15
大男と冒険者達の言い合いはしばらく続き、最終的には声を枯らした冒険者達が悪態を吐いて逃げ帰っていった。
彼らを言い負かした大男は、全く疲れた様子もなく勢いよく扉を閉めた。バタンッ!!という爆音がリナの耳を突き刺す。
「よし、ほな行こか」
「え、うそっ!?もう!?」
その様子を呑気に眺めていたトーリが歩き出す。
リナは思わず彼の服を引っ張り、その足を止めさせた。
「ねぇ、大丈夫なの……?」
「大丈夫大丈夫、あんなん日常茶飯事や。
__あ、でも、ドア開けるまではオレの後ろにいた方がええで」
「言われなくてもそうするよっ!!」
あれほど激しい罵り合いを見た後だ。その場所に我先にと入れる度胸は流石に持っていない。
だが、トーリがこう言ったのは別の理由があった。
「ちわー」
トーリが扉を開けた時__
ビュンッ!!
奥からものすごい勢いのハンマーが!!
「にゃぁぁーー!!?」
「“盾地”!」
地面が迫り出しハンマーを受け止める。厚さ10センチはあろう土の壁にハンマーはしっかりとめり込んでいた。
「あ゛あ゛ん!?誰だぁ!?」
リナの悲鳴を聞き、大男が顔を出す。
2メートルはありそうな筋骨隆々とした文字通りの大男。
魔力量はさほど多くないのか、リナの目には少々暗く見えるのがそのシルエットをさらに際立たせている。
その姿は、まるで大きな熊のようだ。
そんな熊男にギロリと睨まれ、リナは思わずトーリの陰に隠れる。
しかし彼は入ってきたのがトーリだと気づくとその殺気を消し、大きなため息を吐いた。
「……なんだ、オルトリアのところの坊ちゃんか。またうちの床の形変えやがって」
「なら毎回確認もせずにハンマー投げるのやめてくれまへんかね?それ商売道具でしょうに……」
「何言ってんだ、これは投げる専用に決まってる」
「いやなんで投げる専用があんねん!?」
トーリのツッコミが、部屋中をこだました。
「__で、何のようだ?テメェはなんか用がないと来ねぇよな」
リナとトーリが落ち着いた頃、大男が尋ねてくる。
「それもそうですな。とは言っても、今日用があるのはこっちの小さい方なんですわ」
トーリは後ろに隠れるリナを引っ張り出した。
「このリナの作った技術の特許に一枚噛んでくれまへんか、ガーレンはん?」
その名前を聞き、2人は目を見開く。
「こ、この人があのガーレンさん!!?」
「こ、この嬢ちゃんがあのリナ!!?」
指を差し合い、驚愕の声をハモらせる。
それにも構わず、興奮した2人の話は止まらない。
「ガーレンさんといえば「リナといえば「王立騎士団にも「魔道具を開発し「武器を卸している「世間の注目を集めながら「この国最高峰の「その姿を一切見せない「武器職人さんでしょ!?「噂の娘だろ!?」
「何言ってるかわからへん!!1人ずつ話しせえっ!!」
結果、トーリの怒号が飛び出した。
**
「__つまり、その『魔法刻印』の特許を取りたいけど、明細書を書くのに協力者が欲しい、と」
「そういうことですわ」
一通り説明をしたトーリは、間髪を入れずにガーレンに尋ねた。
「で、受けてくれます?」
「おういいぜ」
「そんないきなりで返事なんて……え?」
まさかの即答が返ってきて、思わず素っ頓狂な声が出る。理由がわからず、リナは勢いよくガーレンの方を向く。
「魔法刻印ってちょっと前に騎士団で実証実験やってたやつだろ?ジ……騎士団のやつから少し見せてもらったことがあってな」
それを聞いてリナはハッとする。
興奮と緊張で忘れていたが、ガーレンは王立騎士団にも武器を卸している武器職人だ。
そのため、騎士団の誰か……たぶん騎士団長だと思うけど、から話を聞いていてもなんらおかしくはない。当時は特に口止めもしてなかったし。
「魔法で武器をカスタマイズできるっつーのは斬新でおもしろい。子供騙しではなく、しっかりと効果もあるしな。
広めるっつーなら協力してやってもいい」
「!!ありがとうござ」
「……と、言いたいところだが、一つ条件を出させてくれ」
手放しで喜ぼうとした矢先、ガーレンの重々しい声が届く。
彼は何も言わず奥の部屋に入っていき、しばらくすると一振りのロングソードを持って戻ってきた。
「リナ、これを振ってみろ」
ガーレンはリナに剣を渡すと、その場に試し切りに使う木人を準備し始める。
「……それが、条件ですか?」
「ああ、それだけだ」
受け取った剣とガーレンを交互に見ながら尋ねるリナに、彼はこちらを見ずに頷いた。
「剣をどうこうするものを作ったヤツが、当の剣を使えなかったらそれは机上の空論に過ぎん。この話は終わりだ。
__お前の剣の腕を見せてみろ、リナ」
ガーレンは立てた木人を軽く叩く。準備ができたようだ。
リナは改めて受け取った剣を見る。まるで鏡のような刃に自分の顔が映った……自分、真っ黒だけど。
しかしこの剣、長さのわりに随分と軽い。その理由は刃を傾けるとよくわかる。
恐ろしいまでに薄いのだ。
普通、ロングソードの刃は7〜10mmほどの厚みがある。しかし、この剣の厚みはそれの半分もない。よく折れ曲がらずにいられるものだ。
この薄さ故、切れ味は相当良いのだろう。だが、これでは切る角度が少しずれるだけでも折れかねない。
まさしく、使う側の技術が求められる剣だ。
しかし、リナの感想は少々違った。
(……この剣、使いやすいかも!)
