンは彼女のお手製なのだとか。
クロまめは愛されていた。なんだか重い気がするのは、まあ気のせいだ。
「……よし、クロまめくんも準備万端!魔道具作りと洒落込みますか!」
「チューン!」
リナちゃん、3時間メイキングのお時間です。テレレッテ♪
__この放送はどのスポンサーからも提供されておりません。
まずは図面の通りの寸法で魔鉄板をけがき、切り抜いていく。
この作業、鉄魔法なら簡単にできるのだが、魔法が使えないリナは地道に切るしかない。
「そこで、これを使います!
__『水車削る君』!」
「チューン……」
クロまめはリナのネーミングセンスにちょっと引いた。
魔道具『水車削る君』は、水魔法“弾水”の水流で丸い砥石を回し、その力で金属を切る魔道具だ。
これを使えば分厚い魔鉄板でも容易に切断することができる。
……できるのだが
「いくよー」
スイッチを入れた水車削る君を魔鉄板に当てた瞬間、
ギュワアアァァァァ……ァァァン!!!
魔物の鳴き声のような甲高い音が孤児院中に響き渡る。
「チューーー!!」
クロまめは思わず耳を塞ぐ。
「ちょ、ちょっと何やってんのリナーーっ!?」
シスターのリズベットも包丁持って飛んできた。
もちろんリナは怒られた。
そう。この魔道具、切断時の音がバカでかいのである。
「ふう、失敗失敗。ちゃんとみんなに言っておかなきゃダメだったね」
「チュー……」
「ごめんて」
クロまめに睨まれつつも、作業再開。
切り抜いた魔鉄板に魔法陣を描く作業だ。
この作業は大きく分けて3つ。
まずは、魔法陣は同寸法の紙に描いたものを転写。
次に、それに沿って溝を彫る。
最後に、粉にした魔石を溶かしたインクを流し込んで完成だ。
中でも溝を彫る作業は重要だ。
インクの削れを防ぎ、魔法陣を長期間維持するためには溝が必要。
しかし、魔法の使えないリナの場合、タガネとハンマーで地道に彫らなければならない。修正もできないので、少しでもずれたらイチから作り直しだ。
集中力も体力も使う、魔道具作りの肝となる作業である。
……鉄魔法なら、こんなに悩むことなくこの作業を終えられるのだろう。魔法とは本当に便利なものだと、つくづく思い知らされる。
「まあ慣れたけどね」
誰に向けたものでもないリナの呟きが空気中に溶けていった。
切り抜き作業の時とは打って変わり、コンコンとタガネを叩く音が耳に心地いい。
見ているだけのクロまめはだんだん眠たくなってきた……
……
…………
「おーい、クロまめくーん」
「チュッ!?」
リナに声をかけられクロまめは飛び起きる。
気持ちよくてついつい眠ってしまったようだ。溝を彫る作業は終わっており、魔鉄板には魔法陣の美しい紋様が彫刻されていた。
「チューン?」
だが、そこにインクは流し込まれておらず、彫刻は銀色のまま。クロまめはインク瓶をてしてしと叩いて疑問を呈する。
「ん?インク?……ああ、今回は粉魔石の定着の前に魔鉄板を曲げたりするの。
先に定着させるとひび割れたりしちゃうから」
「チューン」
なるほど、それもそうだ。納得したクロまめは魔鉄板とリナを交互に見つめ次の作業を期待するのだった。
ということで、次の工程は魔鉄板の加工だ。
切り出した魔鉄板のうち、3枚をU字型に曲げ、1枚を三角屋根の家のような形に折り曲げる。
ここで使うのがこのアイテムだ。
「じゃーん!パンチダイ!」
「チュー……ン?」
「わからんかー……」
わかるわけなかろう、そんな専門的なもの。
パンチダイは、プレス加工で使われる金型である。圧力をかけて押し出す「パンチ」とそれを受け止める「ダイ」からなり、間に金属板を入れることで成形を行うことができる。
「チューン?」
だが、パンチダイはプレスをするものがないと意味がない。圧力をかける魔法はあるが、リナは魔法が使えないしそういった魔道具はまだ持っていない。
じゃあどうするかって?
それはもちろん……
「パワー!!」
チュドーンッ!!
魔鉄板は見事にプレスされた!
クロまめはドン引きした。
……リナの名誉のためにも記しておくが、これはリナの力が人外ゴリラなわけではない。魔道具の力である。
リナの両腕には身体能力を増強する“強化”の魔法が刻まれたブレスレット『フォルスレット』(リナ命名)がついている。これによってリナの力は数倍から数十倍まで跳ね上がるのだ。
だからこれはリナ本来の力ではない。断じてない。
「チューン……」
「そんなに引かないでー……」
それでも十分ゴリラです。
今度から潰されないように気をつけよう、と決心したクロまめだった。
そんなこんなありつつもプレス成形は無事完了。
どんどんとクロまめとの距離が遠ざかっていったのは気のせいだと思いたい。
次は魔法陣にインクを流す作業。これはとても簡単だ。
粉にした魔石を溶かしたインクを溝に流し込む。インクを置くと毛細管現象によって魔法陣全体に広まっていく様子は、いつ見てもおもしろい。
これがあるから魔道具作りはやめられない。
クロまめも興味深々でインクが広がるのを眺めている。離れていた距離も、いつの間にか元通りだ。
「よーし、組み立てるよ!」
「チューン!」
パーツが揃い、魔道具製作も佳境へ。
軸にするのは水杖。再開したあの日、カインからもらったものだ。
これの魔石とスイッチを取り外し、新たにグリップとトリガーを接続。魔法陣を描いたパーツをグリップの前後に取り付けて固定。
新たにレバーを取り付け、トリガーを引いて動作確認。
ちょっと調整、再び確認。
しばらくこれを繰り返し納得のいく形になったところで装飾を追加していく。
「できたー!!」
出来上がったその魔道具をリナは化粧箱に詰める。青いリボンを結んで完成だ。
「チューン?」
自分が使うのではないのか?とクロまめは尋ねるようにてしてし叩いてくる。
その問いに、リナは口角を上げて答えた。
「これはね__」




