80 真面目だな
「ふーん」
その声は、どこか楽しそうだった。
小夜はソファーにもたれかかる。
テーブルの上には、空いたビールの缶が三本並んでいた。
蒼はそれを見て言う。
「小夜さん」
「ちょっと飲みすぎじゃないですか?」
小夜は蒼を見る。
「そう?」
「全然平気だよ」
そう言いながら笑う。
しかし体は少しふらついていた。
蒼はテーブルの上の缶を見た。
一本。
二本。
三本。
そして、ふと気づく。
「あれ……」
小夜を見る。
「小夜さん」
「ん?」
蒼は苦笑しながら言った。
「小夜さん、お酒飲んじゃったんだから……」
「運転できないじゃないですか」
小夜は一瞬ぽかんとする。
それから吹き出した。
「あはは」
「ほんとだ」
蒼は呆れたように笑う。
「いや、笑い事じゃないですよ」
小夜はソファーの背にもたれながら言う。
「まあ大丈夫だよ」
「明日帰ればいいし」
そして蒼を見た。
「それにさ」
少しだけ悪戯っぽく笑う。
「蒼くんも電車動かないんでしょ?」
蒼はスマホを確認する。
画面にはまだ
運転見合わせ
の表示。
蒼は苦笑した。
「……まだですね」
小夜はふっと笑う。
「じゃあさ」
蒼を見る。
「泊まってけば?」
蒼は一瞬固まった。
「え?」
小夜はくすっと笑う。
「変な意味じゃないよ?」
「ソファーあるし」
「どうせ終電とかもう無理でしょ」
蒼は少し迷った顔をする。
「いや、でも……」
小夜は軽く手を振る。
「遠慮しなくていいって」
「蒼くん、真面目すぎ」
そして少しだけ柔らかい声で言う。
「まあ……」
「もうちょっとゆっくりしていきなよ」
蒼は少し考える。
でも、小夜の様子を見ると完全に酔っていた。
「……分かりました」
「じゃあ、もう少しだけ」
小夜は満足そうに笑った。
「うん」
それからしばらく。
二人は他愛もない話を続けた。
野球の話。
大学の話。
くだらない話。
気づけば、部屋の時計は深夜を回っていた。
蒼はソファーにもたれたまま、ふっと目を閉じる。
少しだけ眠気がきていた。
小夜はその様子を見て、小さく笑う。
「蒼くん」
返事はない。
小夜が少し顔を覗き込む。
「……寝てる」
蒼は完全に寝ていた。
小夜は少し呆れたように笑う。
「ほんと真面目だなぁ」
そう言いながら、自分もソファーに体を預けた。
少しして。
小夜の瞼も、ゆっくりと閉じていく。




