4.格差を感じる
「ん? んん?」
気がついて瞼を開けば、知らない誰かが覗き込んでいて聖子はビックリする。
「きゃっ」
「あ、ごめんなさい。驚かせちゃって」
一花はソウル・チェンジした舞愛――の体に入った新しい魂の人物を心配で見守っていたのだった。
「ここは?」
「あの世の使者の御加世って人に会いませんでした? あなたは、ソウル・チェンジってのを行ったはずです」
聖子はしばらく考えてから思い出す。
「え、あれ……ホントに?」
その声は自分のものではなく耳に入ってくる。長いさらさらの茶髪のストレートロングに、服装は学生服姿だった。目の前の少女も同じ学生服だ。
「まさか、学生さんなのっ?」
「はい。舞愛さんはここの高校の生徒です」
「うそ、女子高生って……」
酷く頭が混乱してめまいがしそうになる。まさか、そんな若い子と魂を入れ替わるなんて。聖子は魂を入れ替える相手について、詳しく聞いていなかった自分のミスを責める。
「あなたは? 女子高生じゃないんですか?」
一花の問いに、
「違うわよ、もうアラサーよ」
十代の一花や舞愛からすれば、おばさんに見られても仕方がない。
「この子、この体の子は……誰?」
「そうですよね、一番知りたいことですよね。でもこれ以上、私が踏み込んでいいかどうか……とりあえず、生徒手帳で住所は分かると思います。あと、スマホも指紋認証で開くはずです。……家まで、一緒について行きましょうか?」
「そこまで迷惑は掛けられないわ。っていうか、何故、あなたは私が魂を入れ替えたことを知ってるの? あなたも、あの世の使者?」
「いえ、以前、私もソウル・チェンジを経験したんです」
「えっ?」
「だから、お役に立てる事なら、何でも言って下さい。あ、私は三年A組の川畑一花です」
「……そう、私は――元の魂の名は小堂聖子よ。また困ったら、というか今まさに困りまくりだけど、その時はお世話になるわ」
「じゃ、気をつけて帰って下さい」
と、一花は屋上を降りていった。
聖子はしばらく、うまく頭が働かずボーッとしていたが、肩に掛けられた鞄の中から生徒手帳を探し出す。
「――白石舞愛。三年生ね。住所は……隣の市かぁ。地方とかじゃなくてよかった。でも車はないから、バスね」
自宅までの経路はクークルマップで調べて大体分かった。けれど、どんな家庭の子だろうか。学生以来、久しぶりに乗ったバスの中で、あれこれ想像しながら胸がドクドクする。
バスを降りて徒歩五分程の閑静な住宅街に辿り着く。
二階建ての一軒家で、グレーの屋根にクリーム色の落ち着いた外観。庭の塀はきれいに手入れされた植木だ。玄関前には屋根付きの車庫スペースあり、黒い乗用車が一台停まっていた。
「この車、結構高いわよ……もしかして、お金持ちの子?」
何気にブランド物の財布を持っていて、頑張ってお年玉を貯めて買ったのかな? オシャレに敏感な子かな? と思っていたが、少し違うかもしれない。
恐る恐る玄関に手を掛けたが、閉まっている。それもそうかと、鞄の中から鍵を探す出す。ちなみにキーホルダーも財布とお揃いのブランド物だった。
鍵を回し、「失礼します」と小声で扉を開く。
玄関から見えた廊下は、無駄な物が一切なくスマートだった。靴箱の上に生け花が一輪飾られてあった。
ここでもまた、生け花なんて高いのにと貧乏性のように思ってしまう。故に、自然と花からは目を遠ざげる生活をしてきたので、ピンク色のこの花は何かと、季節の花を思い浮かべる。しかし、それは後回しだ。今はそれどころではない。
玄関にサンダル以外の靴がない事から、ご両親はまだ帰って来ていないのだろう。少しホッとして、家の中へと上がる。それでも、自然と忍び足になりながら、廊下を渡る。上がってすぐに二階へと続く階段はあったが、ひょっとしているかもしれない家族を考えて、まず居間らしき部屋へと入り挨拶する。
「ただいま」
小さく声を掛けるも、薄暗い部屋の中からは誰の返事も返ってこない。電気のスイッチを点ける。
そこは広いダイニングキッチンとリビングになっていた。システムキッチンがピカピカに光っている。調理道具や調味料などはすっきりと片付けられている。毎日使っていると乱雑になりそうなものだが、聖子は感心する。
そして、リビングには広く大きな五人掛けくらいのソファがあった。
まるで憧れのモデルルームのようだ。
それでもリビングの壁際の棚にはぬいぐるみと写真立てがいくつか飾られてあり、生活感が漂っていた。写真は家族旅行の写真で、人の良さそうな両親と一緒にピースサインの舞愛が写っている。まだ中学生くらいの頃のもののようで、今現在の写真は飾られていないなかった。もう、親よりも友達と遊びに行く方が楽しい年頃だろう。
とりあえずキッチンとリビングを後にして、二階にあるだろう自室へと向かう。
ドアが二つあり、片方に〝MAIA〟とプレートがぶら下がっていた。自分の部屋なのだろうが、コンコンとノックしてからドアを開く。すると、意外にも室内は散らかっていた。床にファッション雑誌やテレビに繋ぎっぱなしのゲーム機。机の上には教科書やノート。そして、エレガントなドレッサーの上にはメイク道具がごちゃごちゃと散乱している。
誰に似たのか。ご両親も本当はこうなのか。
そこへ、
ニャア。
と、ネコの声がする。足音もなく近づかれてビックリして肩が飛び跳ねた。
そこには長毛種のネコ。おそらくラグドールだ。聖子はネコ好きなので、ネコの種類には少し詳しい。しかし血統書を飼ったことは、もちろんない。
「ラグドールちゃーん」
思わず猫なで声を出してしまう。ネコは警戒することなく、足をすりすりしてくる。たまらず抱き上げてモフっているところへ、
――ピロン
スマホが鳴った。
ママ《冷蔵庫にハンバーグがあるから温めて食べてね。あとサラダもあるから》
ママからのメッセージだった。
「共働きかしら?」
色々と、この家庭と舞愛について調べたいことはあるが、とりあえず用意された夕食を頂き、ラグドールのネコにもエサを与えることにした。




