87 二人で買い出し
昼のピークを少し過ぎた頃。
海の家の裏で、優子が手元のメモを見ながら言った。
「ごめんなさい、ちょっと食材が足りなくなりそうね」
「誰か、買い出し行ってもらっていい?」
三郎がすぐに手を挙げる。
「はいはい俺行きまーす!」
「お前はダメ」
太陽が即座に止める。
「絶対サボるだろ」
「ひどくね!?」
そんなやり取りの中で、蒼が口を開く。
「じゃあ、俺行きます」
優子が頷く。
「助かるわ」
そのとき。
「……私も行く」
愛菜が自然なトーンで言った。
蒼が少しだけ視線を向ける。
「……いいのか?」
「うん、ちょうど休憩だし」
軽く微笑む。
優子も頷いた。
「じゃあ二人でお願いね」
⸻
海沿いの道を、二人で並んで歩く。
強い日差しと、潮の香り。
少しだけ風が吹いて、気持ちいい。
「……暑っ」
蒼が顔をしかめる。
「ほんとそれ」
愛菜が笑う。
「もうこれ、働く気なくなるレベル」
「いや働けよ」
「蒼こそめっちゃ真面目にやってたじゃん」
「まあな」
「いや“まあな”じゃないのよ」
愛菜がくすっと笑う。
「ほんと変わらないね、そういうとこ」
「お前もな」
「どこが?」
「普通に仕切ってただろ、厨房」
「いやあれやらないと回らないし」
「でも楽しそうだったぞ」
「……まあね」
少しだけ照れたように笑う。
少し歩いたあと、愛菜がふっと言う。
「なんかさ」
「こうやって二人で歩くの、久しぶりだね」
「……だな」
「高校のときさ、帰り道よく一緒だったじゃん」
「あー……」
蒼が少し考える。
「テスト終わりの日とか、よくコンビニ寄ってたな」
「そうそう!」
「で、蒼毎回アイス買うの」
「暑かったんだよ」
「しかも絶対同じやつ」
「好きなんだよ」
「いや飽きないの?」
「飽きない」
「すご」
二人で笑う。
自然に距離が近づく。
会話が途切れない。
それが、当たり前みたいに続いていく。
⸻
コンビニに入り、手分けして買い物をする。
「これで足りるか?」
「うん、多分大丈夫」
「飲み物もうちょいあった方がいいかも」
「じゃあこれも」
「お前持ちすぎ」
「大丈夫だって」
「いやいいから」
蒼が袋をひょいと持つ。
自然な動き。
愛菜は少しだけ目を丸くして――
くすっと笑った。
「……やっぱ優しいね」
「別に普通だろ」
「そういうとこだよ」
「なんだよそれ」
軽く笑い合う。
⸻
店を出て、再び海の方へ歩き出す。
「……にしても暑いな」
「ね」
愛菜が空を見上げる。
「終わったらさ、海入ろっか」
「いいな、それ」
「絶対気持ちいいでしょ」
「だな」
少しだけ間が空く。
でも、それすら心地いい。
「……蒼」
「ん?」
「今日さ、楽しいね」
愛菜がふっと笑う。
素直な一言。
蒼も、自然に笑った。
「……ああ、楽しいな」
そのまま、二人は歩く。
昔みたいに。
でも、少しだけ違う距離で。




