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この回から一話あたりの長さを短くすることにしました。あらかじめご了承ください。
__色には3種類の要素がある。
『色相』
赤、青、黄といった「それが何色か」を決めるものである。
『明度』
その色が明るい色か暗い色かを決めるものである。明度が高いほど白に、低いほど黒に近くなる。
普段、リナの目が魔力量に応じて写しているのはこの要素だ。
そして『彩度』
その色の鮮やかさを決めるものである。彩度が高いほど色みが強くなり、低いほど白と黒のモノクロになっていく。
目の前のクラウスとマリアンナには、この『彩度』がない。
様々な色があるこの執務室の中で、この2人の色だけが失われていた。
「__なるほど、リナちゃんの目でではそう見えているんだね」
「はい。2人だけ木炭でスケッチしたみたいになってます」
「それはそれで面白いね」
「笑い事じゃないよクラくん……」
自分のことなのに呑気に笑っているクラウスに、リナは逆に心配になる。
「リナの目ということは、やっぱり魔力が原因かしら?」
「そうだとは思うけど……うーん、わかんない」
レイリーアに聞かれるが、リナは曖昧な答えしか返せない。
リナの目は魔力量を見ているだけあって、魔力による影響を受けやすいのは確か。
それを考えると、2人の見え方も魔力に起因している可能性は確かにある。
しかし、研究者として様々な魔力、魔法、魔物を見てきたリナでも、全身がモノクロに見えたのは今回が初めてだ。
確実なことは何も言えなかった。
「あまりお役に立てなくてすいません……」
「それだけでも充分さ。可能性の一端が見えただけでも大助かりだよ」
「そう言ってもらえると救われます。でも、この目にまだこんな見え方があったなんて、思ってもみませんでした」
「僕も驚きだよ。本当に不思議な目だね」
「ですねぇ」
己の目の不思議に、リナはため息を吐く。
この世に生まれて18年、人とは違う視界を持つこの目の全てを知るにはまだ時間がかかるようだ。
本当に困った目である。
「2人のご病気については、わたしも調べてみます。
……まぁ、できることは少ないですけどね」
「それでも嬉しいよ。ありがとね、リナちゃん」
「ぼく達からもお礼を。スピリナ草のことも含めて本当にありがとう、リナ」
「ちょちょちょっ、頭上げて!」
クロードとクラウスが頭を下げ、フェリエス達も後に続く。その場の全員が頭を下げる中、リナは一人ワタワタする。
非公式とはいえ、この国のトップである王家に頭を下げられてはたまらない。
「リナがパンクしそうだから、このくらいにしておこうか」
「そうしてください……」
**
冷めた紅茶をフェリエスが淹れなおしてくれる。
およそ王妃の仕事ではないはずだが、細々としたことは自分達でやってしまうのがアスタリア王家の人間である。
そのせいで侍女従僕に『仕事泥棒』と言われているとかいないとか。
「わたくし、リナおねえさまのお話が聞きたいですわ!」
「……うーん、あんまり気持ちのいい話じゃないよ」
となりに座るマリアンナにお願いされ、リナはこれまでのことをなるべくやわらかいニュアンスでできる限りオブラートに包んで話した。
……が、案の定マリアンナは激怒した。
「な……なんですの、それ!!おねえさまにそんな仕打ちをするなんて!!
お父様、今すぐ魔術塔を断罪すべきですわ!!全員死刑でも生ぬるいくらいです!!」
「やめようねっ!!?」
物騒なところは親子揃って変わらないらしい。
「死刑云々は置いておいて……そんなことになっていたのに、気がついてあげられなくてごめん」
「謝らないでよ、クラくん。わたしだってクラくんたちが不覚醒病で大変なの知らなかったんだから、お互いさま。ね?」
「……ありがとう、リナは優しいね」
クラウスと視線を合わせ、どちらともなく笑い合う。
色こそ見えなくなってしまったが、そこにいるのは間違いなく大切な友人のクラウスだ。リナはそのことを改めて感じ、少し安心した。
「それにしても、アルマトリス侯爵令嬢が所長になってから、魔術塔も随分と変わりましたね」
「ほんと、今じゃ完全に魔法主義の派閥だよ。ファウスト老が所長だった頃の、中立な時が懐かしいくらいだ」
国王と王妃が揃ってため息を吐く。対立派閥故に色々とあるのだろう、リナは「お疲れ様です」としか言えなかった。
__“魔法主義者”とは、多くの魔力を持ち、強力な魔法を使える者こそが優れた人類だと主張する者である。
魔法の力で国土を開いた旧貴族に多い考え方であり、過激で選民思想が強い。
そのため、どの人にとっても過ごしやすい国を目指す現在の王家とは対立関係にあるのだ。
この魔法主義の筆頭とされているのが、現在の魔術塔所長アマリアの生家、アルマトリス侯爵家。
彼女の就任と同時にアルマトリス家は我が物顔で塔の改革を行ない、今では塔全体が魔法主義に染まってしまっている。
中立を保ったファウストや魔法の使えないリナが特に酷く冷遇されはじめたのもこの頃である。
「まぁでも……リナはいいタイミングで魔術塔から追放されたかもしれないわ。ちょっと言い方は悪いけど」
「どゆこと?」
「先日、騎士団が研究員の一人を拘束したんだ。違法な生体改造が施された魔物を野生に放ったって。そうだったよね、ジークハルト」
「殿下、あまり部外者に教えないでいただきたい」
「あ、すいません……」
うっかり余計なことを漏らすクラウスに騎士団長が白い目を向ける。ここにはリナたちしかおらず、リナも外部に漏らすようなことはしないので不問になったが、しばらくクラウスは小さくなっていた。
(違法な生体改造の施された魔物、か)
そんな王子のことはさておき、リナはその研究者の容疑がひっかかった。
脳裏によぎるのは、先日のゴブリンエンペラー。昇格試験でうっかり討伐した個体だ。
そこから取り出した魔石は、中に結晶が見える特異なものだった。
(まさかね……)
この二つの繋げるのはさすがに突拍子もない話すぎる。
リナはすぐに考えるのをやめ、せがむマリアンナとお話をするのだった。




