地球激動編 1-178 異世界の大召喚術師、日本の夏祭りを楽しむ (前編)
異世界の大召喚術師、日本の夏祭りを楽しむ (前編)
昨日、大阪のユニバで遊び尽くした異世界の大召喚術師エンペラールは、今日は最神玲と物部かすみと共に、美土路神社の社務所にてアルバイトに励んでいる。と言っても、エンペラールには日当が支払われることは無く、無料奉仕の感じがしない訳ではないのだが、当人はそんなこと気にする様子はない。むしろ、参拝客が来ない時間には、玲と2人で召喚術談議をして楽しんだりしている。そしてもう1人のかすみはと言うと、ノートを持ち込んで内職中である。彼女の内職とは、言わずと知れた洋服のデザインである。タチアナ・エグリスコバに教えられたことを頭に叩き込みつつ、次の作品に向けて鋭意制作中である。ところで、作品となると何やらコンテストにでも応募するのかと思われるが、まさにその通りである。と言うのも、タチアナから「折角だから、コンテストにでも応募したら?」とアドバイスを受け、自分も今の実力を知りたいということで、コンテストへの参加を決めたのだった。そして今、かすみはそのためのデザイン画を考えている所なのである。
そんな3人は、誰かに邪魔されることもなく、その日の仕事を無事に終えて帰宅した。そして何時もの様に神室霊華もやって来た所で、4人での夕食となった。この日の夕食時の話題は、昨日のユニバの話と、後は明日の夕方から行われる盆踊りに関してであった。ただし当然のことながら、異世界人のエンペラールが盆踊りの事を知らないのは仕方ないし、その点は十分に理解できるとして、問題はあの男も全く珍紛漢紛だということだ。これにはかすみは、流石にその男に説教する気にもなれず、いきなりマキザッパを召喚して一シバキ加えた。いきなりかすみにしばかれた玲は、突然何が起きたのか信じられない様な表情でかすみを茫然と見つめていたが、そんな玲にお構いなくかすみは
「玲! お前な―、ええ加減にせぇよ!
全く! 物を知らなすぎるのにも程があるで!!」
とじっと玲を睨み付けて、それでも説教をしておいた。そしてかすみは、何やら諦めたのか、首を横に振りながら、自分のスマホを取り出して盆踊りの様子を2人に見せた。
「こうやってな、櫓の周りを輪になって踊りながら
ぐるっと周るのがな、盆踊りっちゅうやつやねん」
と少し大雑把にだがそう解説を加えた。だがそうなると、何故輪になって踊るのか、その意味を知りたくなる訳で、早速エンペラールはかすみにその点を尋ねた。実の所、かすみは授業か何かで学んだ記憶があるものの殆ど忘れていたため、何時もの様にスマホで検索をかけた。その結果分かったことと言うと......
盆踊りとは、一言で言うと、お盆の時期に先祖を供養するための行事を指すと言われている。ただそこには、どうやら宗教的な意味合いは余り無いとも言われており、むしろ地域のコミュニケーションの場とか、最近の言葉で表現すると、出会い系の元祖に近いものかもしれないようだ。そして今回4人が参加する盆踊りが行われるのは、神室霊華の住む地元の自治体が主催するというのだが、近年は外国人旅行者の参加も増えてきており、海外でもちょっと話題になるくらいに有名なイベントらしいのだ。
「ほいで、屋台もぎょーさん出て、
色々と食べ歩きも出来るみたいやねん、
そやね霊華さん?」
「そうですね、私も最近はあまり参加してませんが、
例年数十台の屋台が広場の周囲に設けられますね」
と言うことで、踊って疲れたら屋台で腹ごしらえして再び踊る、と言ったことも出来るようだ。
そしてエンペラールだが、やはりロムリアでそのようなイベントが開催されることは無いようで、全く未知の体験をすることになりそうだ。だからと言って不安に駆られているかと言うと全くそんな気配はない。むしろ、
「何かね~、明日の盆踊りですか...
