17.晴れ晴れした気持ち
「ん! 美味しいー!」
十二月も上旬、室内よりも日の当たる屋上の方が昼間は暖かい。
一花と舞愛は屋上で一緒に昼食のお弁当を広げていた。
「それ、ほとんどがママが作ったから。あたしは調味料を入れたポリ袋を揉んだだけ」
聖子の宣言により、花嫁修業と称してお料理を習うハメになった舞愛だが、嫌ではなかった。今まで食べるだけで、普段の料理がどれほど手間暇を掛けられて作られているのかを知り、ママに脱帽した。
「ほんと、何か一番最初に会った時より、目が活き活きしてるよね」
「一番最初って、どんな目してたの?」
「この世の終わりを悟ったカンジ?」
「そんだけ悟ってたら、もう死なないんじゃない?」
「え、あの時、死のうと……」
「してないし」
だが、御加世は現れた。生きたい者と死にたい者の魂を入れ替えるために。それを経験済みの一花は、思う事が一つあった。
「聖子さん……お姉さんの具合はどう? 手術、来週なんだよね?」
「年末にヤダだよねー。まぁ、今どき入院セットとかあるらしいから、準備は簡単みたいだけど。手術も寝てる間に終わるわよって、お姉ちゃんが」
「術後が大変なんだよ。それに……やっぱ心配。何で御加世さんは現れたんだろなぁ……あ、ごめん。余計なこと喋っちゃった」
「……亡くなったんだっけ? 元カレさん。御加世さんの宣言通り」
「だから、元カレじゃないって。うん……やっぱ、運命は変えられないんだなぁって、残酷にも思ったよ。つい、御加世さんを恨んじゃいそうにもなっちゃった」
「恨めば? でも、死にたい者の運命は変わったじゃん? 死にたいって気持ち、もうなくなったんでしょ?」
「うん、それもこれも、全部はじめちゃんのおかげだよ。そう……そうよ、死にたい者の運命は変わる……これって、その逆もあるとは考えられない?」
「あたしは最初っから、ソウル・チェンジなんて、信じてないよ。それに別にあたし、死のうとも生きようとも思ってなかったから、グレーゾーンだよ。御加世さん、人選ミスじゃない?」
「うーん、あの人ならそういうミスはしそうだけど……まぁ、謎のあの世の御加世さんのことはともかく、応援してるよ。きっと、お姉さん、元気になれるよ!」
「当たり前じゃん! 一花、ありがと」
舞愛と一花は同じ境遇を経験した者同士として、固い友情が生まれ結ばれていた。
「あーあ、パート行くのかったるいなぁー」
「自分から言い出しといて? でも、よく両家のご両親、納得してくれたよね。それも、ほんっと、良かったね」
あの後、自宅に帰った舞愛は『これから、お姉ちゃんの代わりにパートで働くから』の一言で話を終わらせた。生みの両親の元へ戻るのではなく、ただ病気の姉に協力するという形に対し、少し安堵の表情を浮かべたパパとママだった。それでも、奇妙に両家は繋がり合った。その辺については、舞愛には知ったことではなくどうでもよかった。
「何か今回、違う意味で魂抜けたよ。だって、あのお父さんとお母さんだし。養子がどうのって、悩んでたのがバカみたい。お姉ちゃんのせいで、パパもママも何かちょっと変わったし。この間、つまみ食いして初めて怒られたよ」
「まさか、ぶたれたことないのに! ってやつ? 何だか聞いてると、ずいぶんクレイジーな世界に住んじゃったね」
「うん。家が二つできたよ、ラッキー」
「ラッキーって」
舞愛はケラケラと笑っているが、一花は笑っていいものかとためらう。
「じゃ、早速、早退してパートいってきまーす!」
「えーっ?」
思わず箸を落としそうになった一花に構わず、舞愛は勢い良く立ち上がると、屋上を駆け下りて行った。
「何なのよ。まさに、水を得た魚みたい」
「えぇ、ホントにねぇ。健全になって何よりよ」
いつの間にか、そこにいた。宙に浮く謎の美魔女――御加世だ。
「わっ! 何で? 暗くなってないのに?」
「こんなにも、いいお天道様じゃない? 雰囲気作りは止めたの。てか、次元を超える必要もないじゃない。あぁ、一時の休憩」
「次元、超えてたんだ、へぇー」
と棒読みした後、
「聖子さんは、助かりますか?」
「それは、お医者様に聞いてちょうだい。この世の人間の寿命は極秘情報だって、教えたでしょ?」
「でも、あなたが現れたってことは……亡くなるんですよね?」
「一年後か、十年後か、人間も結構、運命を切り裂くほどの未知なる生命力を持ってるから。私たちのデータでも予測不能な時もあるのよ」
「そうなんだ……」
少しホッとした一花だ。聖子は必ず、助かると信じる。残される家族のために、運命を切り開いてみせるはずだ。
「それで、何で私の前に?」
「あぁ……ちょっと、このプロジェクトは次で最後になると思うんだけど相手が……ちょっと複雑な心境を察してあげられないと言うか……」
「もしかしなくても、この学校の生徒ですね?」
「そうよ、当たり。ほら、やって来たわ、屋上に」
塔屋から出て来たのは――一花のクラスメイト。
「うそ、何で?」
クラスメイトは、ふらふらと手すり壁に歩いていく。
「御加世さん、まさか?」
「そのまさかよ。さぁ、ソウル・チェンジしに行くわよ!」
「待って、一体、私の周りに何が起こってるのー?」
一花の叫びは虚しく空に響き、次の瞬間には辺りはフッと暗闇に包まれたのだった。
〈第二章・了〉
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回、
BL要素入りですが、苦手な方は最終話だけでも読んで頂ければと思います。
一花と舞愛もまだ登場します。
引き続きよろしくお願い致します('ω')ノ




