2.男女まで入れ替わり
はじめが覚えているのはそこまでだった。
「……あの人、あの世の使者の御加世……何者だ?」
本当に、あの世の使者なのか。疑うが、体が宙に浮いたり、スクリーンを一瞬で出したり、マジシャンでもない限りできない。そして、何よりも……、
「オレの体……女にっ?」
男ではあり得ない大きな胸の膨らみに、これまた男ではちょっとあり得ない長い肩までの髪。口から発せられるトーンの高い可愛らしい声も、男ではあり得ない。
「この制服……あの映像の子の?」
確か、魂を入れ替えるとか何とか言っていた。まさか本当にか。
「おいっ、あの世の使者の御加世さん!」
呼んでも出て来ない。
しかし、この少女と魂を入れ替えることで、屋上から飛び降りるのを止める事ができた。
「無事、命を救えたってことか?」
しばし呆然としながら突っ立っていると、フェンスの近くに靴を発見する。今の姿は靴下のみで靴を履いていなかった。おそらく、この靴は少女の物だろう。飛び降り自殺をする際、ドラマなどをお手本にしたのか。靴の下には封筒が置かれてあった。靴の上ではないのは、風で飛ばされてしまわないようにとしたのだろう。そこだけ妙に現実的だ。それだけの冷静さを持っていたのだ。御加世の言う通り、強い覚悟を持ち、実行しようとしていた。
はじめは辺りをキョロキョロと見回す――誰もいない屋上。当たり前だ、自殺をするのに人気のある所は選ばない。ここはおそらく少女が通う学校の校舎。見上げた空模様からして、まだ夕方近くと推測する。つまり、部活動の部員や教師はまだ居残っている可能性がある。
警戒しつつ、靴の下に置かれた封筒をそっと抜き取った。というか、靴を履いていない方が不自然だというのに気づき慌てて履く。
手に持った封筒に視線を落とし、
「……読んでいいのか?」
大いに迷う。が、この体の少女が書いた物だし、中を読めば、なぜ少女が自殺しようとしたのかが分かるはずだ。
封筒は黄色いチェック柄。
「幸福の黄色い――とか、皮肉じゃないよな? やめてくれよ?」
皮肉でないとして、黄色いレターセットを好んで買うような少女。明るい性格なのかと想像して、そんな子が何故? と、やや偏見が入るかもしれないが、疑問に思う。
恐る恐る中の便箋を取り出して、二つ折りにされたそれを開く。
お父さん、お母さん
ごめんなさい。
そして、今までありがとう。
しらたまのお世話をお願いします。
さようなら。
そう短く五行だけ書かれてあった。
「なんも分かんねぇー!」
自殺の原因は何か、例えばイジメならば犯人は誰かなど。そういうのを書くものではないのか。
しかし、ニュースなどで見る芸能人の遺書などは、とても短い。全文公開されるはずはないだろうが、遺書自体ない場合もある。そう考えると、やたら生々しい遺書に感じてきた。そして、両親にありがとうとごめんなさいと綴った上に〝しらたま〟という名の何かのペットのことにまで触れている。この少女は、きっと心の優しい子だというのが伝わってきた。
そんな少女の身に何があった?
十中八九、イジメではないのかと、はじめはにらむ。そうとならば、相手を許せないが、
「……未遂か」
あの世の使者の御加世とやらに魂を入れ替えられ、こうしてこの少女の自殺は未遂に終わり、無事に生きている。この少女はこれから先、明日も生きていく。
「――オレが、代わりに?」
ここでようやく、はじめは重大な事に気づく。
自分の体は今どうなっているのか? 魂が入れ替わってとうことは、この少女が自分の体に?
「おいっ、待て待てっ」
はじめは天に向かって叫ぶ。
あの世の使者の御加世とやら、どうゆう事だ? 説明しろ! と。




