地球激動編 1-181 異世界の大召喚術師、スーパー銭湯を視察する (第2幕)
異世界の大召喚術師、スーパー銭湯を視察する (第2幕)
高速道路の高架下のちょっとした空間に転移した物部かすみと神室霊華とエンペラールの3人は、そこから少し歩いたところにある温泉施設に向かった。午前10時とは言え、流石に大阪市内は暑い。そのため、かすみは直ぐに日傘を召喚した。それを見た2人も早速日傘を召喚するが、もう目と鼻の先に施設があるので、果たして効果があるのかどうかは定かではない。そんな3人の向かう先には、浮き輪を手にした小学生達を多く目にする。かすみは、自分も昔、こんな風に浮き輪と水泳カバンを持って遊びに来ていたことを思い出したりして、少しばかりノスタルジーに浸かりながら昔を懐かしんだ。
3人が建物の中に足を踏み入れると、エアコンが効いているお陰で、直ぐに涼しさを体感する。それよりも、エンペラールは、内部の豪華さに驚いているようだ。
「こういう豪華さも必要なんでしょうかね~」
と独り言を呟くが、これから何があるのかを期待させるには、こういう効果はあっても良いかも知れないと思ったりしている。
かすみが事前に購入したチケットのお陰で、3人は券売機前で並ぶことなくスムースに入館を果たした。そして直ぐに3人は、そのままシューズロッカーに向かった。ここで履いてきた靴をロッカーに仕舞って、そのまま裸足で館内を歩くことになるのだが、エンペラールは何やら不思議そうな表情を漂わせている。何が気になるのかをかすみが尋ねると、
「どうして履物を脱ぐんですか?」
と言う素朴な疑問であった。勿論、日本の家屋は基本的に室内では履き物を脱ぐという習慣があり、その点はエンペラールも十分に理解している。だがこういう施設だと、履物を履いたままでも問題無いのではと思ったようだ。と言うのも、M&Mの別荘自体、母屋は土足OKである。ちなみに離れについては、玲とラハニ・カヤンの離れは土足OKだが、かすみと神室霊華の所は土足NGにしている。なぜ玲の離れは土足OKかと言うと、玲と言うよりもカーンフェルトの居たサモナルドでは、そもそも家の中で履き物を脱ぐという習慣がないからである。そしてこの習慣は、その遥か千年前に栄えていたロムリアでも同じであり、そのロムリア出身のエンペラールとすると、露天風呂に入るときはさておき、それ以外で履き物を脱ぐということは想像できない。そしてこれはエンペラールに限ったことではなく、全ロムリア人がそうである。そのため、もし何らかの合理的な理由があって履き物を脱いでから入館するのであれば、その理由を知りたいというのが本音である。残念ながら、かすみも詳しいことは分からないものの、自分の感じたことをそのまま素直に伝えた。
「多分やけど、足が濡れた状態になるねんから、
そのまま履き物を履いたりするのを
敬遠するとかかなー」
「そうですね、師匠の仰る通りかと思いますし、
後は直ぐに着替えをしますから、
やはり履物があると不便な気がしますね」
と言うことのようだが、確かにエンペラールが良く利用するM&Mの別荘の露天風呂は、入口で履き物を脱ぐのだが、もし何度も入ろうとすると確かに履き物を脱いだり履いたりするのは面倒である。そう考えると、確かにこの方法は納得がいくのであり、早速ロムリア版の温泉施設に取り入れようと考え始めた。その後エレベーターで上階に向かい、女性専用となっているフロアで降りた3人は、そのまま暖簾を潜って脱衣所に向かった。
20分後、着替えを終えた3人はエレベーターでプールのある最上階にやって来た。そしてエレベーターを降りたところで、
「うわー、めっちゃ懐かしいなー!」
とかすみは十何年ぶりかでやって来たプールに目を輝かせながらそう呟いた。一方エンペラールはと言うと、塩素消毒の独特の匂いに少し嫌悪感を抱くも、神室霊華から説明を受けて、そう言う物だと納得した。そしてかすみは早速、
「浮き輪を借りるけどええよね?」
と神室霊華とエンペラールに尋ねた。と言ってもエンペラールは何が何だか分からず、神室霊華もかすみに全てお任せしている。そのため、かすみの言う通りにするだけである。そしてかすみは、早速大きい浮き輪を3個借りることにした。
「これがあれば、ここに座るだけで楽ちんなんよ」
とかすみが言うように、浮き輪の穴の所にお尻を入れて浮かぶと、そのまま流れに任せて運ばれていく。文字通り流れに身を任せられるのである。そして各自が浮き輪を手にして早速流れるプールに入るのだが、エンペラールが
「うわー、みみみ、水に流されるー!!」
と自分自身が流されていくことに若干パニックに陥りだした。そこでかすみがフォローして、浮き輪の中にエンペラール載せると
「わー、何だか楽しい気分になりますね~」
と上機嫌になる。神室霊華もかすみの助けを借りて何とか浮き輪に収まり、かすみは自力で浮き輪に乗り込んだ。そして3人が浮き輪に乗って、そのまま流れるプールに身を任せることになるのだった。
「エンペラールさんの水着、
めっちゃよう似あってますね。
うちは絶対無理やけどな、その柄は!」
