21.私にとって影野の方が
今回はメインヒロイン視点です。
〈神崎燈side〉
私は影野にオイルを背中に塗って貰って野呂君と石原さんの元に向かう。影野にはついでで悪いけど手と足も塗って貰っちゃった。
理由は簡単。影野の手が気持ちよかったからっ。
肌に触れられた時最初はこそばゆくて若干煩わしく感じたけど、時間が経っていく度に影野の手が私の肌に触れた瞬間、甘美な痺れのように感じたの……何度でも言う。気持ちよかったっ。それに布越しとはいえ乳首触られて嬉しかったし。
「随分嬉しそうね? そんなに底辺の男にベタベタ触られて気持ち悪くないの? 私だったら無理ね」
野呂君から離れて私の前に来ると汚い物を見るような目を向けてきた石原さん。この人本当嫌い……私の大切な人を馬鹿にするんだから。
あ~でもさっきの恥ずかしかった。
『影野……私の、小さくて自信ないけど……それでも良いなら塗る?』
我ながらちょっと大胆に行き過ぎたなって感じちゃうな。でも影野は鈍感だから、グイグイ行かないとダメだよね。
はぁ……いつになったら私の想いに気付くのかな? 鈍感すぎてヤキモキするけど、そこがまた可愛くて目が離せないんだよね。いつか私の前で影野の顔をバラの色に染め上げてみたい。
すぐにどうこう出来る訳じゃ無いって事は分かってる。だから今の影野との関係を壊そうとは思っていない。一歩ずつ確実に関係を前に進められたら良いなと私は思う。
でも影野に布越しとはいえ胸の二つの突起物を弄られた時は……今までに無いゾクゾクする快楽に近い感覚を感じた。あの時影野は暫く固まってその後、あたふたとしていたっけ。そんな困り果ててる影野も……好き。
でも本当、あのまま影野に直に触られてもいいなって思った。だって不快に感じなかったから。寧ろ影野に触られて気持ちが良かったから。
でもそれじゃダメだよね。あまりにも過激な対応をしていたら、その内影野に変態な女の子って勘違いされそう。影野を私に振り向かせるのが目標だけど、下品な女の子として見られちゃうのは嫌だな。
ということは、私今日大分おかしな事をしたんじゃ? 駅のホームで影野の耳元で『今日は期待して良いよ……私ビキニ持ってきたから』って囁いちゃったし。
あれは今思い返すとやってる側もチョウーっ恥ずかしかった。でも男の子ってあんな事されたらイチコロよってママが言ってたから間違いない……はず、だよ……ね。
ああでもいくら私が影野の事を気にするようになってから、胸が小さい事をコンプレックスに感じて影野にずっと疑問を抱いてたからって普通言うっ?
『影野は小さいのはイヤ?』
って。そんな事影野としてはいきなりのことで固まるだろうし、私の事変態な子だなって勘違いされるのは、なんか……嫌だな。
嫌? ううん、寧ろ影野が望むならすぐにでもキスもするし、私の処女を捧げたって良いっ。というか今すぐ捧げたいっ。
っていけないいけない。やっぱり私影野の事になると暴走気味になっちゃうな。こんな明け透けに淫らな下心を感じさせたら影野は絶対離れていくに決まってる。
でもその問い掛けた後の出来事が未だに脳裏から離れない。影野が私の手を引っ張って逆に引っ張ったはずの影野が私の胸に顔を埋めるような態勢になったんだよね。もの凄く恥ずかしかったけど、好きな人が私より背が低くて良かったなってその時どれ程思ったか。
私の胸に顔を埋めた影野は平常心を装ってたけど、耳元が真っ赤だった……可愛いっ。
それに私のビキニトップで顔を押し付けられてる影野が呼吸をする度に吐き出した息がビキニトップを通じて生暖かい吐息が肌を擽った。
あれ以上受けていたら今頃私、今夜にでも適当な理由を付けて影野を襲う……狼系女子ならぬ肉食系女子になっちゃうよ。でもあの言葉は嬉しかったな。
『神崎さん。俺が好きになる人の条件で胸の大きいとか小さいとか関係ないよ』
私を傷付けないために言ったのか本音なのかは分からない。ううん、多分後者だと思う。だって今までの影野を見てたら分かるもん。
自分の思った事は素直に口にして周りに気遣いできない人かと思えば、意外と細かい所で気が利く人で。それで影野は優しい人だって私は思う。
だってクラスが同じだけの話したことのない私を、知らない男二人にナンパされている時迷わず助けてくれたんだから。しかも何も見返りを求めず、つまり下心が一切無かったんだ。
だからこそ私は今でも影野が好き。影野が心から笑う顔を見てみたいし、めちゃくちゃ照れてる顔も見てみたい。
あ、逆に私が影野に全力で甘やかされてみたいかも。でもその為にはまず下の名前をお互いに呼び合える仲にならなきゃ。あ~先はまだまだ長いなぁ。
「ねえ何を先輩である私を無視してるの?」
石原さんはキャミソールのデザインをしている白のビスチェトップに両腕を組んだ状態のを押し付けている。その押し付けている部分が気に食わない。
キャミソールの胸部から今にもはち切れんばかりの膨大な質量の胸がこれでもかと主張している。その胸の下に両腕を差し込んでいるから尚更そう見える。この人、私に喧嘩売ってるのかな?
