地球転生編 2-40 最神玲、物部かすみの誕生日を祝う (後編)
最神玲、物部かすみの誕生日を祝う (後編)
夕方になって自室に戻った最神玲であるが、少なくとも玲の部屋に物部かすみは居ないので、エンペリアンを机の下に隠しておくことにした。本当は何かプレゼント用に包んでおきたいのだが、流石にこれが入るような箱は用意できないので、そのまま手渡しするか、と諦めた。後はバースデーケーキであるが、これは既に予約済み。地元の差間見町にもケーキ店はあるのだが、ここに来て間がない自分としては、まだ食べたことがない店のケーキをかすみに差し出すことには物凄い抵抗がある(大袈裟だが、後々どうなるかの予想がつくため)。そのため、ケーキと言えばあそこ、そう東洛総合大学の近くにあるエスタシア、そこでホールケーキを予約した。それを明日転移して取りに行けば、準備は完了。なお、その他の食事に関しては、地元の店に取りに行けば問題ない、ということで、一安心したのだが。
「玲、帰ってる?」
あれ、かすみだ。何の用だろう?
「ん、どうしたのかすみ」
と言うや否や、扉を開けてかすみが入って来たが、何やら凄い形相である。
「ねえ、玲、私に黙って何か企んでるでしょう?」
「ん?何のこと」
「惚けるな! さっきあんたの部屋の前を通った時、
中からタチアナさんの声が聞こえたんだぞ。
知らないとでも思っているのかー。
・・・私に隠し事するなんて、えーん」
とかすみは大暴れして玲の首を絞めてくるは、挙句の果てには泣き出すやら(殆ど泣き真似であるが)。これには玲も知らぬ存ぜぬが通じそうにないと観念して、本当の事はぼかしながら、かすみを何とか引き剥がして
「実はね、タチアナさんから相談を受けてて。
彼女がサモナルドに帰還した時は、
フランスの別荘、あそこの施設を譲るから
受け取ってくれって言われてて。
僕は断ったんだけど、結局直接ここにやって来て、
序にあそこに拉致されたの。
で、色々と装置の使い方とかを教えてもらっていた、
と言うこと。それだけだよ」
タチアナの帰還と聞いた途端、かすみは泣き止んだ。え、やはり、向こうの世界に帰っちゃうの?と、今度は本当に目に涙を浮かべながら何かを訴えるよな目つきになって玲に尋ねた。
「まだ確定ではないけど、恐らく彼女の中では
その覚悟が出来たんじゃないかな、と思うんだ。
だから、今のうちに身辺整理というか、
そんなことをし始めているという印象だね」
そうなんだ、やっぱり帰るんだ、と肩を落として何やら呟くかすみである。まあ、かすみも何やら思うことがあるようで、その時はそのまま自室に大人しく戻って行った。
さて、かすみの誕生日当日。この日は平日のため、朝から玲もかすみも普段通りに神社の清掃作業から始まり、その後は社務所で待機と、ほぼ何時もと同じ光景が繰り広げられた。だが、今週は玲が食事当番なので、午後4時になるとかすみに夕飯の買い出しに行ってくると言って出かけて行った。ちなみに、食料は基本的には支給されるのだが、それは米、みそ、野菜に限定されている。要するに近所の農家の氏子が寄進するということだ。それ以外の肉、魚、パンや総菜、あるいは調味料などは、自分達で調達=購入しないといけいなので、必然的に食事当番は買い物に行かなくてはならない。そこで、玲はこの機会を利用して、早速東洛市のエスタシアにケーキを取りに行くことにした。そしてケーキを一旦自室に転移して置いてから、今度は地元の商店街に行って、誕生日用の総菜などを購入して帰宅した。時間はまだ午後5時前。急いでダイニングテーブルに食べ物とケーキをセッティングして、以前何かで購入したクラッカーを出してきて、後はかすみを待つだけとなった。
午後5時を少し回った時、玄関から「ただいまー」との掛け声とともにかすみが入って来た。そして、そのまま廊下を歩いて自室にて着替えをし、それからダイニングに顔を出したところで、クラッカーの紐を引いて、パーン!
