78 二十歳の特権
小夜はソファーに腰を下ろしながら、スマホをちらっと見た。
「……まだ動いてないみたいだね」
蒼も自分のスマホを確認する。
「ほんとだ……」
画面には、蒼が乗るはずだった路線の運行情報が表示されていた。
人身事故の影響で運転見合わせ。
再開見込み未定。
蒼は苦笑する。
「これは……しばらく無理そうですね」
小夜は少し考えるように天井を見上げた。
そしてふっと笑う。
「じゃあさ」
「せっかくだし、ご飯食べていきなよ」
蒼は少し驚く。
「え?」
小夜は立ち上がりながら続ける。
「お腹空いてるでしょ?」
「私もまだ食べてないし」
「どうせ電車動かないなら、ゆっくりしていけばいいじゃん」
蒼は少し遠慮がちに言う。
「いや、でも……」
小夜はくすっと笑う。
「遠慮しなくていいって」
「私も一人で食べるより楽しいし」
そしてスマホを操作しながら言った。
「何ピザがいい?」
蒼は少し戸惑う。
「いや、俺なんでも大丈夫です」
小夜はメニュー画面を見ながら笑う。
「それ一番困るやつ」
「じゃあ適当に頼むね」
蒼は苦笑する。
「お願いします」
数分後。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
「来た」
小夜は立ち上がり、玄関へ向かう。
しばらくして、ピザの箱を二つ持って戻ってきた。
テーブルの上に置く。
ふわっといい匂いが部屋に広がった。
「はい」
小夜は紙皿を差し出す。
「どうぞ」
蒼は少し頭を下げる。
「いただきます」
ピザを一口食べる。
「……うま」
小夜は笑う。
「でしょ?」
そのまま冷蔵庫へ向かう。
ガチャ。
冷蔵庫を開けると、缶ビールを取り出した。
そして振り返る。
「蒼くんは?」
もう一本の缶を軽く持ち上げる。
蒼はすぐに首を振る。
「いや、俺まだ未成年っすよ」
小夜は「あ」と言って笑った。
「あーそっか」
「まだ十九か」
プシュッ。
缶ビールを開ける音が部屋に響く。
小夜は一口飲む。
「はー……」
満足そうに息を吐いた。
「生き返る」
蒼は苦笑する。
「いいですねそれ」
小夜はソファーに腰を下ろす。
「蒼くんも来年の楽しみにしときなよ」
「二十歳の特権」
蒼は肩をすくめる。
「そうします」
二人はテーブルを挟んでピザを食べる。
テレビもつけていない静かな部屋。
時々、小夜がビールを飲む音だけが聞こえる。
しばらくして、小夜がぽつりと言った。
「そういえばさ」
蒼が顔を上げる。
「なんですか?」
小夜はビールを軽く揺らしながら言う。
「今日名前出てたじゃん」
「愛菜ちゃん」
蒼の手が一瞬止まった。
小夜は蒼を見ながら続ける。
「蒼くんの大学の友達なんでしょ?」




