10.イジメの原因
門前をダッシュで駆けると、「あと五分だぞ!」教師がはじめの背中に向かって叱咤してきた。
「五分あれば、上等!」
下駄箱の位置を思い出し、扉を開く。そしてシューズを履く前に中をチェックした。
「押しピンが入って……ない」
そんな定番の嫌がらせは受けていないようだった。すでにあったかもしれないが、これは一度っきりしか効果がないだろう。そして成功率も低い。と、思う。
とりあえず安心して上履きを履くと、階段を二段飛ばしで三階まで駆け上がる。女子の体で大丈夫かと、半分は試したのもあるが、やはり身長が高めの一花には余裕だった。ここまで登校して来て、体力もある方だと感じた。
「何部かな、バレー部とか?」
つぶやきながら、教室の前まで来ると、中から生徒たちのにぎやかな声が聞こえてきた。
息を大きく吸って吐く。そして、教室の扉を開く――、
「おはよー」
と、ごく普通にあいさつして中へと入る。
皆、会話に夢中ではじめ――一花の声は聞こえていないようだった。しかし、視線を流すと、一花の席から斜め前の席にいる女子三名がこちらをチラリと見た。が、あいさつはない。はじめは直感した。この三人と何か関係がある、と。今は近寄らず、自分の席へと向かう。
机にいたずら書きなど、何もないのを確認して着席すると、「来たんだ、アイツ」というセリフが耳に入ってきた。すぐに先程の女子三名に目線をやるも、まるで無視するかのようにこちらに背を向けていた。確かに、声はその辺りから聞こえてきた。やはり、怪しい。
しかし、クラスメイトたちの顔や名前などがさっぱり分からない。生徒名簿とか見られないものか。あとで担任の加山雄二に頼み込んでみようか。
そんなことを考えていると、加山が教室に入って来た。HRの時間だ。そして、そのまま加山の世界史の授業が始まる。
はじめは教科書を開いて愕然とする。闘病生活中、かなり授業が進んでいて、さっぱり分からなかったからだ。すぐさま、ノートの方を開く。
(お、ちゃんと取ってある。字もキレイだ)
見た目のみならず、字もキレイとは。性格はよく分からないが、それ以外は今のところ、完璧だ。まさか、これが起因していたりしないだろうかと考える。些細なことをきっかけに、美人だからといって妬みや嫉妬を受けているとか、だ。
(うーん……)
やはり、ここはあの世の使者の御加世からの情報が必要だ。さっきの念波とやらが届かないか耳を澄ませていると、
――ちゃんと、授業受けなきゃダメでしょー。
本当に、聞こえてきた。しかも授業中に。言葉と行動が矛盾している。
つい、声を出して喋ってしまいそうになり、喉元で抑え込む。念波には心の声で答えればいいのか? となると、はじめの心の中は全て丸見えになってしまう。
――あ、今のこれは一方通行よ。声を出さなくても、大体何を考えてるかは想像がつくわ。というか、一花ちゃんのイジメについての情報しかないわよね。
返事をする代わりに、はじめは小さく頷いた。とりあえず、心の中を覗かれずに済んで良かった。
――数ヶ月前に大学生との合コンがあったらしいんだけど、メンバーが人数合わせに一花ちゃんに誘いがかかったみたいなの。乗り気じゃなかったけれど、しぶしぶ参加したところ、大学生の一人に気に入られたのよ。その大学生ってのが、さっきあなたが怪しがっていた三人組の中の彩香って子のお兄さん。かなりブラコンで医大生の兄を自慢していたみたいよ。だから、最初はただの嫉妬みたいなものだったんだけど、一花ちゃんはお兄さんのアプローチを断り続けたのよね。それがまた、自慢の兄をけなされた思われて、今度は怒りをかっちゃったワケよ。
これは、はじめの予想を反するイジメの原因だった。普通は大体、何となく気に食わない相手をイジメのターゲットにしてストレス発散する、といった感じだからだ。
しかし、高校生にして大学生――医大生と合コンとか、恋愛絡みとか、これはなかなか難しい問題だ。参ったなと、おでこに手をやる。
――ざっくりと説明すると、そゆことよ。てなことで、早く授業に戻りなさいね。
授業を中断させたのは、誰のせいか。文句の一言も言えないのが悔しい。が、はじめはもはや授業を放棄して、腕を組み考え込む。
一花は何も悪くないとして、彩香の兄をフッた理由は何なのか。いや、二人の間に何があろうとも周りが口出すべき事ではなく、彩香はただのブラコンだな。としか言いようがなかった。
とりあえず、今は向こうの出方を見ることにした。




