18.病状が急変
それから、一花は落ち着かずスマホをずっといじっていた。大場はじめについて知りたいという気持ちが強まったからだ。
そうだ、と思いフォトを開く。
そこには未希や悠と一緒に映った部活動の姿や、友人と遊びに行った時の写真などがズラリと並んでいた。
どれも楽しそうにしている笑顔が眩しい。
入院してからの写真も沢山あり、少し驚く。そこには昼間に連れて行ってもらった病院の外にある広場でサッカーボールを手に持っている姿や、病院内のコーヒーショップで美味しそうにカフェラテを飲んでいる姿などがあった。
どれも明るい笑顔が溢れていて、とても病人とは思えない。どこにそんなエネルギーが残っているのか。
数あるフォトをずっと下まで根気よくスクロールしてみると、一気に画素の落ちた古そうな写真が最後に一枚出てきた。
(え……)
一花は目を疑う。
小さな男の子と女の子のが公園で一緒に映っている写真――見たことがある、これと同じ写真を――私は持ってる、確かに。
(これって……〝はじめ〟ちゃん?)
小さい頃、近所に住んでいた男の子。名前は〝はじめ〟ちゃんだった。大場はじめの名を、よくある名だなと思ったのは、このせいだったのか。
はじめとは、よくボール遊びをしていた。人形遊びなど、女の子らしい遊びよりも、体を使った運動の方が一花は好きだった。だから、男の子のはじめとも仲良くなれた。
次々と懐かしい過去が呼び起こされていく。
そして……、
(……指輪をもらった)
大きくなったら結婚して下さいと――。
ビックリして、どう返事したのかハッキリ覚えていないが、その後すぐに一花は引っ越してしまったので、きちんとした返事はできていないままだった。
小さな子供の約束。
もう、はじめは忘れただろうか。一花は――半分、信じていた、心の奥底で。友達に話せば、夢見がちだと笑われたこともあるけれど。きっとまた会えると待っていた。
それが、こんな形での再会になるとは……全く想像もしていなかった。
「うっ」
急に息が苦しくなった。
スマホの見過ぎで具合が悪くなったのか、それとも心労か。
――ガシャン
手からスマホが床の上に滑り落ちる。
「たすけ……」
ナースコールを手繰り寄せて、必死にボタンを押した。少しして、パタパタと廊下を駆けて来る看護師の足音が聞こえてくる。
一花の記憶はそこまでだった。
◇
「起きてちょーだい」
と言われて、目覚めたはじめはスマホの時計を見る。
まだ朝方の四時だ。
「……御加世さん。いきなり消えたり、いきなり現れたり、ちょっと自分勝手じゃないか?」
「えぇ、私の勝手よ。でも、一大事が起きたから知らせに来たのよ。どう? 知りたい?」
「いや、一大事なんなら知らせろよ! 何でそこでもったいぶる?」
「人は疲労が溜まると、頭がふざけてしまうのよね」
「人じゃなくて、あの世の使者じゃ……てか、早く!」
「そうそう、それだけど……一花ちゃん――あなたの体が急変したのよ。もしかしたら、危ないかもしれないわ」
「え……」
はじめは凍りつく。ついに、その時が来たのか。
「一つ、確認よ。あなたは、このままでいい? 一花ちゃんの体で生きていきたい?」」
「全っ然! 一花の魂を死なせたくない!」
迷わず即答する。
「そう、これで互いに合意したわね。じゃあ、急いで一花ちゃんに会いに行って。戻る方法は一つ、直接お互いの手を繋ぐことよ」
「何だ、それだけだったのか? わかった、すぐ会いに行く!」
「じゃ、あたしは伝えることは伝えたわ。あとはお互いに好きにするといいわ。じゃねーん」
またも一方的に話を終わらせて、御加世は消えた。
「まったく、あの世の使者の御加世さんてのは……って、どうやって会いに行けばいいんだ?」
てっきり一緒に連れて行ってくれるのかと思ったが、違った。これは漫画やアニメじゃない。現実は厳しい。
急いで顔を洗って服を着替えると、
「ママ、ちょっと香川県に行って来るから!」
ソファの上で倒れているママに一言、声を掛ける。「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げたが、説明している時間はない。
机の上にあった貯金箱の中身を全て財布に詰め込み、スマホのクークルマップを頼りに新幹線へと乗るべく、東京駅へと向かった。




