84 夏始まり
やがて車は、海の家の前でゆっくりと停まった。
「着いたわよ」
優子の一言で、全員が外へと降りる。
潮の香りと、熱を帯びた風が一気に体を包み込んだ。
「うわ……」
蒼は思わず目を細める。
目の前には、夏そのものの景色が広がっていた。
白い砂浜、青い海、そして人で賑わうビーチ。
「テンション上がる……!」
千尋が両手を広げる。
三郎も大きく伸びをする。
「最高じゃんここ!」
「泳ぎてぇー!」
太陽がため息混じりに言う。
「だから仕事終わってからな」
そのやり取りに、優子が軽く手を叩いた。
「はいはい、みんな注目ー」
自然と視線が集まる。
「ここが今回、みんなに手伝ってもらう“海の家”よ」
木造のシンプルな建物。
すでに何人かのスタッフが準備をしているのが見える。
「仕事内容はそんなに難しくないわ」
「接客、配膳、簡単な調理補助」
「あと、呼び込みもやってもらうかもね」
三郎がニヤッと笑う。
「呼び込み得意っすよ俺」
「絶対いらないこと言うだろ」
太陽が即ツッコミを入れる。
周りから小さく笑いが起きた。
優子もくすっと笑いながら続ける。
「まあ、とにかく楽しみながらやってくれれば大丈夫」
「その代わり――」
少しだけいたずらっぽく笑う。
「ちゃんと働くこと」
「もちろんです」
蒼が真っ先に答える。
その姿に、優子は満足そうに頷いた。
「よろしい」
そして、全員を見渡す。
「じゃあ――」
「夏、始めましょうか」
その一言と同時に、
波の音が、強く響いた。




