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一匹狼クール系女子がなぜか俺に構ってくる件  作者: たかはし


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28.今日はありがとう……悟

今回はメインヒロイン視点です

 影野に渡された黒のカーディガンを羽織って、私は影野に待つように言われたベンチに腰を掛ける。


 影野はひたすら歩いて、見る見るうちに遠ざかっていく。きっと、売店に行ったんだ。売店ならタオルやTシャツが売ってると思って、そっちに向かったんだろうな。


 はあ……それにしても絶叫系は初めて乗ったけど、あんなに怖かったなんて。影野の手を強く握り過ぎちゃったな。だって、しょうがないじゃん。あんなに怖いとは思わなかったんだもん。


 にしても今羽織ってるカーディガン。濡れてるとはいえ、さっきまで影野が着ていたんだよね。なんか……嬉しいような、恥ずかしいような。


 まるで後ろから影野にギュッて抱き締められてる感じがして……好きだな。


「お待たせ」


 影野が小走りで戻ってくる。そんなに急がなくても良いのに。影野が、ビニール袋を片手に近寄ってくる。


「えっと、Tシャツとタオル買ってきた」


 そう言って袋からこの遊園地のコアラのマスコットキャラがイラストされた白のTシャツとタオルを取り出す。まだ袋の中にまだ入ってるようで、恐らく、影野自身のタオルとTシャツも入ってるに違いない。


「ありがとう」


 私はそう言って、影野からタオルとTシャツを受け取る。


「更衣室は無さそうだから……あ、そこにトイレがあるから。そこで着替えてきなよ。俺も着替えなきゃだから」


 影野が私の後ろを指し示す。顔を向ければ確かにそこには、男女別々のトイレがあった。


「うん。分かった」


 私は立ち上がりトイレへ向かう。当然、影野も私の隣を歩いてくる。そして私は個室のトイレに入って、濡れた服を脱いでタオルで身体を拭く。


 良かった。前部分が黒で。これが白だったら完璧にアウトだったよ。私は胸が小さいから、基本的にブラを付けない。だから、白だったら完璧に透けて、私の恥ずかしい部分を、影野に見せちゃうところだった。


 私はスカートを思い切り絞る。そしたらスカートから、水が次から次へと出てくる。私は下着に手を当てる。うん、しっかり濡れてる。


「はあ」


 今日はミニスカートだから万が一見られても良いようにラベンダーの色のパンティーを履いてきたのに……ぐっしょりと濡れちゃってる。


「仕方ないよね」


 替えの下着までは売って無いだろうし、ちょっと濡れてて気持ち悪いけど、このまま行くしかないよね。


 私は気持ちを切り替えて濡れてしまった足や、つま先から踵までが厚い靴底で繋がった、存在感のあるサンダル……ウェッジヒールを拭いていく。


 あらかた拭き終わって、私は脱いだ服を手に取り、外へ出る。


「あ、神崎さん。はい」


 と言って影野がさっきまで手にしていたビニール袋を大きく開けて差し出してくる。その中には影野が、さっきまで着ていたTシャツが入っている。


「ありがとう」


 私は袋の中に着ていた物を影野のカーディガンと一緒に入れる。そして影野の服装を見る。


 影野は、青の私と同じマスコットキャラがイラストされたTシャツを、着ていた。影野は私の視線に気付きバツの悪そうな顔をして


「売店じゃこういうのしかなくて……お揃いの服でごめん」


 そんな影野を見て思う。いや、寧ろ濡れて良かった~。だって影野と、同じイラストの色違いの服を着れるなんて……超~しあわせっ。


「影野ほんとう~に、ありがとうっ」


 私はそう言って影野に抱き付く。


「ちょっ」


 影野が戸惑った声を出す。きっと今驚いてる顔をしてるんだろうな。あ、周りの人がこっちを見てる。


 恥ずかしいな。でも今まで抱き付きたいって思ってたのが、やっと叶ったから離れたくない。


 やっぱり思ってたとおり影野の抱き心地がめちゃくちゃ良い。柔らかすぎず固すぎず丁度良い。何このぬいぐるみを、抱き締めてるみたいな感じ。堪らない。


「あ、あの……神崎さん、そろそろ離れてくれると」


 影野のか細い声が聞こえる。今影野は私のこと意識してくれてるかな? こんなに密着してるんだから意識するに決まってるよねっ。


 あ~耳とか舐めてみたい。でもそんな事したら、影野にドン引きされちゃう。抑えなきゃ、静まれ私、落ち着け私。


 私は名残惜しいけど、ゆっくりと影野の抱擁を解く。


「ちょっと待ってて」


 そう言って影野は私から離れていく。やっぱり引かれたかな? 私やりすぎたっ?


