82 違和感
蒼と小夜が球場で高校野球を観戦しているころ――
駅前のショッピングモール。
「うわー!」
店に入った瞬間、千尋が声を上げた。
「水着いっぱい!」
店内には色とりどりの水着が並んでいる。
凛は少しだけ周りを見回しながら、小さく言った。
「……なんかちょっと恥ずかしいね」
千尋はすぐに言う。
「何言ってんの!」
「こういうのはテンション上げていくの!」
そして凛の腕をぐいっと引く。
「ほら凛!」
「これ着てみて!」
千尋が手に取ったのは、少し大胆なビキニだった。
凛は目を丸くする。
「え!?これ!?」
「無理無理!」
愛菜が横から冷静に言う。
「千尋ちゃん、それはさすがに攻めすぎ」
千尋は笑う。
「えー絶対似合うって!」
凛は顔を赤くしながら首を振った。
「無理だよ……!」
愛菜は別の水着を手に取った。
「凛ちゃんはこういうのがいいんじゃない?」
少し落ち着いたデザインの水着だった。
凛はそれを見て、少し安心したように頷く。
「……それなら」
千尋がじっと凛を見る。
そしてニヤッと笑った。
「ねえ」
「これ蒼くん見たらどう思うかな?」
凛の顔が一瞬で赤くなる。
「え!?」
「なんでそこで蒼くん出てくるの!?」
千尋はケラケラ笑う。
「だって海の家で会うじゃん」
「絶対見るでしょ?」
凛は慌てる。
「べ、別に蒼くんに見せるためじゃないし!」
愛菜はその様子を見て、くすっと笑った。
「でも蒼は……」
そこまで言って、少しだけ言葉を止める。
「……いや、なんでもない」
凛はその一瞬の間に、ほんの少しだけ引っかかった。
(……あれ?)
何か言いかけたような。
そんな気がした。
でも理由は分からない。
凛が考え込む前に、千尋が手を叩いた。
「よし!」
「凛、試着してきな!」
凛はまだ少し恥ずかしそうにしながらも、試着室へ向かっていった。
その背中を見送りながら、千尋は小さく笑う。
愛菜は静かに水着の棚を見ていた。
凛はまだ気づいていない。
でも、ほんの少しだけ。
何かが心に引っかかっていた。
そして――
この日を境に、
蒼を取り巻く関係は少しずつ動き始める。
夏は、もうすぐそこまで来ていた。




