地球激動編 1-177 異世界の大召喚術師、ユニバの夏を満喫する(後編)
異世界の大召喚術師、ユニバの夏を満喫する(後編)
「あれは、ちょっとね~
トラウマにならないか心配だわ~」
「そっかー、エンペラールさんの所にも
あんな空飛ぶのっていてるんですよね?」
「そうなのよ! しかも名前がプテリウスって
言うんだけどね、どことなく、
名前が似てたりするのよね~」
「あぁ、プテラノドンですね。
確かに言われると、同じ感じもしますね」
大阪のユニバにやって来た物部かすみと神室霊華、そして異世界の大召喚術師であるエンペラールの3人は、再び木陰で冷たいペットボトルのお茶を手にして涼みながら、今体験して来たアトラクションの感想を語り合っていた。彼女達の頭上では、まさに今体験したばかりのそのアトラクションから聞こえる悲鳴が、彼女達の耳にも届いている。そしてこの地球上では絶対に体験できない、リアルな恐竜が生息する環境に生きるエンペラールからすると、あのアトラクションは他人事ではないようなのだ。するとかすみが、
「ほな、あんな感じで恐竜に人が
攫われるとかってあるんですか?」
「ロムリア市内ではまず起きないけどね、
地方に行くとそう言う事例があると
聞いたことはあるわね~」
その話を聞いたかすみの心の中では
“うわー、まじ、来年ロムリアに召喚されたら、
リアルな恐竜、絶対見てみたいわー”
と興奮状態であった。全く怖いもの知らずというのか、どうなのか。そんなことを考えていたかすみの目の前を、水鉄砲を手にした小学生たちがある方向に進んで行くのを目にした。
「あっ、もうすぐ始まるねんなー、あれ!
うちらも参加せぇへん?」
とのかすみの掛け声で、3人は先程水濡れ率100%のライド用に購入していたポンチョを手にし、途中の売店で水鉄砲を購入して、自分達も準備を整えて子供たちが向かった先に急いだ。
「もぉー、何で私ばかりが狙われるのよー!!」
と再び休憩所に戻って来て休んでいる3人だが、顔に水しぶきを浴びた状態のエンペラールは何やらご立腹である。と言っても、その表情に険しさは一切なく、何やらスッキリした清々しい感じを受けたりもする。でもやはり自分が何やら狙われていたことには納得がいかないようで、
「確かに、この中では一番目立つもんなー、
エンペラールさんって」
とかすみはタオルで自分の顔を拭きながらそう指摘するように、金髪で細身で長身と言うモデル並みの体形であれば、パレードの山車からは格好の餌食になるのは目に見えていた。だがそれよりも、
「むしろねー、子供たちが何やら
私に向けて撃って来るんだよ!!」
と頬を膨らませながら抗議するが、そんなエンペラールも、返討ではないがそこら中に水鉄砲の水を打ちまくっていた。もしそんな様子をタチアナが目撃したら、
”何やら日頃の鬱憤でも溜まっていたのかしら”
と心配するくらいに鬼気迫った表情を目にしただろう。尤も本人は体験したことのない状況に興奮していたようで、知らない内にそんな表情になっていたことを後からかすみと神室霊華から指摘されると、ポカンとした表情になった。そしてしばらく休んだ後、念のため洗面所にて化粧をチェックし、再びアトラクション巡りを再開した。
次のアトラクションに向かう途中、エンペラールが
「ねぇねぇ、カスミさん。あの女性達の
頭に付けているのってなーに?」
と指差したのは、道行く女性達が頭につけているカチューシャである。ただし色々なキャラクターを模したカチューシャであり、ここにしか売られていない物である。そしてどうやらエンペラールは、そのカチューシャに興味を持ったようなので、かすみは土産物売り場に向かうことにした。そして10分後、3人はそれぞれ購入したカチューシャを頭に載せて店を出て来た。ちなみにかすみは、恐竜に頭を齧られているカチューシャを選んだ。これは単にオモロイからと言う理由である。神室霊華は定番と言うか、アメリカの子供番組のキャラクターを模したカチューシャを選び、エンペラールはと言うと、こちらは猫耳にリボンのついた日本の有名キャラクターをモチーフにしたカチューシャを選んだ。そして3人は外に出て写真や動画を撮って楽しんだ。
