31.ホント影野って……これでモテてないって思ってるの、おかしいよねっ
今回はメインヒロイン視点です。
〈神崎燈side〉
「お帰りなさい。マ、マ……」
私は開かれた扉を見て、ママが帰ってきたと思ってお帰りなさいって言ったんだけど、そのママの後ろに影野が居て、私の頭が真っ白になる。
だってまた例の髪型にして格好いい顔を出しているから。それに加えてお洒落をしていて、私の胸の鼓動が徐々に早まる。
上はコバルトブルーのシャツでその上に、白のカーディガンを背負っている。下は紺色のズボン……スラックスかな? 靴は白のスニーカー。前より格好いい。めちゃくちゃ好き。
なに? 今度は落ち着いた大人系コーデをしてきたの……しかも私と花火を見る為だけに?
――そんなの、益々好きになっちゃうじゃんっ。
「……」
影野は私を見て声を失って、固まっている。そうだ、今の私……浴衣姿だった。
どうしよう。影野に変な格好として映っていないかな。ちょっと……いや、大分不安~っ。
「悟君、どうかしら。燈の浴衣姿は?」
ニヤニヤしながら、影野に尋ねるママ。むぅ、ママだから特別に許すけど、影野に意地悪して困らせて楽しんで良いのは、私だけなんだからねっ。
「あ、いや……その」
影野は私から慌てて目を逸らして言い淀む。え、なに? もしかして似合ってなかったっ!? ママと一生懸命、悩んで悩み抜いて決めた浴衣だったんだけど……。
「あら、もしかして悟君のお気に召さなかった?」
「ち、違いますっ」
ママの言葉に慌てて否定する影野。食い気味に否定したから、ちょっと、ビックリしちゃった。
影野は逸らしていた目線を、私に再度向け直す。遊園地で間近で見た、茶色くて綺麗な双眸が、私に向けられる。それだけで胸がトクンと高鳴る。
影野の頬が見る見るうちに、最初はほんのりと……だけど徐々に勢いを増して、顔だけじゃなく耳まで赤くしていう。
「に、似合ってる。いや違うな……綺麗だし。か、可愛いと思うよ」
私は、しどろもどろに言う影野の様子を見て思った。何このカワイイ生き物はっ!!
恥ずかしいはずなのに、耳まで真っ赤にしてまで真剣に伝えてくるとか……めちゃくちゃ最高じゃんっ。
「ありがとう、影野」
私は若干震え気味な声で、影野に褒められた事への感謝を伝える。ヤバイ、胸のドキドキが収まらないし、今凄く幸せで満たされた気持ちになってるから。
絶対変な顔はしてないまでも、ニヤニヤ顔を今してるんじゃないかなっ。影野に変な風に見られたらどうしよう~っ。
「……」
影野が私の顔を見て固まる。え、なにっ? 私今、そんなに変な顔をしてるのっ?
「燈、良い顔してるわ~。その調子で頑張りなさいっ」
ママが満面の笑みでガッツポーズをしてくる。そんな満面の笑みでガッツポーズされて、頑張れって言われても困るんだけど……後で私どういう顔をしていたのか、ママに確認しよう。
「浴衣だけじゃなくて、ちゃんと下駄も履いてるんだ」
影野が感心したように言う。
そう……私はママと綿密に会議を重ねて、浴衣には下駄を履く事に決めた。
それも昨今では、鼻緒が無い下駄が出ている中、鼻緒付きの下駄を敢えて選ぶ事にした……敢えてね。
理由としては、下駄は年に二、三回履くか履かないかの代物で、私がそうだけど。ヒールを履いてる女の子が、多いんじゃないかなと思った。
だからヒールよりも下駄の方が歩きにくいはず。バランスが圧倒的に、取り辛いから。
後は鼻緒付きの下駄。これは非常にチャンスだって思ったから、敢えて選んだ。
チャンスというのは、もしお祭り中に鼻緒が切れたら、必然的に影野に身体を預けながら、歩く形になるから。
だから私はピンクの浴衣と、同じ色の鼻緒付きの下駄を履くことにした。足下だけ浴衣と色違うと、統一性保てないからね。
「浴衣と同じ色の鼻緒……うん、可愛いね。神崎さんの銀色の髪に、とっても似合ってる」
影野。淡々と言って冷静を装ってるけど、まだ顔の赤みも引いてないし、耳真っ赤だからね。でもそんな所も可愛い……好き。
「燈。褒められてばかりいないで、悟君の格好も褒めてあげなさい」
ママに言われてハッとする。そうだ、影野が来てから私……全然影野の服装について触れてないじゃん。でもその前に
「またその髪型してきたのね……」
「ごめん。これには理由があって、この前神崎さん。この髪型にしたら喜んでくれたから……もう一つは、遊園地に行って思ったんだけど。美少女の神崎さんの隣に、地味でダサい服装の俺が居るのは、周りも不思議がるし。神崎さん自信にも恥を掻かせるんじゃないか、って」
必死に理由を並べ立てる影野を見て私は、吹き出しそうになる。
こんなに必死になって、しかもその髪型も服装もすべて私の為とか……めちゃくちゃ好き。というか愛くるしい~~~っっっ。
どうしよう。ママの前とはいえ、このまま抱き付いても良いかな……ダメダメっ。それは祭りの最中にしなきゃっ。出来る場面があればだけど。
「私の為にしてくれたんだ……影野、似合ってるよ」
私は精一杯の笑顔を浮かべて言う。影野は私の言葉を受けて、せっかく引き掛けていた頬の赤みが、またブワッともの凄い勢いで染まっていく。また耳まで赤くしちゃって、可愛いんだから……大好き。
「そう。で、なんでこんな早くから来たの? 待ち合わせ時間まで、一時間以上は有るんだけど」
私が尋ねると影野はバツの悪そうな顔をして
「その出店の準備を、してる光景を眺めたら面白いかなって」
とシュンとしながら言う。別に私、影野に対して怒ってるわけじゃないのに。叱られた子犬みたいに、なっちゃって……可愛いっ、ずっと見てたいっ!!
