18,影野は小さいのはイヤ?
今回はメインヒロイン視点です。
〈神崎燈side〉
「よう、こっちは準備万端だぜっ」
陽気良く遠くに居る私と影野を見つけた野呂君が大きく手を振って私達に呼び掛ける。野呂君は黒色や茶色、薄緑色が使われているよくある自衛隊の迷彩柄の海パンを履いている。
その隣には黒髪の大人びて見える女の子がいる。その人が野呂君の言っていた彼女――石原愛さんで間違いない。私と影野は野呂君達がいる所まで行く。
野呂君達は既に海で過ごしやすい環境を整え終えているようだった。白色の大きめな私達四人が座っても大分余裕がある程のレジャーシート。日陰を作るように立てられているオレンジと白が三角形のデザインで交互に入っているパラソル。
レジャーシートの四隅には風で飛ばされないようにクーラーボックスやカセットコンロ、恐らく食材や調理に必要な器具一式などが詰まったリュックなどが置かれている。その他にもビーチボールや浮き輪なんかもあった。
「悪いな太一。全部お前と彼女さん――石原さん。いや石原先輩に任せちゃって。後で食材や調理器具、経費掛かった分の半分は後で出すわ」
影野が野呂君に対してそう言う。影野って基本無愛想で人に無関心を決め込んでいるスタイルだけど、しっかり見ればこういう細かいところではちゃんと友達に対して公平でいようとしっかり意見するんだよなあ……そういう所も好き。
「別に要らねえよ。悟には一生を掛けても返しきれない恩が有るからな。これくらい当然だって」
「お前はまた……あの時のことを。もう何年も前の話だろうが」
野呂君の言葉に影野が呆れた様子で返す。一生を掛けても返しきれない恩? よくは分からないけど、きっと影野が窮地に立たされてる野呂君を助けてあげたんだろうな。
良いな野呂君は。保育園からずっと一緒って事は小さい頃の影野を知っているんだよね。小さい頃の影野ってどんなだったのかな? 今みたいな性格だったのかな? すごい気になる。
「さあて、ようやくこの時が来た。この子が俺が今付き合ってる彼女――石原愛ちゃんだっ」
と意気揚々に隣の石原さんを手のひらで指し示しながら紹介する。石原さんは長い黒髪をポニーテールに纏められいて、服は足下まで伸びた白のワンピースを着ている。足はベルトで止めるタイプの黒サンダルを履いている。
石原さんは私と影野を……特に影野を暫くジッと見た後ほくそ笑むように口元を歪めた。あ、これもしかしなくてもあれだわ。影野の事を馬鹿にしているんだ。
まあ確かに私もそうだったけど、見た目だけで見るなら目元に前髪が掛かるまで伸ばしているし、基本無愛想で人に対して無頓着な人だなって感じるとは思う。
私は影野に出会うまで誰も信じられなかった。とくに男は。あることが切っ掛けで人間不信になって男自体、忌避感を感じてた。
でも私は幸か不幸か容姿に恵まれていた。良いこととしては、誰もが私と接点を持とうとして近寄ってくること。実際小学生時代のある時までは楽しかった。でもあることが原因で私は人を避けるようになった。
それでも男子はめげずに話し掛けてきた。でも大体の男子達の目があることを訴えているように私には見えた。
そう――私の身体目当てだと。
そう決めつけて私はずっと誰も寄り付かせない態度をずっと取っていた。話し掛けてくる人も男女問わず無視して。
だからあのゲームセンター近くでの出来事は私にとって衝撃的だったんだ。私がナンパされているのを影野が助けてくれた時、私はそれを出汁に接点を持とうとしてきたんだと思った。でも影野は――
『残念だけど違うね。俺は見ての通り地味な男でね、成績も良くも無ければ悪くもない。人と比べて突出してる部分も無い平凡な男だよ。そんな奴が学年いやもしかしたら校内で一番成績優秀で美人の神崎さんと親しくなれないし、そもそも釣り合わないよ』
とキッパリ私と接点を持つどころか自分なんかじゃ私と釣り合わないと自分から宣言してきてきた。それを聞いて私は衝撃を受けたんだ。今まで私の周りには下心を持っている男ばかりだったから。
影野は今もそうだけど、下心を一切感じない。影野は無愛想だけど言ってることは芯が通ってて、面倒臭がりだけど他人を放っておけない人で、それに礼儀正しくて素敵な男の子だと思う……好き。
多分石原さんは野呂君に失礼だけど、滅茶苦茶腹黒いんじゃないかしら。影野のことを下に見てなんでこんな奴が神崎燈なんかとって思ってるに違いない。きっとこの後水着に着替える時に色々言ってくるんだろうなぁ。
