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第4話

「前衛、前へ!」


号令とともに、鎧を着た兵士たちが走り出した。


その後方には、杖を構えた魔法使いたちが並んでいる。


ミレイラは魔法軍の訓練場で、その様子を眺めていた。


魔法軍へ入って数日。


最初に行われたのは、この国の軍がどのように戦うのかを学ぶことだった。


ハチューア聖女国の軍は、他国とは大きく異なる。


魔法使いを主力としている。


だが、魔法使いは強力である一方、魔法を発動するまでに時間がかかる。


敵が待ってくれるはずもない。


そこで必要になるのが、通常の兵士だった。


彼らが前へ出て敵の攻撃を受け止める。


その間に後方の魔法使いが詠唱を完成させ、攻撃魔法を放つ。


傷ついた兵士には、後方にいる聖女たちが回復魔法で治療を施す。


そして、再び前線へ送り出す。


合理的な戦術だった。


少なくとも、ハチューア聖女国ではそう考えられている。


「・・・・あの」


ミレイラが隣にいた教官へ声をかけた。


「なんだ?」


「どうして、あの方たちは敵の攻撃を受けるために前へ出るのですか?」


教官は一瞬、何を聞かれたのかわからなかった。


「あの方たちとは?」


「前にいる兵士です」


「魔法使いを守るためだ」


「ですが、ケガをしますよ?」


「当然だ」


当然。


ミレイラはその言葉に引っかかった。


「ケガをしたらどうするのです?」


「聖女が治す」


「治したら?」


「また戦わせる」


「・・・・」


ミレイラは訓練場へ目を戻した。


兵士が盾を構える。


模擬攻撃を受け止める。


その後ろで魔法使いたちが長い詠唱を続けている。


「兵士の間では、あれを『肉壁』と呼んでいる」


教官が何でもないことのように言った。


「肉壁・・・・」


「聞こえは悪いが、理にかなった戦術だ。魔法使いは育成に時間がかかる。通常兵ならば補充しやすい。それに我が国には聖女がいる。多少の傷なら治せる」


ミレイラは何も答えなかった。


理屈は理解できる。


確かに効率はいいのだろう。


だが――。


なぜだろう。


どうにも好きになれなかった。


「敵が兵士へ近づく前に、魔法で倒してしまえばいいのでは?」


「それができれば苦労せん」


教官は笑った。


「詠唱している間に敵が来る。だから兵士に時間を稼がせるのだ」


「なるほど」


それなら。


自分には、あまり関係のない話かもしれない。


ミレイラはそう思った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


魔法軍へ入って数週間。


訓練や演習で能力を確認されたミレイラは、ほどなく一つの部隊を預けられることになった。


いきなり正式な魔法将軍へ任命されたわけではない。


まずは実戦で指揮能力を確かめたいという軍上層部の判断である。


もっとも、ミレイラの能力があまりにも規格外だったため、将軍候補として扱われていることは、本人以外にはほとんど明らかだった。


しかし、与えられた部隊を見て、ミレイラは首をかしげた。


「少ないですね」


兵士の数も少ない。


魔法使いも少ない。


そして、集められている者たちの多くは、他の部隊から必要ないと判断された者だった。


理由は簡単である。


ミレイラは軍へ入ったばかり。


しかも他国から流れてきた素性のよくわからない人物だ。


どれほど魔法が強くとも、最初から精鋭を預けることに軍上層部が抵抗を感じるのは当然だった。


ミレイラ自身も、その程度の扱いは仕方がないと思っていた。


そんな部隊の中に、見覚えのある少女がいた。


「あ!」


向こうもミレイラに気づいた。


「ミレイラさん!」


「セラフさん」


広場で出会った聖女セラフだった。


セラフは嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ミレイラさんと同じ部隊に配属されたんですね!私、嬉しいです!」


「私も知っている方がいて安心しました」


「えへへ」


セラフは嬉しそうに笑った。


相変わらず、少しおどおどしている。


その姿を見ると、やはり港町の花売りの少女を思い出した。


今度こそ――。


ミレイラはそこまで考えて、首を振った。


セラフはセラフだ。


亡くなった少女とは違う。


それでも、この少女がひどい目に遭うところは見たくなかった。


「ところで、セラフさん」


「はい?」


「あなたも戦場へ行くのですか?」


「もちろんです。私は聖女ですから」


「そうですか・・・・」


ずいぶん若く見える。


だが、この国では珍しいことではないらしい。


回復魔法を使える者は貴重だ。


年齢にかかわらず、使える者は軍へ組み込まれる。


ミレイラは自分に与えられた部隊を見回した。


どうせ預かったのだ。


できるだけ死なせたくない。


そのためには、一人一人の力を知っておいた方がいい。


「では、まず皆さんが何をできるのか調べましょう」


「何をできるのか?」


兵士の一人が聞き返した。


「はい。剣しか使えないと思っている方でも、魔法の素質があるかもしれませんから」


兵士たちがざわついた。


この国では魔法使いと通常兵は、はっきり分けられている。


一度、通常兵として配属された者が、改めて魔法の適性を調べてもらえる機会などほとんどない。


ミレイラは一人ずつ魔力の状態を確認していった。


すると、やはりいた。


「あなた、風属性魔法が使えると思いますよ」


「お、俺がですか!?」


「はい。少し練習してみましょう」


別の兵士には火属性の素質があった。


ごく弱いながら、回復魔法への適性を持つ者までいた。


もちろん、全員が魔法を使えるわけではない。


魔法の才能がまったくない者も大勢いる。


だが、それならそれでいい。


剣が得意なら剣を伸ばせばいい。


盾の扱いが得意なら、それを磨けばいい。


ミレイラにとって重要なのは、一人一人ができることを増やすことだった。


やがて、部隊の兵士たちの間にも変化が現れ始めた。


最初は、


――他国から来た女に何ができる。


そんな目で見ていた者もいた。


しかしミレイラは、自分たちを使い捨ての兵士として扱わない。


できることを探してくれる。


教えてくれる。


そして何より、自分たちよりもはるかに強い。


少しずつ、兵士たちはミレイラを信頼するようになっていった。


そんなある日。


ミレイラのもとへ、一人の伝令兵が駆け込んできた。


「ミレイラ殿!軍本部より命令です!」


「はい」


「国境付近を荒らしている夜盗集団の討伐を命じるとのこと!」


部隊の空気が変わった。


初めての実戦。


しかも、調べによれば相手は自分たちの三倍以上。


兵士たちの顔に緊張が走る。


セラフも不安そうにミレイラを見ていた。


だが、ミレイラだけは普段と変わらなかった。


「わかりました」


そして、集まった兵士たちへ告げる。


「では、準備をしてください」


一人の兵士が、おそるおそる尋ねた。


「・・・・あの、ミレイラ様」


「なんでしょう?」


「俺たち・・・・やっぱり、肉壁になるんでしょうか?」


ミレイラは一瞬、何を言われたのかわからなかった。


そして訓練場で教えられた、この国の戦術を思い出す。


「ああ」


兵士たちの顔が強張った。


だが、続いて出てきた言葉は、彼らが予想していたものとは違った。


「その必要はありませんよ」


「え?」


ミレイラは不思議そうに首をかしげた。


「敵が皆さんのところへ来る前に、私が倒せばいいのでしょう?」


兵士たちは誰も答えられなかった。


それができれば苦労しない。


魔法軍の教官が言っていた言葉である。


しかし――。


この女なら、本当にやるのではないか。


そんな予感を、誰も否定できなかった。


ミレイラ率いる部隊の初陣が、始まろうとしていた。


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