「どうしよう」


 影野に嫌われたりしたら、私これからどうしたら良いのっ。私の心が急激に冷えていく。やっと見つけた男の子()なのに。


「お待たせ」


 顔を俯かせている私に影野の声が届く。そして私の頬にヒンヤリとした物が当たる。


 私が顔を上げるとそこには、影野が居て私の頬には缶ジュースが押し付けられていた。


「夏で熱いから。一応オレンジジュースもあるけど、どっちにする?」


 無愛想な顔で言う影野。でも耳まで真っ赤にしてて、さっき抱き付かれた恥ずかしさが、引いてないみたい。そんな影野も可愛いな……好き。


「桃のジュースで良い」


 私は頬に押し付けられていた、桃の缶ジュースを手に取り、プルトップを開ける。そして口に含む。


 口に含んだ瞬間、完熟した桃の香りが鼻腔をくすぐり、濃厚な甘さが舌に絡みつく。美味しい。


 暫く影野も私も無言で飲む。その間、私は空いている手で、影野の腕を掴む。そしてお互い飲み終わって、近くにあったゴミ箱に缶を入れる。


「さてと、次は何処に行く?」


 影野に問い掛けられて私は周りを見回す。そしてとあるアトラクションに目が留まる。


「あそこに行きたい」


 私が指を差して言った場所は、コテコテだけど古くさい廃屋。中から響く客のものであろう大きい悲鳴。お化け屋敷。


「あれか。俺は良いけど大丈夫?」


 影野が心配して聞いてくる。私の事を気遣ってくれてるんだ……好き。


「大丈夫大丈夫。こんなのただの作り物でしょ?」

「いや、確かにそうだけど……」


 やけに抵抗してるなあ。あ、さては……


「もしかして怖いの?」


 私の声に影野は相変わらずの無愛想な顔で


「別に怖くはないけど」


 と答える。これってどっちなんだろう?

 怖くないのか怖いのか。もし怖いなら影野がずっと私に抱き付いてくれるのではっ。


 そうなれば、ずっと影野と必然的に一緒にいられるって訳だ……影野、お願い怖がってっ。


「なら行くよっ」


 そう言って私は影野の手を取りお化け屋敷の列に並ぶ。順番が近付く度に、お化け屋敷の中の悲鳴が聞こえる間隔が早く、その悲鳴の声が大きくなる。


 あれ、思ったより……怖いのかな? 私、怖いのが特別得意って訳じゃないんだけど。


「神崎さん大丈夫? 顔真っ青だけど」

「だ、大丈夫……大丈夫だか、ら」


 私はおずおずと答える。それを見た影野が


「今からでも、別のアトラクションにした方が」

「ダメっ」


 影野の言葉が言い終わる前に、私は即座に否定の声を上げる。これ絶対あれだ。影野はお化け屋敷とか、怖くない人だ。


 なら逆に私がずっと影野に抱き付いていられる。こんな機会……絶対に逃しちゃダメっ。


「お次の方、どうぞー」


 受付員の男性が私達を促す。お化け屋敷の開けっ放しの入り口を見る。静寂な闇がどこまでも、広がっている。


「はあ、さっさと行こうか」

「ま、待ってよっ」


 先を行く影野を追って恥ずかしいとか、そんな事関係なく怖いから、影野の腕を取ってしがみ付く。


「神崎さん。歩きづらいんだけど」

「こ、怖いんだから。しょうがないじゃないっ」

「だから、他のアトラクションにしようって言ったのに」


 呆れた感じで影野が言う。だってお化け屋敷入んなきゃ、こういうこと出来ないんだもんっ。


「か、影野っ……置いていかないでね」

「……っ」


 私が涙声で言う。すると影野が前を向いたまま、声にならない声を上げる。


「ど、どうしたの?」

「い、いや」


 そこで言い淀まれると困るんだけど。なになにっ、目の前にお化けでもいるの?