そう思い、軽く素振りをしてみる。ヒュッという高い音と共に剣が空を切る。
その感覚に、自然とリナの口角が上がった。
「__いきます」
リナは剣を構える。
ガーレンが離れたのを確認したリナは、一瞬で木人に肉薄。
ほとんど音もなくその胴体を袈裟斬りにする。
その動きにガーレンは関心するが、リナの剣撃はそれだけにとどまらない。
手首を返し、宙に舞う上半身を斬り飛ばす。
そこからさらに2撃、3撃を加え、木人の上半身は粉々になった。
「ガーレンさん!この剣すごいです!!」
ポカンとしているガーレンをよそに、リナはぴょんぴょんとはしゃいでいる。
「軽いのにしっかりしていて、切った時の反動もほとんどない!こんなに切るのが楽しい剣初めてです!!
これで魔物を切り捨てたら、さぞ気持ちいいんだろうなぁ……!!」
まるでときめく乙女のような表情で、物騒なことまで言い始めてしまった。
「……フッ、ハハハ」
しばらく呆然とリナを眺めていたガーレンだったが、やがて小さく吹き出した。次第にそれは大きな笑い声に変わっていく。
「ガハハハハハ!!そうかそうか、コイツが使いやすいときたか!!」
その声でリナは我に返る。
「す、すいません!借り物なのに……」
「気にしなくてもいいぞ。そいつは不良品で返ってきたやつで、鋳潰す予定のもんだからな」
「ええっ!?そんなもったいない!!」
事情を聞いて剣を労り始めたリナを横目に、それまで傍観していたトーリがガーレンに近づく。
「で?ガーレンはんのお眼鏡にはかないました?」
「……ああ、もちろんだ」
「だってよ、よかったやないかリナ」
「え?あっ、うん!ありがとうございます、ガーレンさん!!」
「……忘れとったな」
トーリに痛いところを突かれ、リナは逃げるように木人の破片を回収しに行った。
「トーリてめぇ、こうなるのわかってたな」
そんなリナの様子をおもしろそうにながめるトーリにガーレンが話しかける。
「そりゃもちろん、リナとは付き合い長いですから。
そういうガーレンはんこそ、あんなうっすい剣渡して、失敗させる気ぃやったんですか?」
「女でも振れそうな剣がアレしかなかっただけだ。正直、剣を振る姿勢が素人じゃないかを見たかっただけだからな。……まさか使いこなしてくるとは思わなかったが」
「ま、それがリナという生物ですわ。予想の斜め上をかっ飛んできはる」
「……そうかよ」
ガーレンは頭をガシガシと掻くと、リナを呼ぶ。
とてとてとやってきたリナは鞘を渡される。
「これは……この子の鞘?」
「いきなり試すような真似した詫びだ。その剣を使ってやってくれ」
「いいんですか!!?」
リナの顔がぱあぁと明るくなる。随分とこの薄刃の剣を気に入ったようだ。
「お古で悪いな、好きなように使ってくれ。それこそ、魔法刻印とか実験にでも……」
「いえいえ!こんな綺麗な剣を実験に使うなんてもったいない!!
魔法刻印を施しても良いと言うのなら、わたしの持て得る限りの知識と技術を使い、強力無比な剣に仕上げてみせます!!前の持ち主が羨んで、返して欲しいと懇願してくるほどの剣に!!」
「お……おう……」
鼻息荒く迫ってくるリナにガーレンは気圧される。それトーリが爆笑しながら眺めていた。
リナは本当にこの剣を気に入ったらしい。
ハモって何を言っているのかわからない2人のセリフは
「ガーレンさんといえば王立騎士団にも武器を卸しているこの国最高峰の武器職人さんでしょ!?」
「リナといえば魔道具を開発し世間の注目を集めながらその姿を一切見せない噂の娘だろ!?」
と言っています。




