93 違和感?
「そろそろ戻るかー!」
三郎の声が砂浜に響く。
「えーもう?」
千尋が不満そうに言う。
「まだ遊べるって!」
「いや普通に時間だろ」
太陽が呆れたように返す。
みんな少し名残惜しそうにしながらも、海の家へ戻っていく。
夕方。
少し傾いた日差しの中。
海の家では、片付けが始まっていた。
「そっち運んでくれー!」
「はーい!」
七海が元気よく返事をする。
凛と愛菜も、それぞれ動きながら片付けを手伝っていた。
さっきまでの賑やかな時間とは少し違う、
落ち着いた空気が流れている。
蒼は、木箱を運びながらふと視線を上げる。
視線の先には――凛。
さっきと同じように、楽しそうに笑っている。
でも。
さっきより少しだけ、意識してしまう。
(……なんだろうな)
さっき感じたあの感覚。
まだ胸の奥に残っている。
「蒼先輩」
後ろから声がかかる。
振り向くと、七海がいた。
「これ、どこに置きます?」
「ああ、それは――」
蒼が指示を出す。
「ありがとうございます!」
七海は笑顔で走っていく。
その背中を、なんとなく目で追う。
七海は、荷物を置いたあと。
少しだけ足を止めた。
――ちらりと、蒼を見る。
そして。
少しだけ視線を動かして――
凛を見る。
さらに――
愛菜にも目を向ける。
ほんの一瞬。
でも、その視線には、
何かを確かめるような色があった。
凛は、その視線に気づく。
一瞬だけ、七海を見る。
でも、すぐに目を逸らした。
胸の奥に、ほんの少しだけ引っかかる感覚。
さっきから消えない、あの違和感。
愛菜もまた、気づいていた。
七海の視線。
そして、蒼の方を見る。
ほんの一瞬だけ。
何も言わずに、視線を戻す。
「……よし!」
千尋が手を叩く。
「こんなもんでいいでしょ!」
「お疲れー!」
三郎が大きく伸びをする。
「疲れたー!」
みんながそれぞれ、息をつく。
そのとき。
七海が、少しだけ蒼の近くに寄る。
「蒼先輩」
「ん?」
「今日、楽しかったです」
「ああ」
蒼も素直に頷く。
「俺も」
七海は少しだけ笑って、
「……よかったです」
それだけ言って、少しだけ下を向いた。
その様子を、
蒼はほんの少しだけ不思議に思う。
(……なんだ?)
いつも通りの明るさ。
でも、どこか少しだけ違う。
「おーい蒼!」
三郎が呼ぶ。
「帰る準備できてるぞー!」
「おう」
蒼は軽く手を上げる。
夕方の海。
少しだけ涼しい風が吹く。
今日一日の余韻が、静かに残っていた。
それぞれが、
それぞれの想いを抱えたまま――
帰り道へと向かっていく