「それは、面白いかも知れないわね~。燈……悟君と川の方へ行ってきたら?」
ママが促してくる。因みに毎年行ってる花火には今日、ママは来ない。いや実際には来るんだけど、私とは別行動。ママはママで、他の友達と一緒に祭りを、楽しむんだとか。
今から外かー。まあ、夕方の五時でも暑いことに、変わりないから別に良いけどね。
「うん、分かった。ちょっと待って……今顔や手に、日焼け止めクリーム塗るから」
私はそう言って近くのテーブルに、置いてある日焼け止めクリームを手に取る。蓋を外して、中に詰まっている液体を手に乗せる。ヒンヤリとした感触が手に伝わる。
「……」
私が、顔や手に馴染ませるように塗っていると、その様子を影野は無言で眺めてくる。な、なにっ? 私何か変なところでもあったっ!?
「影野……どうしたの?」
あらかた塗り終わって、私は影野に尋ねる。
「神崎さんの手が、綺麗だなと思って」
真剣な顔で言う影野。突然口説き文句を言われて、私の頭がぐるぐる回る。
えっ……なにそれっ? 普通に褒めてるって認識で合ってるっ!? それとも口説いてるのっ!?
いやいや、影野は下心とかそんなの全然無い男の子だからっ。それに、いつの間にか顔の赤みも引いてるし、それで真顔で言ってるから。ただの感想で間違いないはずっ。
でも残念だな~っ。影野にだったら、いつでも口説かれても、良いって思ってるのにっ。というか、そろそろ私達の関係進展しても良くないっ!? グイグイ行ってるんだからさっ。
「ありがとう。褒めてくれて嬉しい……ママ、じゃあ早いけど行ってくるねっ」
「ええ、頑張ってね」
「うんっ」
お互い微笑み合って挨拶を終えると、私は影野の元へ進む。歩く度にぐらぐらする。カタカタと歩く度に音が鳴る。
「影野……行こっ」
私は影野の目線より低くなるまで、腰を屈めて上目遣いで言う。影野は私を見てうっと唸った後
「じゃあ行こうか?」
再び耳まで真っ赤にして、手を差し出してくる。影野ってこんなに、イジり甲斐が有るんだ……可愛いから、今度から積極的にイジりまくろっ。
っていうか、私の事を気遣って転ばないように手を差し出してくれるとか……本当、影野って優しい~~~っっっ。私は影野の手を握る。勿論、指を絡ませる恋人繋ぎで。
あ~本当、これだけでも癒やされる。
「では薫さん、娘さんをお借りします」
影野はそう言って、ママに頭を下げる。
「悟君ったら、それは固すぎよ~っ」
にこやかな笑みで言うママ。
「でもそうね。燈のこと宜しくね」
「はい」
影野はそう返事をすると、店の出入り口のドアノブに手を掛ける。そして店を後にするのだった。
三十分歩いて、私達は川に着いた。途中コンビニに寄って、飲み物を買った。私はレモンジュース。影野はコカコーラ。
お互い飲み物を買い終えて、外に出て少し歩いたところで
「ごめん。買い忘れた物があるから。ちょっと待ってて」
そう言って、影野はコンビニに向かって走って行く。数分して帰ってきた影野。
「何を買ってきたの?」
「ん、ちょっとした物だよ」
と言って、はぐらかされる。ズボンの両側のポケットが、少し膨らんでいる。そこに買った物を入れてるんだ。でも、何を買ったんだろう?
まあ、途中コンビニに寄った位で、その後は何もなかった。あった事と言えば、私達のことを通行人が、チラチラと見てきたくらい。
男性陣は私を。女性陣は影野を見ていた。中には黄色い声を上げている女性もいた。二十代前半くらいの女性。
やっぱり、年上から見たら影野は可愛いよね。同い年の私ですら、可愛いと思うくらいなんだから。でもごめんね。影野は誰にも渡さない……影野を独占して良いのは私だけなんだからっ。
川に着くまでずっと私は、影野の腕に胸を押し付けて来た。道行くの女性陣に私の物だって見せ付けるように。
ここに着くまでの間、私が影野の腕に胸を押し付けてから、ずっと恥ずかしいのか彼は顔を俯かせて、歩いていた。チラと横を見た時に影野の耳が、真っ赤に染まっていた……ホントに可愛い、だいすきっ。
「凄い眺めだな」
影野が感激したように言う。川岸にズラッと並ぶ出店。階段を下りればその出店に、辿り着く場所に立っているけど、ここからでも甘い匂いや香ばしい匂いが、鼻腔を擽る。
「……っ」
私は、影野に聞こえないように小さく呻く。実は毎年祭りに来る時、私は普段着で今日人生初の浴衣を着た。当然、下駄も初めてで。歩く度に鼻緒に当たっている、両足の親指と人差し指の間が、痛んでいる。
「あっ」
影野が私の手をいきなり離す。今まで感じていた影野の温もりが、消えて寂しくなる。
影野が私の前に立って、背を向けた状態でしゃがむ。え……これどういうこと?
「近くにベンチあるから……そこまで行くよ」
影野……もしかして私が足痛いの気付いて、おんぶしてくれるって事っ!?
「早く乗って」
私は影野に急かされて、影野の背中にゆっくり抱き付きながら思う。
ホント影野って……これでモテてないって思ってるの、おかしいよねっ。
私はおぶられるのに恥ずかしさを感じながら心からそう思うのであった。




