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一匹狼クール系女子がなぜか俺に構ってくる件  作者: たかはし


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22.俺馬鹿だから分かんないけどさ

「あ~暇だな」


 俺は日陰を作ってくれているパラソルの下、そして痔面に敷かれたレジャーシートの上で座って海を眺めている。


 鼻腔には海独特の磯の香りが擽った。割と海から離れていても匂うものなのか。面白いなあ。そして海からびゅーびゅーと何度も強い風が俺の顔に当たる。


 俺、今日何しに来たんだっけ? 俺はそう思いながら目の前に広がる光景を眺める。そこには家族連れも居れば、抱き合ってるカップル、同性同士で遊びに来た俺と歳が変わらなそうな者も居た。


 俺は今日太一の彼女さん――石原愛さんを紹介されて、その後なぜか神崎さんの背中にオイルを塗ることになって……まあ、あれはあれで役得と言うことで良しとするか。


 でも絶対石原先輩は俺の事を下に見てるだろうなぁ。皆が思ってる同じ疑問を胸に抱いたんだろうなあ。なんであんなイケメンで陽気で性格も良い太一がこんな根暗陰キャと親しい、いや親友なのだろうか? と。


 俺は耳元に寄せては帰っていく波の音が俺の鼓膜を刺激する。ただその波の音には様々なバリエーションがあった。


 静かに一定のリズムの音もあれば、バシャバシャッと激しく水飛沫を上げている音。その音のする方へ目を向ければ、複数人でふざけ合って海水を掛け合ってる男女四人の姿が。


 俺は目線を海から空へと向ける。今日は雲が一つも無い快晴だ。透き通るように何処までも突き抜けていく青い空。


 そんな俺の視界の端に、添え物のようにちょこんと太陽が映っている。添え物のようにとは言ったが実際主張はもの凄く激しい。燦々と光り輝き、その光は灼熱を帯びていた。


 今もこの世界中の人間を焼き尽くさんとばかりに必死に熱波をこの地球という大地に振り下ろし続けている。


「本当何しに来たんだよ俺は……」


 俺は途方に暮れ空に愚痴を溢す。だが周りの喧騒に掻き消され無情にも俺の言葉は霧散する。本当何しに来たんだよ俺は。


「ちょっとイヤッ」

「ん?」


 悲鳴じみた声を聞いた俺は顔を向けるとそこには石原先輩がいた。そして石原先輩は小波が届く浜辺でオレンジに髪を染めた角刈り頭のガツガツしてそうな男に声を掛けられ、無理矢理連れて行かれそうになっている。


 俺は周囲に目を配る。そこには神崎さんの姿も太一の姿もない。そして石原先輩と男のやり取りを周りの人達は遠巻きにジロジロ見るだけで助けに行こうとする者は誰も居ない。ま、そうだよな。


 人って言うのは案外冷たいもんだ。その時だけ調子の良い正義感を口にする事は有っても、それを実際に行動に移せない奴が多すぎる。理由としては簡単、その行動をする勇気があるかどうかだ。


 誰だって痛いのは嫌だし面倒事は避けたい。人間とはそういう生き物だ。ましてや自分と一切関わりのない人間なら尚更そいつの為に痛い思いをしようなんて思わない。普通ならそうなんだが……はぁ、仕方ねえか。


 俺はレジャーシートから立ち上がり石原先輩と男の居る浜辺へ足を向ける。


「すいません」

「あん?」


 俺がオレンジの角刈り頭の男に声を掛けると男は血走った目で俺を見てくる。ひゅー、怖い怖い。俺は真顔で言う。


「その人、俺の腐れ縁(親友)の恋人なんですよ。だから出来ればその人の手を話して貰えると……」

「ちっ、クソがっ」


 そう言うと男は石原先輩から手を離したかと思うと石原先輩の白のキャミソールのデザインをしているビスチェトップの片側の肩紐に手を掛けると思い切り引き下ろした。


「きゃっ」


石原先輩は露出した片方の大きな乳房を慌てて手で覆い隠す。男は尚も石原先輩の躰を見たいのか懸命にもう片方の肩紐も引き下ろそうと躍起になっている。


 あ、こいつ相当馬鹿な奴だ。俺は男を冷めた目で見る。年格好は俺らに近い。背丈が俺より高いからひょっとしたら年上、それも石原先輩と同じかも知れない。


 いやだとしてもだよ。今時盛りのついた猫じゃ有るまいし、異性に嫌われそうな事をここまで大胆に出来るのも凄えって逆に感心してしまう……と、いけないいけない。助けないと。俺は男の頬に向けて右の拳を強く振り抜く。


「ぐぁっ」


 俺の拳が男の頬に触れた瞬間ピキッと小気味良い音と骨が僅かに砕ける感触が伝わった。男は不意に来た一撃に踏ん張ることが出来ず一メートル半くらい吹っ飛ぶ。


 そして起き上がり俺に殺気の篭もった目を向けてくる。やれやれ、こりゃ最後まで付きあうしかないか。俺がそう思っていると


「お、悟。何面白そうな事やってんだよ。俺も混ぜさせろよっ」


 声のした方を向くと両方の拳をポキポキと鳴らしながら太一が歩み寄ってくる。その後ろに心配そうに眺めている神崎さん。


「ちっ覚えてろよっ」


 男はそういって去って行く。いや、覚えてろよって。今更そんな時代遅れっぽい言葉を使う奴がいんのか。俺は感心しながら石原先輩に近付き自身が着ている白のフード付きパーカー型ラッシュガードを羽織らせる。


 石原先輩の肩が僅かに揺れる。どうやらまだ恐怖の気持ちが残って居るみたい。いや、当然だよな。女の子なら急にあんな事をする奴がいたら怖いに決まってる。それも俺らとそう歳も変わらないなら尚更だ。


「な、なんで」

「ん?」


 震えた声で石原先輩は俺に問い掛けようとする。俺は急かさずにゆっくり待つ。するとさっきまで小刻みに揺れていた肩が収まっていく。呼吸も正常な形で行われている。


「なんで私を助けたの? 下手したら自分が危険に晒されていたかも知れない……それに私、貴方に酷い態度を取ってたのに」

「あーそこは認めんのね」


 俺は苦笑する。この人は腹黒いのは間違いない。でもきっとそうすることでしか人と渡り合う手段が無かったんだろう。だから俺は敢えてそこを深く追求せずに理由を端的に告げる。


「俺馬鹿だから分かんないけどさ、両親から教えられた三つの内の一つにこうあるんだよね」


 と言って俺は真顔で人差し指を立ててただ一言


「目の前で困ってる人が居たら迷わず助けろ……ってさ」


 俺がそう言うと石原先輩は目を丸くし、太一は拍手した。そして神崎さんは満面の笑みで俺に近付いてくる。ふっ、柄にもなく決めちまったぜ。

 

 俺は足下に伝わる海水からくる冷たさと地平の彼方まで続く海を眺めながらやっと終わったかと安堵するのだった。

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