と、いけないいけない。こんなこと考えてたら影野に嫌われちゃう。えーと、そんなに底辺の男にベタベタ触られて気持ち悪くないの? って言われたところで話が止まったんだ。まあ殆ど私が心の中で影野との今後の事を考えてただけだけど。
「石原さん。影野は貴方が思ってるほど底辺の男なんかじゃないですよ。寧ろ素敵な男の子です。それは野呂君から聞いたんじゃないんですか?」
私の言葉に石原さんはカッと目を見開く。
「聞いたわよ散々ね。でもどう見ても太一君の方がイケメンだし、性格も太一君の方が好ましい。本当なんで太一君みたいなイケメンがあんな地味で無愛想なキモヲタ風な男と親友やってるのか意味分かんないっ」
と石原さんは近くに居る野呂君に聞こえないよう小声で悪態をつく。あ、やっぱりこの人こっちが素なのか~。野呂君見抜けなかったみたいだね。
ただ自分の承認欲求を満たしたいが為にイケメンを彼氏にする事自体に焦点を充ててきた石原愛という本性に。
「石原さんは可哀想な人ですね」
「どういう意味かしら?」
石原さんがキッと睨み付けてくる。だけど私はそれに臆せずに続ける。
「確かに野呂君はイケメンで性格も良い。それは私も認めます」
「だったらっ」
「でも……私にとって影野の方がイケメンで性格も良いし、心の中も非常に暖かくて好ましい人間だって断言します」
私の言葉に呆然と石原さんはその場に暫く立ち尽くす。そしてすぐに顔中真っ赤にして野呂君が傍に居るにも関わらず大声を上げる。
「訳分かんないっ。太一君も燈ちゃんも、どうしてあんな地味でキモヲタ風の影野の事を気に入ってるのよっ。頭狂ってんじゃないのっ」
「おい、愛ちゃん……それどういう意味だよ」
混乱した顔で野呂君は石原さんに歩み寄りながら問い掛ける。どうやら素の状態の石原さんを野呂君は知ってなかったみたい。
そりゃそうだよね。だって自分の承認欲求を満たすためにイケメンの彼氏を手に入れて周りにマウント取るためには、そんな醜い部分なんて見せられないもの。
「ち、違うのっ。今のはそうじゃなくてっ」
狼狽する石原さん。その目は潤んで今にも泣き出しそう。
「どうやら俺、騙されてたみたいだな」
野呂君はそう言うと石原さんから目を背け燦々と光り輝く日光を乱反射させている海へと目を向けながら
「俺にとってよ、悟は大事な奴なんだよ。俺の心を救ってくれた親友だから。その大事な親友を馬鹿にする奴とはもう付き合えねえよ。今日でもう俺達は赤の他人だ」
「……っ」
野呂君の絶対零度のような温度を感じさせない声音で言われた石原さんは直ぐさまその場から走り去っていく。
「本当……私も人の事言えないけど、野呂君も影野の事を好きすぎよね」
「当たり前だろう。俺にとって悟はかけがえのない一番の親友なんだからよ」
私は海を眺めながら言う野呂君から視線を外して私も透き通るように青い大海原を見る。
そこには家族連れなのか小学生くらいの子供が浮き輪に乗ってその浮き輪を父親と思われる男性が引っ張っていた。その近くで楽しげにその様子を見ている女性、多分母親だろう。
「……良いなぁ」
私もいつか影野と結婚して子供作ってあんな風に海で遊びたい。
「あー神崎さん、多分飛躍しすぎてると思うぞ。そもそも論まだ付き合ってねーんだしよ」
私はその指摘を野呂君から受けて身体中が熱を帯びる。主に顔に熱が集中している気がする。私はその熱を冷ます為、いや性格には野呂君の指摘の言葉を誤魔化す為に海辺駆け込んだ。
足下からヒンヤリとした水が伝わってくる。そして徐々に前進して気付いたら全身が海水に浸かる。今頃影野はどうしてるかな? 私は海の中で未だに恋心を伝えられてない好きな……いえ、愛しい人の事を考えるのであった。




