36.来るっ……遂に審判の時がっ
今回はメインヒロイン視点です。
「始業式、終わったね」
私はそういって周りを見る。生徒達は我先にと、二つの出入り口に向かって、行進していた。
前回の事で分かったけど。悟は基本的に、非効率な動きを嫌う。
だから彼は、その場から一歩も動かずに、体育館の二つの出入り口の混雑が収まるまで、立ち止まってる筈。というか、今現在も動いてないけど。
「人の流れが落ち着くまで、時間あるね?」
私はこの時間が好きだ。終業式の時、今と同じように何もせずに、ただ話してるだけの時間。今までの私だったら、誰も気にせずに人の混雑に揉まれながら、教室に帰っていたと思う。でも今は
「あるけど、それがどうかしたの?」
今は悟がいて、悟の考えを知って、それも今なら良いなって思える。だって悟と一緒にいられるんだよっ。それって天国じゃんっ。私は、悟の手を掴もうと手を伸ばす。彼の手に触れた瞬間、その手がビクッと震える。
「どうしたの悟?」
私が尋ねると、悟は顔を赤くしてそっぽを向く。ん? この反応……さては、さっきの耳噛まれたこと、気にしてるな~?
「悟、ホント可愛いっ」
私はそういって彼に抱き付く。
「ちょっ、こういうのはしないって約束じゃっ!?」
「ごめん、我慢できなくて~っ」
私は、そう言いながらも、悟の抱き心地を堪能する。あ~っ、この柔らかさ最高~っ。クッションや綿の詰まったぬいぐるみより、気持ち良すぎとか……ヤバいよねっ。
そう感じるのは、私が悟の事を全部受け入れてるから、なんだろうな~っ。というか、ナチュラルに名前呼びしても、怒らないとか悟って本当に、お人好し過ぎるよっ。逆に心配……。
「悟の事私が守るからねっ」
「なにがどうなって、そうなったのか知らないけど。一旦俺から離れてよ……約束と違うし、周囲から目立ってるから」
もう~っ。どんな時でも、クールぶっちゃってっ。まあ、そこが悟の良いところでも、有るんだけどねっ。
私は寂しさを感じながら、悟から離れる。
「神崎さん、俺の事を揶揄って、楽しみたいのは分かるけど。人の少ないとこか、二人っきりの時にしてよ」
冷静を装って言う悟。必死に私と目を合わせて、言ってるけど。耳、真っ赤なんだよな~っ。しかも、私の方が背高いから必然的に、上目遣いになる格好。ヤバいっ。めちゃくちゃ可愛いっ。
「あ、ようやく人が少なくなってきた。俺達も、そろそろ教室に戻ろう」
私はその言葉を聞いて首肯する。そして、悟の手に自身の指を絡める。
「あの、まさかこの状態で行く気?」
「なに? これじゃあ駄目?」
私はジッと悟を見る。きっと今の私、物凄く不満そうな顔してるんだろうなぁ。私の視線を受け止めた彼は、捨てられた子犬のような顔をする。ふふっ、今めちゃくちゃ困ってる。可愛いな~っ。
「ま、まあ。駄目じゃないよ。これ以上悪ノリされても困るし……行こうか」
そそくさと答えて、悟が歩き出す。手を繋いでる訳だから、彼に引っ張られる形で私も、歩き出す。
「そういえば、今日午前中には終わるから……久しぶりに、お店来ない? ママも悟に会いたがってたし」
「そういえば祭りの日以来、会ってなかったもんな。うん、良いよ」
隣でコクンと小さく頷く悟。その視線はずっと下を俯いたまま。でも周りが気になるのか、チラチラと周りを窺っている。
これはアレだよね。私と手を繋いでる事が周りにどう映ってるのか、気にしてる。その当の自分は、耳まで真っ赤にして恥ずかしがってる……うん、ホント可愛いな~っ。
