1.想い人は同性
車両と車両の間から、チラリと覗き見る。
その人は背が高く、他の乗客よりも頭一つ飛び出していて、すぐに発見できる。
少し茶色い髪の毛と瞳。ハーフではないはずだが、目鼻立ちが整っている。そこら辺のアイドル顔負け。いや、それ以上。纏う雰囲気はとても柔らかく、そして明るく爽やかだ。全てが完璧と言える。
(今日も君に会えた)
こうして、同じ空間で同じ時間を過ごせる通学時間が一番の幸せ。だが一方で、その背後には不幸の二文字が付きまとっている。
(何で……何で、僕は男なんだ!)
千葉県F高等学校の三年A組に通う両本咲也は――そう、同性に恋をしてしまったていた。お相手は、同じ学校で同じ学年の色川英人。
決して、同性愛者ではない。と、自分に言い聞かせる。むしろ、今まではずっと女の子を好きになっていた。だけど、
(これが、バイセクシャルというやつ?)
自分に限っては認めたくないが、これを否定するということは、今の時代では差別に繋がりかねない。
恋の形は人それぞれ。
そう一言で片付けられるほど、頭は柔軟に作られていなかった。常に、人目を気にしては、顔色を窺っている小心者だ。
そんな咲也とは正反対に、いつも電車内では席が空いていても立てっている英人は、おそらくお年寄りなどに譲るため。
咲也はといえば、目の前にお年寄りがいても、「どうぞ」の一言を掛ける勇気が出ない。周りの人が寝たふりを決め込む中、何だか偽善者っぽく見られるのが嫌で、同じくならって寝たふりをする。身長が小さければ中身もとても小さい人間だとつくづく思う。
(あれ、あの子……)
同じ学校の制服姿の女子が英人に声を掛けた。
(確か、同じクラスの川畑一花――学年トップスリー)
何故、クラスの違う英人と一緒にいるのか。それは、学年一のトップが英人だからだろう。ここから二人の会話は聞こえないが、きっとハイレベルな会話を交わしているに違いない。もう十二月で期末テストも終わった。大学受験の勉強に必死になる頃だ。咲也も、そのうちの一人である。
背の高い川畑一花は、英人と並んでも見劣りしない。思わず嫉妬の念が湧き上がる。が、お似合いの二人にすぐに闘争心は消える。
ハァとため息を吐き、隣の車両で空いた席に座る。
(こんなの……いらない)
苦しく辛く、傷つくだけだ。何もかも忘れて、解放されたい。何だか、疲れた。ひどく、疲れた。もう――終わりにしたい――この人生ごと。
◇
咲也の疲れた足は、自然と学校の屋上へと向かっていた。
屋上のドアを開き、太陽のまぶしさに一瞬、目を細める。健康的に日光浴をしに来た訳ではない。そんな気分ではない。では、何をしにきたのか。
まとまらない思考のまま、ふらふらと手すり壁へと近寄る。そして、空ではなく眼下に視線をやる。
もし、このまま――と、思いついた時だった。フッと辺りが急に暗くなる。空が曇ったのか。知らない間に夜でも来たのか。
「ちょっと、ねぇ、両本くん? 何してるの?」
「……川畑さん? 何?」
あまり会いたくなかった。今朝、電車で英人と一緒にいたのを目撃していたからだ。ただの学年同士だろうが、どうしても気になって見えてしまう。
「まさかだけど、違っててほしいけど、ここから飛び降りようなんて……」
「……」
空いた数秒の間。
「うそっ、黙らないでよっ、違うと言って!」
「……川畑さんには関係ないよ」
しまった、と咲也は口にしてから後悔する。普段は大人しく無口なのに、肝心な時について出てくる言葉は冷たい。もっと慎重に選ぶべきだった、特に今は。
「そうだよね、ごめん。でも、この人にも言い訳できるかな?」
「この人?」
「あ、人間じゃないかも?」
何を言っているのかよく分からないでいると、一人の女性が現れた。艶のある長い髪に妖艶な赤い唇で、白い着物姿をして――宙に浮いていた。
ゴシゴシと目を擦り、そして左右前後を見回す。この暗闇は、あの世か。もう、すでに死んでしまったのか。全然、記憶がないけれど、そうゆうものか。
「はぁい。何だか色々と妄想しているようねぇ。まず言っておくけれど、あたしは幽霊じゃないわよ。あの世の使者ってことで。名は御加世。好きに呼んでちょーだい。君は、この学校の三年生、両本咲也君ね?」
「……そうだけど……あの世の使者って、幽霊じゃないの? この暗闇、あの世じゃないの?」
「そうね、ちょーっと違うわね。って、とても冷静な子ね。でもここがあの世なら、一花ちゃんはいないでしょ?