とかすみは隣で漂うエンペラールに向かって、彼女の水着をベタ褒めしている。エンペラールはにこやかな表情でかすみの方に振り向いて「ありがとう」と返事をするが、そのエンペラールの水着は、白地に大きなハイビスカスが大胆に描かれたワンピース型の水着である。これはかすみが提示した幾つかの案を元にエンペラールが自分でデザインしたものだが、赤と淡い珊瑚色のハイビスカスが胸元から腰にかけて流れるように配置され、南国を思わせる華やかな雰囲気を漂わせている。彼女の年齢に合わせた落ち着いたカットだが、細身の体形のおかげで全体がすっきりと見え、肩から背中にかけてのラインが美しい仕上がりとなっている。これを着こなすのは自分では絶対無理だとかすみは観念しつつ、やはりタチアナを見出したエンペラールのセンスも、実は半端ないことを実感したのだった。
そんなエンペラールの水着に見惚れているかすみに対して、神室霊華も
「師匠のその水着も、凄くプールの
明るい雰囲気に合ってますよ!」
と評するのだが、かすみは淡いミントグリーンをベースに、小さな花模様が散りばめられている明るい色合いの可愛らしいセパレートを選んでいた。トップはややフレアの入ったデザインで、動くたびに裾が軽く揺れ、下は同じ色合いのショーツに小さなリボンがアクセントとして付いていた。かすみも照れながら神室霊華に向かって「おおきに、霊華さん」と感謝の言葉を伝えた。
一方の神室霊華はと言うと、黒を基調にしたセパレートタイプの水着である。と言ってもビキニではなく、トップは肩紐が太めで胸元が落ち着いたスポーティなデザイン、下は腰までしっかり覆うショーツ型になっている。黒地の縁取りにごく細い銀色のラインが入っていて、シンプルながら洗練された印象を与える。余計な装飾がない分、すらりとした体の線がきれいに際立ち、どこか大人びた雰囲気を漂わせていた。
「やっぱ、霊華さんは、
黒のイメージがピッタリやねんなー。
その水着も、めっちゃよう
似あってんねんなー」
「うちは絶対無理や、ははは」とかすみは笑いながら、神室霊華の水着にも見惚れている。3人はそれぞれ好きな水着を召喚出来たようで、至極ご満悦であった。
さて、浮き輪に乗って揺られながら1周したところで、やはり頭上にあるあれが気になるようで、
「ねぇねぇ、カスミさん。
あれって何かのアトラクションですか?」
とエンペラールが尋ねてきたのは、この施設自慢のウォータースライダーと言うか、水上アトラクションである。そして3人は、やはり体験せずにはおれないようで、早速流れるプールから出たところで、浮き輪を置いてアトラクション乗り場に向かった。
「そう言えば思い出したは。
昔からこれあんねんけどな、これやるたんびに、
洗面所のゴミを思い出すねんな~」
と何やら汚い話をし出すかすみだが、神室霊華はそれが言い得て妙だと感心する。今のアトラクションは、3人が乗るボートが真ん中に開いた穴から真っ逆さまに落下するという、まさにその通りの状況を呈したからである。そしてエンペラールはと言うと、
「こんな感じで水に落ちるとは
思いませんでしたけど......
やはりこういうアトラクションは
あった方が楽しいですね~」
とご満悦である。そしてエンペラールが企画しているサモナルドの温泉施設にも、こんなアトラクションを考えている気配が漂っている。その後3人は、別のアトラクションを楽しんだり、再び流れるプールを浮き輪に乗って流されたりして屋内プールを満喫した。
2時間程であろうか、結構長いこと遊び続けた3人は、休憩のため屋外にある飲食コーナーに足を運んだ。そこはバーカウンターが供えられており、ちょっとした南国気分が味わえる。勿論、アルコールも提供されるのだが、3人は流石にそれは遠慮した。そして何か食べてもよさそうな時間だが、この後温泉に入ることを考えると、がっつり食べるのは控えた方が良さそうと判断し、かき氷を頼むことにした。そして3人でかき氷を食べながら談笑している時、横から
「ねぇねぇ、お姉さんたち、
僕らも一緒に混ぜてもらえへん?」
と茶髪にこんがりと日焼けした肌、そして首から金のネックレスをぶら提げた、いわゆる典型的な3人のナンパ師が登場した。女性陣3人は一瞬キョトンとするも、かすみが直ぐに分かったようで、
「ごめんな、うちら間に合ってんねん」
と素っ気なく答えた。だがナンパ師達は、流石にそんなことではへこたれない。あの手この手で下手に出つつ3人の女性と何とか近づけないか模索するのだが、かすみも段々と面倒になって来て、すっと立ち上がるや、近くにいる監視員に向かって迷惑客がいることを訴えた。そして監視員と共にバーカウンターに戻るや、ナンパ師達は「ちっ」と舌打ちして、だがまだかなりの未練があるのか3人の女性を横目にその場から去って行った。
「全く、夏になるとあぁ言うのが増えねんなー」
「噂には聞いたことありましたが、
実物を見ると、何とも凄い執念ですね」
とかすみと神室霊華の師弟コンビはそんな感想を呟いた。と言っても2人とも恐怖に震えていたりすることもなく、何時も通り淡々とした表情で会話をしている。一方エンペラールはと言うと、特に動じることなく、その場に堂々として、ゆっくりとかき氷を味わっていた。そんなエンペラールの姿に感心するかすみは、
「エンペラールさん、
怖くありませんでしたか?」
と尋ねると、エンペラールはニコニコしながら首を横に振って
「そんな~、あれくらいでしたら
直ぐに対応出来ちゃいますよね~」
と言いながら手元に召喚の書を取り出した。”やっぱ、考えることは同じやったんやなー”とかすみも笑顔になるが、女性陣3人は共にその場で魂を分離して気絶させることを考えていたのだった。そうとも知らないナンパ師達は、まだまだ彼女達に未練があるようで...




