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 クラウスとマリアンナが眠気を覚えたため、謁見はお開きとなった。


 クロードはもっと話したいようだったが、国王としての執務がまだ残っているとフェリエスに連れて行かれた。




 王妃、強し。






 そして、リナは騎士団長ジークハルトとレイリーアに連れられ、騎士団本部にある訓練所を訪れていた。

 本部とはいっても、王城の真となりなのでほとんど移動はしていないのだが。




「よ、リナちゃん。久しぶり!」

「サイモンさん!お久しぶりです!お子さんは元気ですか?」

「おーよ!最近『パパ』って呼んでくれるようになって、もうかわいいのなんの!今度また合わせてやるよ!」

「いいんですか!?わーい!」




「あら、リナちゃんじゃない」

「お久しぶりですカーラさん!髪、切ったんですね。カッコいい!」

「邪魔だったから切っただけだけど…そう褒めてもらえると嬉しいわね。そういうリナちゃんは……何も変わってないわ。なんだか安心するくらいよ」

「と、思うでしょ?ふっふっふ、実は変わっているんですよ。なんと!背が1センチ縮んだんです!」

「なんで縮んだのよ!?」




「リナじゃないか!元気してたか?」

「元気ですよー!マックスさんは…うん、聞くまでもないですね!」

「ははは!しっかし相変わらず細いなー。ちゃんとメシ食ってるか?」

「ちょっと、今のはセクハラ発言よ!リナに謝りなさい!!」

「まぁまぁ、事実だし。というかレイア、わたしより怒るじゃん……」




 訓練所のいたるところで騎士たちに声をかけられる。この場には騎士団長もいるのだが、皆がリナのことを待っているのも知っているので見て見ぬふりをしてくれている。



 リナはずいぶんと騎士団に気に入られていたようだ。






 久しぶりの面々を前に、リナも会話が弾む。

 楽しそうな親友の姿を見れるのは、レイリーアも嬉しい。




「……むぅ」



 しかし長い、長すぎる。

 自分だってまだ全然話し足りないと言うのに、みんなして話しすぎだ。





 レイリーアはだんだんおもしろくなくなってきた。

 


「えい」




 我慢が限界に達し、レイリーアはおもむろにリナに抱きついた。




「なーに、レイア?どうしたの?」

「べつにー…」



 そう言いながらも彼女の頬はぷくーっと膨らんでいく。



「動けないよー」

「動けなくさせてるんだもん……」

「えー……」



 くっついて動かないレイリーア。

 こうなった彼女は中々に面倒くさい。



「ジークハルト様、どうしましょう?」

「そのまま着いてこい。お前ならできるだろ」

「えー……」







 レイリーアを引きずりながら歩くこと数分、到着したのは騎士団の武器庫。




 手入れの行き届いた剣や弓が並ぶ中、リナは見覚えのある剣が目についた。



「これって……“魔法刻印”じゃないですか!!」



 それは、かつてリナが騎士団に協力をお願いした研究“魔法刻印”が施された剣だった。






“魔法刻印”は鉄魔法を重ね合わせた紋様を剣に描き、外付けの魔道具のようにする方法である。



 剣を振った時に魔法が発動し、剣の鋭さや硬さを調節。より強化された一太刀を相手に叩き込むことができる。

 しかも空気中の魔力を使うため使用者の魔力負担は0。さらには刃こぼれがしにくくなる。剣が折れにくくなるといった副次効果まである。


 描くだけでどんな剣でもほぼノーコストで強化、長持ちさせることができるという、剣士垂涎の夢のある研究だった。



 しかし、剣の素人だったリナでは検証ができない。

 そのため師匠を通して騎士団に実用試験の協力をしてもらっていたのである。






 そんな魔法刻印も魔術塔の所長が変わった際、『剣に魔法など不要』だとこの研究は打ち切りに。騎士団に預けていた剣も回収に行けずそのままになってしまっていた。




 とっておいてくれているとは思っていたが、まさか武器庫のど真ん中に置いてあるとは。





「ずいぶん使ってくださったんですねぇ」



 剣を手に取りまじまじと眺める。

 どの剣もボロボロになるまで使い込まれており、何本かはヒビが入ったり折れたりもしていた。



「相談はこれについてだ」

「……ということは」

「ああ。研究の打ち切りで頓挫していたが、そろそろこの魔法刻印の武器を正式に騎士の装備に組み込みたくてな」



 それを聞き、リナは納得する。


 王立騎士団に実用試験をお願いした魔法刻印は、魔術論文発表後に騎士団が正式に配備する約束になっていた。

 説明に持っていったサンプル品をジークハルトがいたく気に入り、ファウストがすかさずこの約束を取り付けたのだ。



 しかし、その研究も魔術塔が打ち切りに。その約束も果たせなくなっていた。



「リナが魔術塔から出てきた今、障害になるものはなくなった。今なら配備できるのではないかと思ってな」


「その節はご迷惑をおかけいたしました」

「悪いのは魔術塔の者どもだ。お前が謝ることではない。



 __それで、できそうか?」




 その問いに、リナは首を横に張る。



「今すぐとなると、難しいですね」

「何か問題があるのか?」


「この技術を保護できるものが何もないんですよ。魔術論文として発表できていればすぐにでもできていたんですけど……」





 有用な技術や手法は真似をされるのが世の常だ。



 しかし、皆が勝手に真似をすれば開発者が不利益を被ってしまう。

 それに、見よう見まねで作られたものは何が起こるかわからない。大事故が起きてしまっては遅いのだ。



 それらを防ぐために、論文なり特許なり、その技術を保護できるものが欲しい。





 だが、それを取得するには時間がかかる。

 手っ取り早いのは商業ギルドを通じて特許をもらうことだが、それでも一年は要するだろう。



 気持ちではすぐにでも魔法刻印を施したいが、そういった問題がそれを妨げていた。




「それもそうだな、残念だ……」

「すいません、ここだけは譲れなくて」

「いや、正しい判断だ。むしろ私が性急だったな」



 そう言うジークハルトは明らかに萎んで見える。

 なんだかかわいそうになってきた。



「……一つだけ、方法があります」

「なんだっ!?」


 思ったよりも勢いよく食いつかれ、リナは気圧される。



「えっとですね……実は、魔法刻印をほんの少しだけいじったものがあるんです。でも、それの実用試験はしてないんですよ」

「なるほど、その実用試験を我々で行うというわけだな」

「そういうことです」




 その実用試験の間に特許を取れば、今度こそ正式に騎士団の装備に魔法刻印を施すことができるはずだ。



「よし、それでいこう。私は事務や経理部に話を通しておく」

「では、わたしは企画書を準備しておきますね」

「恩に着る。使える日が楽しみだ」










(リナ、すごく楽しそうだけど……)




 二人の会話を後ろで見ていたリーレイアは思った。









(……そんなに上手くいくかしら?)










**





 結論から言えば、リーレイアの予感は的中することになる。




 一週間後、企画書を手に騎士団を訪れたリナは言われた。




「__この企画は、受けられませんね」









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