第3話
「・・・・もう一度、お願いします」
「はい?」
「ですから、もう一度、この水晶に魔力を流していただけませんか?」
ハチューア聖女国の魔法軍本部。
ミレイラの目の前で、魔法軍の試験官が困り果てていた。
机の上には、人の頭ほどもある透明な水晶が置かれている。
魔力量を測定するための魔道具だった。
先日、広場で大勢の怪我人を一度に治療したミレイラのウワサは、すぐに魔法軍へ伝えられた。
もともとハチューア聖女国は、優れた魔法使いを積極的に軍へ取り立てている。
そのためミレイラは、魔法軍の関係者からぜひ一度能力を見せてもらいたいと頼まれ、ここへやってきたのである。
「別に構いませんが・・・・」
ミレイラは水晶へ手を置いた。
魔力を流す。
すると――。
水晶が強烈な光を放った。
「・・・・」
試験官は黙り込んだ。
隣にいた魔法軍の将校も黙っている。
「これでよろしいですか?」
「・・・・やはり、おかしい」
「おかしい?」
「測定限界を超えています」
ミレイラは水晶を見る。
異常はないように見える。
しかし。
「この魔道具が壊れているのでは?」
「わ、私もそう思って、先ほど別のものに交換したのです!」
「そうなのですか?」
「それで同じ結果なのです!」
試験官の声が大きくなった。
ミレイラは困ったように水晶を見る。
自分の魔力量が多いことは知っている。
だが、これまで他人と比べる機会がほとんどなかった。
だから、自分がどの程度なのかはよくわかっていなかった。
「まあ、いいでしょう」
試験官は額の汗を拭った。
「次は属性適性を調べます。得意な属性の魔法を使ってください」
「得意な属性・・・・」
ミレイラは少し考えた。
「雷でしょうか」
「では、雷属性を」
ミレイラが右手を前へ出す。
バリバリバリッ!
凄まじい音とともに、手のひらの上に雷の塊が生まれた。
「ちょ、ちょっと!もう結構です!」
「そうですか?」
雷が消える。
試験官が深く息を吐いた。
「雷属性。極めて高い適性、と・・・・では次の測定ですが」
「え?他の属性は調べないんですか?」
「ほかの属性?ほかにも使えるんですか!?」
「まあ」
これだけの魔力を持つのだ。
使える属性も1つではないだろう。
そう思い直し、試験官は聞いてみた。
「他には?」
「水も使えます」
「なるほど」
ミレイラが水球を作る。
「火も」
炎が生まれた。
「風も使えますね」
風が巻き起こる。
「土も一応」
小さな岩の塊が浮かび上がった。
「それから回復魔法は先日使いましたし・・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
試験官が慌てて止めた。
「あなた、いったい何属性使えるのですか!?」
「ほとんど使えると思いますけど」
「・・・・」
試験官が頭を抱えた。
後ろで見ていた将校が代わって前へ出てくる。
「先ほどから気になっていたのだが、あなたはなぜ詠唱をしない?」
「詠唱?」
「魔法を使うときの詠唱だ」
「必要なのですか?」
「必要なのですかって・・・・」
将校まで頭を抱えた。
ミレイラにとっては普通のことだった。
魔力を制御し、使いたい魔法へ変換する。
それだけである。
わざわざ言葉にする必要性を感じたことがない。
だが、人族の魔法使いにとって、それは普通ではなかった。
魔力量。
使用できる属性の多さ。
魔力制御。
そして無詠唱。
どれを取っても、目の前の女はハチューア聖女国の優秀な魔法使いをはるかに上回っている。
将校はしばらく考えたあと、ミレイラへ尋ねた。
「ミレイラ殿。あなたは現在、どこかの国や貴族に仕えているのか?」
「いいえ」
「ならば、我が国の魔法軍へ入らないか?」
ミレイラはすぐには答えなかった。
軍。
これまで縁のなかった世界である。
自分は外の世界をほとんど知らない。
だからこそ、今はさまざまなものを見ておきたかった。
軍という場所も、その一つなのかもしれない。
それに、ずっと旅を続けるにはお金も必要だった。
「しばらくの間でよろしければ」
「もちろんだ!」
こうしてミレイラは、ハチューア聖女国の魔法軍へ身を置くことになった。