「あれ?霊華さん、エンペラールさんと
一緒と違った?」
「いいえ、師匠がてっきり
付きっ切りだったと思ったのですが...」
夕暮れを迎えた頃、あるアトラクションを終えて出て来たかすみと神室霊華だが、その隣にはエンペラールの姿が見えない。それでも目立つ容姿であるから直ぐに見つかると高を括っていたかすみだが、そこら中探しても見つからない。とその時、ユニバに来る前に念のためと言うことで渡しておいたトランシーバーを思い出し、お洒落リュックから取り出して早速それで交信を試みた。だが残念ながら繋がることは無い。
「うちらやったら、カフリングで何とかなるけどな、
エンペラールさんに渡しても
うちら誰もサモナルド語分からへんねんなー」
とかすみがぼやくように、カフリングからの音声は翻訳イヤホンを介することなく直接鼓膜に到達するため、言葉を理解することが出来ない。だがそこは召喚術師である彼女達、かすみは念のためにもし迷子になったら、その場に転移門マーカーを設置することを予めエンペラールには伝えておいた。そして今自分達の周りにも転移門マーカーを設置しつつ、かすみは周辺で転移門がないかサーチを試みた。すると、直ぐに
「あっ! あったあった、あっちや!」
と指差す方向にエンペラールの設置した転移門マーカーを発見した。そこでかすみはその方向に神室霊華を連れて向かったのだが、どうやらエンペラールもかすみの設置した転移門マーカーを見つけたようで、向かう途中で無事合流を果たせた。
「無事で良かったー。それよりもエンペラールさん、
どうされたんですか?」
とかすみは安堵の表情を浮かべつつ、エンペラールに何があったのかを尋ねた。すると、
「何やら後ろから人に押されて、
そのうち違う方向に向かっちゃったのよねー」
そして結局かすみと神室霊華を見失ったということである。もしここに玲がいたら、「仕方ないですよ、かすみは群衆に紛れて見えなくなるだろうしね」とかすみのことをディスりながらエンペラールを慰めただろうが、その後は間違いなくきついお仕置きが待っていることは目に見える。むしろこの場合、神室霊華の方が分かり易いように思われるのだが、どうやら似たようなカチューシャ姿の女性が多くいたことで、やはり目印にはなり難かったようなのだ。
「でも、予めこういう事があるかもと予想して、
転移門マーカーを設置すると決めた
師匠の判断は見事でしたね!」
と神室霊華はかすみの判断をべた褒めする。
「まぁ、これはうちらしかでけへんことやしな、
それで無事見つかったんは
良かったちゅうことやね!」
とかすみは少し照れながらもそう答えた。とその時、またもやあの人の体内時計が鳴りだした。
「あっちゃー、また鳴りよったで。
そろそろ晩御飯の時間なんかな?」
「そうですね、今頃玲さんは1人で
夕飯を食べている所ではないでしょうか?」
と言うくらいに時間が経っていた。そこで3人はエンペラールのリクエストを聞いて和食レストランに向かった。
席について早速注文をする3人。かすみは牛ステーキ丼、エンペラールと神室霊華は海鮮丼をそれぞれ注文した。勿論アルコール付きである。そして料理が運ばれてくるまでの間、今日あったことを回想して楽しんだ。やがて料理が運ばれて来たところで、3人で乾杯をし、その後は各自の料理に舌鼓を打つ。そして暫く料理を味わったところで、かすみはかねてより疑問に感じていたことをエンペラールに尋ねた。それは
「エンペラールさん、タチアナさん、
じゃなくてセラスティナさんか、
何で弟子にしようとしはったんですか?」
かすみも今は3人の弟子を抱えている一方、エンペラールの弟子はタチアナことセラスティナ唯一人だという。なぜ一人だけなのかが気になったかすみは、その点を尋ねたのだ。すると、
「そうねー、セラちゃんは、
他の子にはないインスピレーションを
