5.スマホから情報を得る
「はじめちゃん、夕食よ」
ボゥとしていた一花はハッとする。看護師さんが親しそうに声掛けしながらオーバーテーブルの上に膳を乗せてくれた。
「たこ焼き?」
夕飯のメニューはたこ焼きだった。それと、デザートのアイスクリームが付いていた。何か、イメージしていた入院食と違う。
「あれ? たこ焼き嫌いだっけ?」
「あ、いえ」
「これってよくたこ焼き出るのよね。何ならプラン変更する? 明日、栄養士さんと相談しようか?」
「いえっ、大丈夫です。たこ焼き大好きです!」
「何だか急にかしこまっちゃって、どうしたの?」
一瞬、ドキリとしたが、「そうですか?」と笑いごまかす。
「まぁ、何か困る事があったらいつでも遠慮なく言うのよ? じゃあ、あとでお薬持って来るから。ゆっくり食べてね」
と、優しく親切に言って、看護師さんは部屋から出て行った。
そうか、入院食にもプランがあるのかと知る。それにしても、たこ焼きにアイスクリームとは……大阪の人はお好み焼きでご飯を食べると聞く。同じ西日本、香川県民もそうなのか。いや、香川と言えば讃岐うどんだろう。うどんも高い頻度で出てくるのか。などと考えながら、食欲のなさを感じる。たこ焼きもアイスクリームも大好きで食べたいけれど、気分が悪い。食後に薬が出されるようだが、痛み止めは出されるのだろうかと心配しつつ、カップに入った冷たいアイスクリームを頭の痛いおでこにくっつけた。
ふと、窓の外を見ると、まだ夕暮れ時で空がオレンジに色付いていた。今、何時だろうと時計を気にしたところで、スマホという存在を思い出す。そうだ、スマホにはいろんな個人情報が詰まっている。床頭台の上を見たが、ない。どこにあるのかと枕元を探してみるも、ない。
(まさか、持ってない? えー?)
と、その時だった。足元からピコンと音が鳴る。すぐさま布団を引っ張りめくると、そこにスマホはあった。どんな寝相をしているのか。何はともあれ、見つかって良かった。
恐る恐るスマホを手に取ると、電源ボタンに指を当てた。すると画面が開いた。
(やっぱり! 助かったぁー)
指紋認証が設定されていたため、触れただけでロックが解除されて開くことができたのだ。これがパスワードだったならば、お手上げだった。
(……はじめちゃん、ごめんなさい)
プライベートが満載のその箱の中身を、やましさを感じつつ開いて覗く。まずは今のメッセージらしき通知音の確認。
未希《今、夕飯? 今日は具合どう?》
未希という名の女子から。何やら気遣われている。もしかして、彼女だろうか? そうか、彼女がいるんだ……そういえば、どんな顔をしているのだろうと、洗面台で鏡を見てみたくなった。トイレと洗面台は室内にある。だが、後で歯磨きする時に鏡は必ず見るので、まずはこのメッセージの返信が先だ。しばし考え込み、
はじめ《昨日と変わりないよ。夕飯はたこ焼き》
と、無難に打って送り返した。すぐに、
未希《んん? タメ口? どしたの? 別にいいよ、怒らないよ。たこ焼きか、いいなぁー》
タメ口じゃないのか? となると、先輩?
はじめ《あっ、すみません。間違えました》
未希《疲れてるのかな? 気にしない、気にしない。ゆっくり休んでね。じゃ、明日会いに行くから》
メッセージはそこで終了した。
(明日、会いに来る?)
どうしたものか。はじめとどういう間柄かも分からないまま、会う事になる。一花は気が引けたが、過去のメッセージのやり取りも読んでみて、関係を探ろうとした。が、今ので体力と精神力を消耗した。
とりあえず、おでこの温もりで少し溶けてきたアイスクリームを口にした。少しでもエネルギーを蓄えないと。と、無理矢理飲み込むように胃に流した。
食べ終わるとベッドに横たわって体を休め、少ししてから再びスマホのメッセージを開き、先程のやり取りを読み返す。
(未希って、先輩かな? どんな人だろ? メッセージじゃ気さくそうだけど)
他にも、友達以外に家族とか、どういう社会的人間関係を築いているのか。今後どういった態度で接すればいいのか。でも、ものすごく変な言動をしてしまっても、変装をしているワケではないので、中身は正真正銘の大場はじめだ。
魂を入れ替えると、こんなにも大変な苦労が待っているとは思いもしなかった。そんな注意事項を事前に説明を受ける間もなかった。早まってしまったかもしれないが、今さら後悔しても仕方がない。
何にせよ、あと余命一ヶ月――。
窓の外はすっかり夕暮れ空で、太陽が蝋燭のように赤い光を灯しながら沈んでいくところだった。




