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6.自宅探索

 クークルマップにより辿り着いたのは、六戸建てのアパートだった。屋根が黒く壁がグレーといったすっきりした外観。周辺には、アパートの他に一戸建ての民家に、隣には月極駐車場。それと……、


「畑っ?」


 そう広くはないが、畑があった。ちゃんと野菜が植わった、畑だ。


「ここって、首都圏じゃないのか? ベッドタウンっていうやつじゃないの? めっちゃスローライフしてるじゃん!」


 少しというか、かなりイメージと違った。が、東京にも村があるらしいので、意外と都心部から離れると田舎なのかもしれない。

 一〇三号室を探し、玄関の前で深呼吸する。


「誰かいるかな?」


 そりゃあ、家族がいるだろう。ペットもいるらしいし。分かり切ったことだが、はじめにとっては初対面だ。やや緊張する。

 いざ、玄関の扉を開けようとドアノブに手を掛けると、鍵が掛かっていた。家族は留守なのか。いや、在宅中でも鍵は掛けるだろう。ド田舎じゃ玄関の鍵は掛けず、門も開きっぱなしで、ご近所の人が勝手に扉を開けて「○○ちゃーん」なんて呼びながら入って来る。というのも、一昔前の話で、今どきは鍵を掛ける家が多くなっていた。

 はじめは鞄の中を探って鍵を見つけ出す。鍵には犬のキーホルダーが付いていた。……犬好きで、犬を飼っているのか? あの遺書の〝しらたま〟とは愛犬のことか? 一般論として、犬好きな人には社交的な人が多い。ということは、やはり明るい性格の子だ。ますます、そんな子が飛び降り自殺を? と疑う。


「ただいまー」


 と、一応小声で挨拶をしてみたが、返ってくる返事はない。というか、誰の気配もしない。


「もしかして、カギっ子?」


 トイレと洗面所があるらしき廊下を通り過ぎると、台所に出た。流し台や冷蔵庫、食器棚に、小さな二人掛けのテーブル。その上にメモが置いてあった。


『冷蔵庫にサバと鍋にみそ汁』


 と、手短に。


「親は夜が遅いのか。これは、母親のメモか?」


 朝から夕飯を作ってから仕事へ行ったのか。正社員か、パートか。パートなら昼間のイメージだが、もう小さい子供でもないので、時給のいい夜にしているのか。


「父親は……?」


 台所を見回すと、引き戸が一つとドアが二つあった。引き戸は開いた状態で、テレビが置かれてあるのが見えたので、居間だろうと分かった。そろりと中を覗いてみると、小さなテーブルと、ここにも二人掛け用のソファが一つ。フローリングの床に緑色のラグが敷かれてあった。

 ごく普通のアパート生活に思えるが、


「母子家庭?」


 台所のテーブルも居間のソファも、どちらも二人掛けだからだ。

 偏見ではないが、母子家庭と聞くと色々と事情がありそうだと勘ぐってしまう。決して金銭的にゆとりのある生活ではないだろう。だが、子供が成人するまで養育費とやらは請求できると聞いたことがある。


「ペットは……しらたまはどこだ?」


 居間にはいない。一花の部屋だろうかと、台所に戻って二つのドアを開いてみる。まず、片方の部屋は和室だった。押し入れにタンス。あとロータイプのデスクがあった。部屋の隅に折りたたまれた赤い布団の色からして、女性の部屋だと窺える。

 もう片方の部屋は洋室で机やベッド、本棚がある。おそらく、こちらが一花(いちか)の部屋だろう。お邪魔しますといった感じに中へと足を踏み入れる。

実は女の子の部屋に入ったのは初めてだった。はじめには姉がいたが、姉は〝女〟には入らない。それはもう、この一花の部屋とは違って、ごちゃごちゃと床の上にはファッション雑誌やぬいぐるみに混じって、大事そうな書類関係等。そしてテーブルの上にはお菓子や化粧道具が散乱している。クローゼットを開けようものなら、服やバッグが雪崩れ込んでくる始末だった。それに比べて、この部屋はとてもさっぱりとすっきりしている。


「あっ」


 床の上に五十センチ四方くらいのケージがあった。中に、何か白い物体。ハムスターにしてはデカい。ウサギにしては小さい。大きな耳とふさふさのしっぽ。何だ、このキュートな生き物は。はじめはここでもクークル先生にカメラ検索を頼む。すると、出てきたのは――、


「チンチラ! あぁ、チンチラか。ん? チンチラって、ネコじゃないのか?」


 チンチラのしらたまは、ぶつぶつとつぶやくはじめを警戒したのか、小屋の中で固まってしまっている。本体は同じでも中身が違うと、動物の本能では察知できるのか。怖くないよと、「しらたま」と呼びな掛けながらケージを覗き込むも、どう接すればいいのか分からない。そもそも、懐く動物なのか。抱っこできるのか。噛みやしないのか。頭の中が謎だらけだ。とりあえず、今はそっとしておく。

 まずは着替えることにした。ついでだからシャワーを浴びる。まだ六月だが、歩いて肌が汗ばんでいた。香川では自転車通学が基本なので、意外と歩く機会はない。ド田舎は車社会なので、足腰は都会人の方が鍛えられていそうだ。

 着替えを探そうと洋服掛けに向かい、改めて気づく――中身は男だが体は女だ。さぁ、どうする?

 はじめは頭を抱える。男女入れ替えの漫画やアニメは沢山あるが、こんな細かなところまでは描かれていない。なので、参考にならない。

 しばし考えたのち、はじめが下した判断は――、


「極力、見ない!」


 着替えを引き出しからサッと取り出し脱衣所まで向かうと、見つけたタオルでぎゅっと目隠しをした。


「これで、よし!」


 そうして、浴槽に体をぶつけたり、シャンプーを手から滑らせたりしながら、やっとの思いでシャワーを済ませた。そして、母親が作ったらしい、まぁまぁ美味しい夕飯を有難く頂くと、自室へと戻りベッドへと倒れ込んだ。


「……何やってんだ」


 魂を交換して、川畑(かわばた)一花となった。この先、ずっとこの体で生きていかなきゃいけないのか? しかし、


「なんで、自殺しようとしたんだろ?」


 それを突き止める必要がある。

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