持っていたから、ということかしらねー」
と答えた。世間一般の職種であれば、その仕事への適応力とか、高度な技術を扱える才能とかを評価しがちだが、どうやら召喚術師にはそう言ったことは当てはまらないというのだ。この答えを聞いたかすみは一瞬不思議そうな表情を漂わせるが、直ぐに「あっ、そういうことですか!!」と納得が言った。神室霊華はまだかすみの納得の理由が分からず、かすみに「師匠、何か分かったのですか?」と尋ねた。すると、
「うん、結局な、召喚術って
創造性が重要とちゃうかなってことやねん」
と説明するのだが、もう少し具体的に補足すると、召喚術の基本は、物を「呼び出す」ことと、物を「創り出す」ことに尽きる。呼び出すことには、霊界から霊体を呼び出すことも含まれるし、契約召喚もその部類に入る。だが特に重視するのが、実は物を「創り出す」能力だというのだ。そして
「カスミさんの仰る通り、そうなのよ。
そしてね、セラちゃんはその創造性が
ずば抜けていたのよね~」
実際タチアナよりも能力の高い召喚術師は何人もいたらしい。だがタチアナの創造性は自分をも超えていたというのだ。
「この創造性と言うのはね、
誰でも直ぐに持てるものではないのよ~。
むしろ天性から備わった能力と
言った方がいいわね~」
そしてかすみは、確かにタチアナの創設したロムリアブランドは、その独創的なファッションで注目を集めたということを知っているが、どうやらそう言ったことにも深く関わっていたという事実に驚きと共に、得心が言った。するとかすみは、少し冗談めかして
「ほな、もし玲がロムリアにいたとしたら、
絶対エンペラールさんの弟子には
なられへんですよね!!」
あいつの創造性は最悪だからなー、とその場に居ない玲をディスりながらかすみはニヤニヤしてそう尋ねた。神室霊華は
「師匠、それは玲さんに失礼ですよ!」
と窘めるが、エンペラールはむしろかすみの言葉を肯定するように、
「そうねー、レイさんは残念ながら
弟子には出来ませんねー」
と神室霊華の目を見つめながらそう答えた。神室霊華とすると、ここはエンペラールに否定してもらいたかったのだが、当てが外れて暫し茫然としていた。だが、その後の言葉を耳にした途端、”そういうことなのね”と納得したのだが。
「レイさんは弟子には出来ませんが、
むしろ私がレイさんに弟子入りを志願しますねー」
と、エンペラールの口からかすみも予想しない答えが返って来た。そのためかすみは、言葉を失いつつ何とかその理由を尋ねた。すると
「確かにレイさんは創造性が全くなさそうですが、
その代わりに誰も持ち合わせていない
独創性がありますね~」
そして彼の独創性として、自律型や追跡型の召喚術を始め、召喚門を曲げたり召喚門同士をくっ付けてシールドにするという発想は、千年以上の歴史を持つロムリアの召喚術にあって、誰一人思いつかないことであった。そしてエンペラールは、恐らくこの先も玲のような召喚術師は現れないだろうと予言するのだ。
「そんな独創的な発想を持つ
召喚術師に師事できるのであれば、
今の仕事を放りだしても悔いは無いわね~」
と大胆な事まで言い出した。もしここにタチアナが居たら、「先生、それだけは絶対やめてください」と真剣な表情で止めに入ったことだろう。勿論エンペラールとしても、本気半分、冗談半分であるのだが。そして最後にこう締め括った。
「カスミさん、あなたそんな独創的な
レイさんの傍にいることを、
誇りに思うべきよ!」
流石にこの言葉を耳にしたかすみは、顔を赤くして下を向いてしまった。幸いそんな様子を隣に座る神室霊華に見られていないようだが、自分の尊敬するタチアナが師事するエンペラールがそのように玲を評価したことに、少しずつだが玲に対する見方を変えていった......ことは絶対なかった。
その後食事を終えた3人は、暫くの間、夜のユニバを満喫し、閉園を迎える少し前にユニバを後にした。そしてある公園にやって来て、そのまま別荘に転移して戻って行った。




