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 騎士団長ジークハルトと“魔法刻印”の話をしてから一週間後。




 ジークハルトに呼ばれ、リナは騎士団本部にやってきた。

 きっと魔法刻印の実用試験についてだろう。企画書や技術サンプルの剣などを手に、リナは意気揚々と目の前の大きな建物に入っていく。






「リナちゃん、その……気を落とすなよ」




「悪いのは全部騎士団長だからな、リナはなんも悪くねぇぞ!」




「砕けたかけらは拾ってやるからな……!」






 ……なんだか、すれ違う騎士たちにものすごく慰められるのだが。

 最後砕けること前提だし。






 そこはかとなく嫌な予感がしながら騎士団長室に到着したリナは、その中を見て即座に察した。




 見惚れるほどのいい笑顔をしている薄い青髪の青年と、その横で小さくなっている騎士団長。




 __なるほど、みんなはこれを見てしまったのか。





「お久しぶりですね、リナさん。先日は騎士団長がどうも」

「……お久しぶりです、クレスト副騎士団長」









 王立騎士団副団長クレスト=ソーディス



 三大侯爵家が一つ、ソーディス家の次男でカインのお兄様。



 組織の運営を担っている騎士団の縁の下の力持ちで、騎士団長を含めたクセの強い騎士たちのまとめ役。

 特に勝手な行動が多い騎士団長ジークハルトは彼によく叱られているのだが、これがとても怖い上に、少しでも関係していると見事に飛び火してくる。






 そう、今のように。





 勝手に実用試験の約束をしてしまったリナもまた、クレストの不興を買ってしまったようだ。




「それで、リナさんはどんな企画書を持ってきてくださったのですか?」

「……ハイ、コレデス」



 内心冷や汗まみれのリナは、言われるがままクレストに企画書を見せる。

 それを一瞥した彼はにっこりと笑顔で言った。



「__この企画は、受けられませんね」


「そんなっ!!?」




 優しく突き返される企画書にリナはショックを受ける。




「ど、どこがいけなかったのですかっ!?」

「どこというか、この企画自体ですね」



 それはもうどうしようもない。




「……あまり構えないでください。言い出したのはうちの騎士団長なのですから。ね、団長?」

「……そうだな」



 王国で一二を争う屈強な剣士であるジークハルトが、蛇に睨まれた兎のように震えている。自分が来るまでの間に騎士団長は何を言われたのか。



 気にはなるが、確定で蛇が出る薮はつつきたくないのでリナは黙っていることにした。




「それを踏まえて、この企画は前提がおかしいのです。だってこれ、リナさんが騎士団に報酬を支払うことになっているじゃないですか」

「まあ実用試験をお願いしているのはわたしですからね」

「ですがそれだと、こちらに利がありすぎるのですよ。試験とはいえ魔法刻印の剣を使わせてもらえる上に、報酬までもらってしまっては」


「それは……そうですね」




 元はといえば魔法刻印の特許が通るまでの繋ぎとして騎士団に魔法刻印の剣を渡すための方便である。

 なのにリナが報酬まで渡すというのは確かに頓珍漢な話だ。



「でもお金ならありますよ」

「貯めておきなさい」

「はい、すいません」



 一度言ってみたかったセリフを見事に一蹴され、リナはしょげた。


 しょもしょものリナに、クレストは優しく語りかける。




「__本音を言えば、とてもありがたい申し出なのは間違いありません。

 騎士団としても、私個人としても、魔法刻印の効果は目を見張るものがありますから。


 ですが、あなたが身を削ってまで急ぐ必要はありません。あなたの大切な研究なのですから、あなたのペースで進めていただくのが一番です」



「……クレスト様、ありがとうございます」




 元気を取り戻したリナは企画書を鞄にしまう。



「そうですね、まずはちゃんと魔法刻印の特許取得を目指します!

 それで取得できましたら、また騎士団の装備に付与する話をさせてください」

「ええ、お待ちしてます」


「よし!そうと決まれば、商業ギルドや友人の商会に相談してみます!」



 「失礼します!」とリナは勢いよく騎士団を後にした。



「自分のペースでいいと言ったそばから……」

「あれがリナのペースなのだろう。我々は見守るだけだ」


「焚き付けた人が何を言っているのです?」

「……すまない」







**






「勢いでこんなトンデモ技術持ってくんなーーっ!!」




 善は急げとトーリに突撃したリナは、今度こそしっかりと怒られていた。


 


 描くだけで代償もなしに剣を強化できる魔法刻印。

 魔道具に引き続き世界を変えかねない技術を遊びに来たノリで持ってくるものだから、聞かされる側もたまったものではない。



 いつものことなので慣れてはいるが。

 諦めたトーリは、すでにほとんど完成している申請書類に手を伸ばした。





「……これ、特許でええんか?これなら論文書いた方がええと思うけど」



 すでに用意されている明細書の素案を眺めながら、トーリは言う。



「本当はそうしたいんだけどね。これ魔術塔にいた頃に打ち切られた研究なんだよ。

 今、論文を提出しても認められないと思ってさ。だったら魔道具と同じく特許の形にした方がいいかなって」


「へえ、リナにしちゃよう考えとるやないか」

「失礼な!わたしだってちゃんと考えてるんだよ」

「ちゃんと考えとったら、『特許取ろうぜー』って突撃はしてこんやろ」




 それを言われるとぐうの音も出ない。




「まぁええわ、この話乗ったる。こんなおもろいもん他に持ってかれてもイヤやからな」

「ほんと!?ありがとうトーリ!」



 ぱあぁ、と表情を明るくするリナ。

 どうせトーリが乗ってくることはわかっていただろうに、この顔をされるとなんとも憎めない。



「しっかし、乗るといっても今回は難しいかもわからんなぁ……。武器関係はオレの管轄外やし」

「トーリって生活用品の担当だもんね。だから魔道具の時はお世話になったんだけど。その節は大変お世話になりました」

「ええねんええねん、たまたまマッチしたんやから。けど、今回のこれはそうもいかんからなぁ。明細書見てもよおわからへん」




 魔道具と魔法刻印は根本は同じ魔法陣だが、その用途は大幅に違う。



 片や殺傷能力を極力廃し、誰でも使える汎用品。


 片や殺傷能力の向上を目的に、使う人に合わせて調整する一点もの。



 必要とされる知識も視点も、トーリでは足りない。





「よし、あの人に頼むか」


「あの人?」

「武器のことなら武器工房や。ついてきぃ」



 トーリに連れられるまま商会を出て、やってきたところは



「テメェらに儂の武器など1000年早いわ!とっとと失せろガキども!!」


「んだとジジイ!言わせておけば!!」

「おれらは大銀級冒険者様だ!さっさと武器作りやがれ!!」


「うるせぇ!!なーにが大銀級冒険者様だ、儂から見りゃ全員ひよっこもいいところだわ!!このガキ!!」

「ガキガキ言うなクソジジイ!!」

「クソガキにクソ言われたくないわ!!」





 壮年の大男と柄の悪い冒険者パーティがギャーギャーと罵り合っている最中だった。



「あーあ、またやっとるわ……」

「あわわ……」





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