でも出来れば影野の良いところ、魅力を知って欲しい。本当は私だけが知っていれば良いんじゃないとは思ってる……そしたら私だけが影野の事を独り占めできるから。
「初めまして。太一君から悟君の事は聞いています。そして燈さん、貴方は学校じゃ有名だからよく知ってるわ」
石原さんは人好きのする笑顔を私達に向けてくる。彼女の顔は全体的に丸みを帯びていて目も大きくてとても愛らしく感じる。後頬もふっくらしてて、つついたら気持ち良さそう。
石原さんは満面の笑みを浮かべて
「太一君。私、燈さんと一緒に更衣室で水着に着替えてくるわ」
「分かったよ愛ちゃん」
「じゃあ行きましょう燈さん」
そう言って石原さんは自分の水着が入っているビーチバッグを手に取ると公共更衣室に向かって歩き出す。私もその後に続く。
公共更衣室に着くまでお互い無言だった。それも無理ないと思う。だってお互い学校は同じでも学年が違うから顔を合わす機会が皆無に近い。だからこのまま公共更衣室でも無言に終わるのかなと思ったら
「燈さんって悟君みたいな自分より背が低くて地味な……つまり自分より低スペックな男の子が好きなの?」
と好奇心に満ちた声で尋ねてきた。私が振り向くと白のワンピースや下着もない裸身。全体的に肉付きの良い体をしている。男の子だったら誰でも喜びそうな理想的な身体をしていると思う。そこに健康的な小麦色の肌なら尚更だ。
「……」
「燈さん、どうして私の胸をずっと見てるの?」
……羨ましい。私には唯一悩みがある。それは私が貧乳だということ。今までは気にしなかったけど、影野と出会って好きになって急に気になってしまってコンプレックスになっちゃった。
理由は凄く簡単で影野は小さい胸が好きなのかな? って、気になっちゃったから。
いやいや、影野はそんな事を気にするような男の子じゃない……筈だもん。
「そんな事よりどうしてあんな低スペックな悟君といるの? 優越感に浸るためとか? それなら確かに悟君は適任よね。見る感じに地味で無愛想で目を髪で隠しててキモヲタって感じだし」
意地の悪い笑みを浮かべながら上下白のビスチェの水着をゆっくりと着ていく。
肩から腕、そして上背を大胆に露出するデザインで彼女が着た瞬間、胸部が凄い質量で強調される……やっぱり羨ましい。私にも少しはあれば、こんなに悩む事もなかったのに。ってそんな事より
「影野は石原さんが思ってるより低スペックな男じゃないですよ」
私は毅然とした態度で言う。さっきから気になってたけど初対面で影野の事を下の名前で呼ぶなんて気に入らない。最近ようやく友達になった私ですら呼べてないのに。
「ふ~ん。燈さんって変わった趣味をしてるのね?」
挑発するように言う石原さんを無視して私は着ているロゴTシャツをぺろりと皮を剥くように脱いで、黒のジーンズを勢いよく下ろす。ピンクと白の縞模様のパンティーと一緒に。
「あら、燈さんってオッパイ小さいのね?」
むぅ。人が気にしてる事をいわないで欲しいな。しかもオブラートに胸って心の中で呟いていたのに。
私は石原さんを軽く睨み付けた後、影野の為に用意したアクア色のバンドゥビキニを上から順に着ていく。
私は人間不信だ。それもとくに男は忌避感を覚えるくらいに。だから大人数の前で肌を晒すのは好きじゃない。制服の半袖は別だけどね、単純に暑いし。
でも影野に少しでも異性として意識して貰いたくて、だから勇気を出して私はアクア色のバンドゥビキニを買った。
全ては影野の照れたもしくは困り果てた顔を見たいが為に。私は着替え終わるとビーチバッグから濡れた時用のタオルを取り出して手に持ち、取り敢えず用のなくなったビーチバッグを有料ロッカーに入れて公共更衣室の出入り口に向かう。
「ちょっと待ってよっ」
後ろから石原さんが制止の声を上げてるけど私は無視して真っ直ぐに影野と野呂君がいるレジャーシートが敷かれてる場所へ向かう。
「あ、神崎さんおかえり。喉渇いてない?」
ビキニ姿の私を見た影野は動じる様子もなくクーラーボックスから取り出したペットボトルのお茶を差し出してくる。
「むぅ」
なんで……なんで? なんで影野は普通にしていられるの? やっぱり私が貧乳だから。やっぱり影野も男の子で胸が大きい方が好きなの?
「影野」
「どうしたの神崎さん?」
不思議そうな顔をして私を見つめる影野。
「影野は小さいのはイヤ?」
気付いた時には心の中でずっと燻っていた疑問が口から出てしまう。私は一気に夏の暑さとは別に身体全体が暑くなるのを感じるのであった。