私達は、外廊下を歩いて自教室に向かう。途中複数の生徒が、疑心暗鬼な視線、はたまた羨望、嫉妬の視線を飛ばしていたけど。無視よ、無視無視。
教室の前に着くと、悟が私と繋がってる手を解く。グスン、若干悲しい。私にとって大事な温もりが離れるのは、身を裂かれる思いに、駆り立てられる。
「じゃあ、また後で」
そういって、先に教室へと入っていく。私もその後に続く。因みにだけど、私と悟の席は離れている。
私が教卓前の席。悟は窓際の一番後ろ。因みに私と彼の中間に、野呂君がいる。
出来れば、悟の隣の席になりたい。そうすれば、授業中でもイチャつけるのに。でもそんな事をしたら、悟が怒りそうだから我慢しなきゃ。
でもそろそろ席替えとかしてくれないかな? 一学期の間ずっと席替え一回も無しとか、あり得ないでしょっ。
と言ってもなぁ。中学までは隣同士机を、くっ付けてるのが当たり前だったけど、一定間隔で離されちゃってるんだよなぁ。
そもそもの話、悟はどう思ってるのかなっ!? 私の事異性として見てくれてるのかな? 手繋いだり、さっき耳噛んだとき、凄く恥ずかしがってたから、少なくとも女の子として意識してくれてる……筈っ。
でも恋愛対象としては、見てくれてないんだろうなぁ。悟自身、自己評価低いし、誰かと付き合うなんて……考えたことも無いと思う。だから安心出来る。彼が他の子に目移りしないって事だから。
あ~やっぱり、隣同士の席になりたいなっ。だって隣なら、お昼ご飯の時に机くっ付けて食べれるし、悟を独占出来る……それって最高じゃんっ。
まあ、野呂君は悟の親友だし、男同士の友情というのも有るだろうから、会話に入ってくるの許すけどねっ。
そんな事を考えていたら、担任の教師が教室に入ってきた。先生は入ってくると、体育館で校長先生が言っていたことを、繰り返し言ってくる。この時間、正直無駄だと思う。なんとかならないかしら。
「必要事項は以上だ。では……」
「先生っ」
やっとお開きかと思った時、一人の男子生徒が手を上げて呼び掛ける。なに? こっちは早く帰って、悟とイチャつきたいんだけど。
「どうした?」
「先生……席替えがしたいですっ」
その生徒の言葉に周りの生徒が、時が止まったかのように静まる。
「席替え?」
「はい、ずっと一年間同じ席なの嫌ですっ。気分を変えたいですっ」
そう、熱弁する男子生徒。名前は……駄目だ。全然覚えてない。ていうか、クラスメイトの名前覚えてるの、悟と野呂君しかいない。私どんだけ他人に興味無かったのよ。
「席替え……か」
神妙な顔で呟く先生。どうやら反応はイマイチのよう。ああこのままじゃ、この提案無かったことにされそう。
「先生ーっ。席替えの意見には俺も賛成」
そう名乗り出たのは、野呂君だった。
「野呂……だが」
「気分替えは大事なことですよ。一年も同じ席だと、ストレスも溜まるし、定期的に席替えが有るなら、生徒の楽しみになって……寧ろそれを励みに、勉学をこれまで以上に力を入れてくれるかも」
淡々と語る野呂君。先生はその発言に段々と、前傾姿勢で聞き出す。
「そうか。まあ、たまには良いかもな。次回のHRの時に、席替え用のクジを用意しとく」
そう言って、周りを無言で一瞥した後、教室を去って行く。
先生が去った後、クラスメイト達が一斉に騒ぎ出す。皆、席替えをしたいって心の中では思ってたんだ。
まあ、そう言う私も内心ウキウキしてる。だって、悟と隣同士になれるかもなんだよっ。興奮するなって方が無理っ。
次のHR……来るっ……遂に審判の時がっ。
私は逸る気持ちを抑えながら、帰りの準備をするのだった。