」
そうだった。この空間にには一花もいる。そこで初めて、うろたえる。
「え? なに? あなたたち?」
「両本くん、私まで一緒にしないでよ。私は生身の人間だよ、そんな怯えた目で見ないで」
「で、でも、その人は? 宙に浮いてる……っ」
「さっきの平静さはどこへいったのかしら? 感情のせわしい子ね。だから、あたしはあの世の使者の御加世よ、OK? もう、本題に入っちゃいましょうか。さっき、咲也君は何してたのかしら? もしかして、飛び降りようなんて? 微塵にも思っていないなんてのは、言わせないわよ?」
と、美しく微笑んでくる御加世に咲也はゾッとする。そして、はっきりとノーと否定できない自分がいた。
「そう、分かったわ。そんな咲也君に、ソウル・チェンジを提案するわ」
「ソウル・チェンジ?」
「そうよ、生きたい人と死にたい人の魂を交換するのよ。生きたい人は生きられるし、死にたい人は死ねるのよ。やってみない?」
「……いえ、結構です。間に合ってます」
手の平を前に出す咲也。
「そんな、訪問販売を断るみたいに! ホントに? ちょっと待って、このパターンは初めてだわ。やっぱり、あなたって、ちょっと性格が難しいわ」
と、御加世が助けを求めるよう一花の方をチラリと見る。
「んんー、おススメはできないよ?」
「一花ちゃん!」
「でも、考え直してみるのはいいかも。私もソウル・チェンジしたから言えることなんだけどね」
「えっ」
咲也はピタリと体を止める。それは、生きたい人と死にたい人のどっちだったのか。どちらにしろ、生死が関わる。しかし学年トップスリーの成績の人が、こんな怪しそうなソウル・チェンジという話に乗ったのか? と、ドン引きだ。
「あらあら、頭がフリーズしちゃったわねぇ。仕方ないわ、出直して来るわ。それまで、無事に生きてなさいね? じゃねーん」
御加世はいつものように、パッと消え去った。同時に時を止めていたかのような空間の暗闇も消え、辺りは太陽の日差しで明るくなった。
「こんな事もあるんだぁ……」
一花がしみじみと一言、ふぅと息をついた。
「今の、夢……じゃないんだ、川畑さんも見たなら」
「そうだよ。でも、両本くんみたいな反応がきっと正しいよね。というか、本当は死のうとなんかしてなかった? あの人もミス多いから」
「ミスって? 怖いから聞かないけど……死のうっていうかなんて言うか……あんま喋りたくないんだ、ごめん」
「あっ、そうだね。人の悩みに勝手に付け込んじゃいけないよね。こっちこそゴメンね、御加世さんの分も謝っておくよ。また現れても、嫌なら嫌って断っていいよ。でも……悲しい選択はしてほしくないかな」
そう言って一花は微笑すると、屋上を降りて行った。
正直、最後の一言は余計だ。が、優等生面だとひねくれて捉えてしまう自分に嫌気がさした。
しかし、やっぱり英人とお似合いで相応しい。認めて、応援すべきか。そういえば、一花は一時、クラスでイジメに遭っていた。もしや、それがソウル・チェンジした理由か? しかし今ではすっかり以前の一花に戻っている。イジメの主犯格だった女子とも普通に仲良くしている、まるで何事もなかったかのように。女子って怖いなと思ったところで、もしや女子の嫌な面を見て女嫌いになり、男子に走ったのか?
「いや、そんなんじゃない……色川くんへの気持ちは……」
ブンブンと頭を振る。すると、フッと視界に影ができ、またあの世の使者とかいう御加世が現れたのかと、顔を上げると――、
「色川がどうした?」
担任――加山雄二――森の熊のようなデカい図体の教師。
「いえっ、何でもないですっ」
「川畑が降りて行くのが見えたから、残ってる生徒がいないか確かめに来たんだが……おまえがいるとは。さすがだな、両本。文系は屋上で静かに読書か。それはとても感心するが、すでにチャイムが鳴っているのには気づいているか?」
「わっ、すみませんっ!」
「おっと、校内では走るな! 安全が第一だぞ」
「すみません」
「というか、次はオレの授業だよ! 一緒に向かうぞ、ほら!」
担任と一緒に教室に向かう羽目になろうとは。今は余計な神経を使いたくないのに。加山のどうでもいい無駄話を聞かされながら、ぐったりと疲労しながら教室へと戻った。
第三章のスタートです。
今回はなんとBL✕超能力ものです。
ここはシンプルな設定で書けば良かったかとも思いますが…暴走しちゃいました(汗)
どうか温かい目で見守ってやって下さい。
どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>