「かすみ、誕生日おめでとう!!!」
「うわ、何なん、ビックリした。
あ、そうか、私の誕生日か。忘れてた」
え、そんなことあるの?いやいや、ここは気を取り直して、早速かすみを座らせて、かすみお得意のマイクパフォーマンスを玲が演じることに
「ところでかすみさん、今年で何歳ですか?」
「えーと、永遠の18歳です」
バシ、と玲はすかさずかすみの頭に突っ込みを入れる。漸く最近になって、玲も突っ込みが出来るようになってきた。そしてこの突っ込みにえらくご機嫌になったのがかすみである。
「いやいや、冗談ですよ、玲さん
本当は、永遠の5才でちゅ」
と言いながら思わず照れ隠しのように両手の拳で頬を押さえる仕草をした。すかさず「もう、ええわ」、と2度目の突っ込みをかます玲である。そんなプチ漫才を終えて、早速ケーキにロウソクを5本立てて、ロウソクに火を付けてかすみに吹き消してもらった。ちなみに、ケーキに添えられているチョコプレートには[かすみちゃん、おたんじょうびおめでとう]のメッセージが書かれていた。玲は[かすみ様]か[かすみ姐さん]にしようか迷ったのだが、どちらも確実に後々やばくなること間違いないので、かすみちゃんにしたのだ。そして、いよいよプレゼントを渡そうとして部屋に向かったその時、玄関のチャイムが鳴った。誰だ今頃?と怪訝に思いながら、玲はそのまま玄関に向かうと、「どうも宅配です。...」と言って手渡されたのが両手で何とか抱えられる大きさで、しかし比較的軽い段ボール箱。送り先をみると、あー、なるほど、と納得した玲。早速かすみに届いた箱を渡しに戻ることにした。
「かすみ、お届け物だよ。タチアナさんから」
「えっ……?」
思わず声が漏れる。玲からタチアナの名前を聞いた瞬間、かすみの胸の中では信じられない気持ちと戸惑いが入り混じっていた。そして箱の中の包みを手に取ると、じんわりと頬が熱くなるような嬉しさがこみ上げ、思わず唇の端が緩んできた。そう、そこにはタチアナからかすみへの誕生日プレゼントが入っていた。[Happy Birthday Kasumi]のタチアナ直筆のメッセージカードの下には、白地にクリモアル柄がプリントされたノースリーブのワンピース、夏用のスカートやショートパンツ、様々な色と柄のついたロムリアのTシャツが5枚程、それとロムリアのキャップにベルトなどの小物が収められていた。かすみは、あれこれ出しては自分にあてて、「玲、どう似合う?」とプチファッションショーを行って楽しんだ。
そして玲もかすみにプレゼントを渡すのだが、何やらタチアナのプレゼント攻勢で出鼻を挫かれた感じで意気消沈気味ではあるものの、気を取り直して
「カスミ、少し待ってて」
と言って玲は自室に戻り、エンペリアンを抱えてかすみの前に現れた。
「玲、それなんなん?
地球儀なら、私、いらんよ。実家にあるし」
「違うよ、かすみ。これはねエンペリアンと言って、
かすみの召喚エネルギーを増やすことが
出来る装置なんだ」
「・・・・・?」
まあ、そうなるよな、と言うことで、先ずは玲がエンペリアンに自分の召喚エネルギーを注入する。それから術式を出すに変更して、
「かすみ、これに両手で触れてみて」
と言うのだが、何か玲の奴、胡散臭いこと考えてるんとちゃうん、とかなり疑心暗鬼になった。
「大丈夫だよ、僕が召喚術師になれたのも、
このエンペリアンに触れたからなんだ。
だから危ない物ではないよ」
と言うので、仕方なく触れてみることにしたかすみである。すると一瞬体がビクッと反応したが、その後直ぐに元に戻った。そして、
「うーん、何かよく分からないけど、
これでパワーアップしたのかな」
そこで、玲が彼女の両手を握ろうとしたのであるが、
「ちょ、ちょっと、玲、
どさくさ紛れに私の手掴もうとしてるの、
嫌だー、もう」
と避けるが、
「ち、違うよ、かすみ。ほら、僕は前にかすみに
召喚エネルギーを注入しただろ。
その感覚を覚えてるから、
それで君の召喚エネルギーが
増えたかどうか確認しようとしただけだよ。もう」
「それなら、そう言ってよね。
全く、いきなり手を握るなんて…
まあ、いいわ、はい」
と言ってなぜか投げやりに両手を出すかすみであった。仕方なく玲はかすみの両手を握ると、
「ん! おー、やっぱり増えてるわ。
自分でもどうなるか分からんかったけど、
こうして見るとエンペリアンって凄いな」
と何やら自画自賛しだす始末。一方のかすみは、何か玲の奴一人で喜びやがってと悔しさを滲ませたものの、召喚エネルギーが増えていると聞いた途端、え、もしかして、レベルアップしたの?と何やら別の興奮を掻き立てられたりした。まあ、RPGでよくある、「魔力の最大値が上がりました」というところか。
「うん、これでかすみも、
創成召喚が少しは楽になると思うよ」
と玲から言われて、満更でもないかすみだが、そこで当然の疑問が口から出て来た。
「ねえ、玲、これって続けて使えば
更にレベルアップ出来るんじゃないの?」
「あー、そう言うと思ったんだけど、
残念ながらそれはダメ。
と言うのは、タチアナさんから聞いた限り、
これを使って最大値を挙げた場合、
それが定着するには地球の1年はかかるんだって。
だから、次のレベルアップは
丁度次のかすみの誕生日になるよ。
それと、最大で3回までしかレベルアップの
効果はないみたいなんだ」
そっか、それは少し残念だけど、まあ、取りあえず良しとするか、と納得するかすみである。ちなみに、どれくらいアップしたのと玲に聞いて、5割増しと答えが返った時は、何か微妙な感じを受けたのだが。これも玲に言わせると、これが普通の人の最大アップ幅らしいので、それで全て納得したかすみであった。
「玲、有難うね。こんな素敵な誕生日パーティーと
プレゼント初めてだよ」
と言い終わるや否や、かすみは玲の頬にキスをしたのであった。