「ウアァアアアーーーッッッ」

「きゃあっ」


 突然目の前に私より少し背の低いゾンビが現れた。ただゾンビメイクをした人間だって、分かるけど今の私にそんな余裕はなくて、影野に抱き付く。そして目をギュッと瞑る。


「へえ、上手くメイクされてるなあ」


 感心したように言う影野。私はその言葉を聞いて、恐る恐る目を開いてゾンビを見る。


 彼女の肌はまるで長年放置された死体のように土気色に変色し、目元は深く沈んで紫色のクマが居座っていた。


 首筋には青い血管がランダムに描かれ、引き裂かれた口元からは乾燥した血のりが剥がれ落ちそうになっている。


 凄くリアルだけど、冷静に見たら作り物……ただゾンビメイクを施した女性だ。


「影野は怖くないの?」

「怖くないっていうか基本的ゾンビ役をやっている人は、これ以上接近接触は出来ないはずだから」


 影野の言葉に私の頭に疑念が湧く。


「出来ないってどういうこと?」

「そういう暗黙の了解なんだって。(キャスト)は客に対して、過度な接近接触は控えるようにって」


 影野はそう言ってゾンビ役をやっている女性の横を通り過ぎる。当然影野にしがみ付いている私も。


 お化け屋敷の中は、うっすら明かりが見えるくらいで、空気はヒンヤリとしていた。


 地面を踏む度にミシ、ミシッと音を立てる。私はその度に心臓が跳ね上がって影野に強くしがみ付く。


「本当よくそれでお化け屋敷来れたよな」


 だってだって、せっかく二人きりの遊園地なんだよ。甘い思い出いっぱい作りたいじゃん。それとも影野にとっては迷惑だったかな?


「影野はお化け屋敷、私と回るの迷惑?」

「いや。寧ろ神崎さんの事が知れて楽しいけど」


 えっ、なにそれ。地味に……いや、めちゃくちゃ嬉しいんだけどっ。自然と頬が緩む。


「ふふっ」

「なに、いきなり笑ってるの?」

「なんでもないっ。影野、早くお化け屋敷抜けちゃおっ」


 私はそう言って、影野の手を引っ張って前進する。今まで怖さで強張っていた身体、竦んでいた心が、嘘のように軽くなる。これも全部影野のお陰なんだな。


 右手に伝わる影野のゴツゴツしてるけど、全体的に柔らかい手。凄く安心するな~。さっきまで怖かった暗闇が、今じゃ全然楽勝楽勝。恐怖でドクドクと早くなっていた動悸の音が、今では別の意味で早くなっていた。


「ありがとう御座いましたっ」


 暗闇が晴れ鋭い陽光が目を差す。私は片手でその光を遮りながら、お化け屋敷から出る。


「ふぅ。怖くなかったね」

「思いっきり、叫んで涙目になって、俺にしがみ付いてたけどね」


 呆れた顔で言う影野。


「むぅ、それは言わない約束だよ。影野の意地悪っ」

「んっ」


 私は影野の両頬に手をやり、横にやんわりと伸ばす。その感触があまりにもモチモチしていて、良かったから伸ばすだけじゃなくて、グリグリする。


「柔らかくて気持ちいい」

「そんな感想求めてないから止めて」


 ジトッとした目で言ってから、影野は私の両手を掴み自身の頬から離させられる。もう少し堪能したかったのに。


 それから私達は様々なアトラクションを渡り歩いた。迷路、ゴーカート、バイキング。今までやってみた事は有るけど、全て初めて経験した気がする。それもこれも皆、影野と一所だから。


「さてと、もう夕暮れ時だし……帰ろうか」


 影野がオレンジのグラデーションを奇麗に描いている空を眺めて口にする。気付いたらこんな時間か……まだ帰りたくない。私は慌てて視線を周りに彷徨わせる。


 帰るのは帰るで仕方ないけど、せめて最後に何かしたい。出来れば二人きりで思いっきり甘えられる場所……


「あ、あれっ……最後にあれ乗りたいっ」


 私はとある建物に目が留まる。夕暮れ空に浮かび上がる、光る巨大な歯車。夜空を彩るネオンの万華鏡。


「観覧車か……」


 影野は夕空の中一定の距離感でグルグル回っているゴンドラを眺めている。もしかして、高いところ苦手だったかなっ!?