とても楽しみですね~!」
と心から楽しみたい気持ちを前面に出しながら、その嬉しさを皆に伝えていた。そして夕飯を終えた所で、4人は別荘に向かい、何時もの様に露天風呂に入りがてら、その後はそれぞれの趣味の時間に充てたのだった。
翌日、朝の露天風呂を満喫したエンペラールは、今は母屋のリビングで寛いでいる。キッチンでは玲が朝食の準備中である。そして相方のかすみはと言うと、まだ起きて来ない。いや正確には、既に起きているのだが、まだ母屋には来ていないようだ。そのためか、エンペラールが心配そうに玲にかすみがどうしたのかを尋ねた。玲は特に心配してないようで、「もう直ぐ来ますよ」とだけ答えるが、まさにその時、かすみが母屋にやって来た。ただし何やら薄手の箱とその上にやや小ぶりな箱を幾つか載せて両手で持って運んできた。
「エンペラールさん、おはようございます!」
とリビングで寛ぐエンペラールに挨拶をし、手にした箱をテーブルの上に置いた。そして
「こちらはですね、今晩の夏祭りに
エンペラールさんに着て頂く衣装なんですが...」
とエンペラールに説明しながら薄手の箱を開けた。すると中には白地に藍や深青の朝顔がやや大きめに描かれた浴衣が収められていた。エンペラールは暫しその浴衣を見つめていたが、徐にそっと箱から浴衣を取り出した。そしてエンペラールはTシャツ姿であるものの、特に問題なくそのまま浴衣に袖を通した。かすみはその浴衣が決して派手ではないが、夏の夜にふっと涼を運ぶような柄を選んでおり、しかもエンペラールの白い肌によく映えるのを目にして
「やっぱ、エンペラールさん、
よぉー似あってんなー!!」
と感想を漏らした。かすみは、序にもう一つ別の箱に仕舞われている濃藍の無地の博多帯を取り出し、エンペラールの着る浴衣に巻いてみた。残念ながらかすみは帯を締める技術はないのだが、本番では着付け師を召喚する予定である。だが帯を巻いた状態でもエンペラールの上品さは際立つようで、
「エンペラールさん、
それメッチャ似あいますよ!!」
とかすみは嬉しそうに感想を伝えた。エンペラールは自分の姿を見れないため、かすみがその場に姿見を召喚した。そして
「うわー、これって、何というんでしょうか...
今まで着たことのない衣装ですね~」
でも凄くカワイイですね、と姿見の前で回りながら自分の姿を見て大満足であった。
その日もエンペラールは、玲とかすみと一緒に美土路神社にて手伝いをすることにした。そして定時までまだ1時間程残す時に、かすみが
「ほな、玲、エンペラールさん
連れて行く準備するから、
うちら先に行かせてもらうで」
と言うことでかすみとエンペラールは、先に自宅に戻った。独り残された玲は不満を感じていたかと言うとそんなことはなく、事前にこの件は打ち合わせ済みであったので平常運転中である。そしてかすみとエンペラールはそのまま別荘に転移して、早速エンペラールに着付け師の召喚術を伝えた。後は着付け師を召喚すれば、着付け師が着付けの全てをやってくれるので、着る方としては凄く楽である。かすみも離れで母親の京子から譲り受けた濃紺の地色に白い桔梗の花を染め抜いた浴衣と淡い金茶の帯を締めて母屋に戻って来た。エンペラールは一足先にリビングにてかすみの到着を待っていたのだが、少し心配そうな表情をしている。かすみは
「エンペラールさん、どうかされたんですか?」
と尋ねると、足元の下駄を指差して
「カスミさん、これってこうやって履くのが
正解なんですか?」
と逆に尋ねられた。どうやら鼻緒を親指と人差し指で挟まずに履いているようで、それでかなりバランスが悪いことを訴えていたようだ。そこでかすみは、自分が履いているようにすることを教えて、漸く納得のいくスタイルとなったことで安堵の表情を浮かべた。
「あっ、後ね、エンペラールさん、
髪はどないします?」
エンペラールは背中まで伸びた髪のため、そのままでも良いし、神室霊華が良くするようにアップにしても良い。
「そうね~、アップにしようかしら!」
とかすみに向かって伝えるが、かすみの所には髪を留める小物が無いため、
「ほな、どうせ霊華さんの所に行くから、
霊華さんに何かないか聞いてみますね!」
と伝えて、2人は早速神室霊華の自宅に転移して行った。
神室霊華の自宅に転移したかすみとエンペラールは、
「霊華さん、ごめん、少し早く来ちゃってんけど
良かったかな?」
と神室霊華に尋ねた。神室霊華も丁度着付けを終えた所で、今は自室の姿見の前で身だしなみをチェックしている。彼女の装いは、淡い藤色地に撫子や薄などの秋草模様の柄の浴衣に淡い朱色の帯を締めており、こうして見るとエンペラールを何やら引き立てる感じがしなくもない。
「あっ、師匠にエンペラールさん、
もう準備はお済なんですか?」
「うちはオーケーやねんけど、
エンペラールさんが
髪をアップにしたいんやて」
と言うことで、神室霊華は自分が持っている髪留めのうち、エンペラールの浴衣にも合いそうなヘアクリップを選択した。そして早速エンペラールの髪を留めると
「おー、エンペラールさん、完璧やで。
それで盆踊りも気にすることなく踊れますよ」
とかすみはエンペラールの装いに太鼓判を押した。エンペラールも嬉しそうに
「早く、その盆踊りですか、
やってみたいですね~」
と今から待ち遠しくしていた。その後、玲からの連絡を待つ間、神室霊華とかすみは神室邸内をエンペラールを連れて案内したのだが、
「ここのお庭は、凄く洗練されてますね~」
とやはり神室邸の日本庭園に魅了されたりした。そして暫くすると、かすみの元に玲から電話が入った。どうやら向こうも準備が出来たようなので、そちらに向かっても良いかという確認の電話であった。かすみは、こちらの準備は出来たことを伝えると、直ぐに玲が転移してやって来た。そして4人揃ったところで、神室邸を後にした。