 もしそうなら、嫌な思いさせちゃうな。でも一緒に乗りたい。高いの苦手なら私にしがみ付かせる口実にもなるっ。この機会を逃しちゃダメッ。


「ほら行くよっ」

「俺、ほぼ今日神崎さんに振り回されてるな」


 苦笑する影野。私はそんな影野をジッと見て


「もしかして嫌な思い……影野に沢山させちゃった?」


 と聞く。本当いつからだろう? 一人の男の子に、こんなに一喜一憂するなんて……今までの私じゃ考えられないな、ホント。


「嫌な思いなんて、俺は今日一回もしてないよ。寧ろ俺からしたら幸せだなって思う……って、さっさと行こうか」


 そう言って影野が観覧車に向けて歩く。私もその後を追う。影野の耳がうっすらと赤らんでいた。


 幸せだなって……どういう意味で言ったんだろう。それが私と遊園地を回れて嬉しいって事だったら良いな……好き。


 って言うか耳を赤くしてるって事は恥ずかしがってるんだよね。可愛いな……そういう影野も好き。


 観覧車に着いて列に並ぶこと数十分、ようやく私達の番が来る。それまでの間、私は影野の腕に胸を押し付けていた。


 理由は簡単……少しでも意識をして欲しかったから。待っている間他愛のない話が続いていた。


 でも影野、私知ってるよ。しどろもどろになって、視線を私に合わせないようにあらぬ方向に飛ばしたり。でもこの状況に耐えられなくて、顔だけじゃなくて耳まで真っ赤にしてて……カワイイ。もう大好きっ。


「ではどうぞー、足下にお気を付け下さいっ」


 係員に促されて私と影野は、ゴンドラの中に入る。そして私達は互いが向き合う形で座る。


「ではどうぞお楽しみ下さいっ」


 そう言うと係員が扉を閉めて、暫くするとカコンッと小気味良い音を立てて、ゴンドラが動き出す。今まで見えていた景色が上昇する度に、その光景が変わっていく。


 遠くに見える街、そこから恐らくビルだろう。そのビルが明かりを発している。そのビルの周りには、一般住宅と思われる小さな建物が、辺り一帯を締めていて明かりを発している。


「奇麗だな」


 ゴンドラが動き出してから、ずっと無言だった影野が一言そう言った。きっと私の背後も今影野越しに見てるような、光景が広がっているんだろう。


 影野が感想を述べてまた、二人の間に静寂が訪れる。聞こえるのは私と影野の息遣いだけ。


 ああどうしよう。影野の事を下の名前で呼びたい。影野の近くに行きたい。影野の柔らかい身体に抱き付きたい。影野の香りを嗅ぎたい。耳とか舐めたいし、キスもしたいっ!!


 でもそんな事が出来るような関係性は、今のところ築けてないから。私はその欲求を我慢する。辛いなぁ。好きな人が出来ると、こんなにしたい事が、次から次へと溢れてくるなんて。


 でも仕方ないよねっ。好きなんだから。これぐらいは許されるでしょっ。


 私は無言で立ち上がり、影野の隣に座る。いきなり隣に座ってきた私を、影野は凝視してくる。きっと対応に困ってるんだろうなぁ。


 影野に最大限の笑顔を浮かべた後、私は影野の背中に両手を回して抱き付き、影野の耳元に顔を寄せて


「今日はありがとう……悟」


 そう言って影野の耳をペロッと舐めるのだった。結局我慢できなかった……でも気持ちよかったし良いよねっ。うん、大満足っっっ!!!

 

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