77 ノックくらいしよ?
部屋に入ると、女の子の一人暮らしらしい落ち着いた空間だった。
蒼は少し緊張しながらソファに座る。
小夜が言う。
「ごめんね」
「ちょっとシャワー浴びてくる」
「今日ほんと暑かったし」
蒼は慌てて頷く。
「あ、はい」
小夜はタオルを持ってバスルームへ向かった。
部屋に残された蒼はスマホを見る。
電車はまだ止まったままだった。
「……復旧一時間以上か」
そのときだった。
蒼はそわそわする。
(やばい)
(トイレ行きたい)
蒼は小さく立ち上がる。
「トイレどこだろ……」
部屋の奥にドアが見えた。
蒼は軽くドアノブを回す。
「すみませ――」
ドアが開く。
そして蒼の動きが止まった。
そこには――
シャワーを浴び終えた小夜が、ちょうど着替えているところだった。
「……っ!?」
蒼の顔が一瞬で赤くなる。
小夜も一瞬だけ驚いた顔をする。
「え?」
一瞬の沈黙。
蒼は反射的にドアを閉めた。
バタン!!
「す、すみません!!」
蒼はリビングで完全にパニックになっていた。
「ち、違うんです!」
「トイレだと思って!」
そのとき。
ガチャ。
ドアが開く。
小夜が出てきた。
髪はまだ少し濡れていて、部屋着に着替えている。
蒼は直立不動。
「ほ、ほんとすみません!!」
小夜は蒼を見て、ふっと笑った。
「蒼くんさ」
「女の子の家でドア開けるときは」
「ノックくらいしよ?」
蒼はさらに赤くなる。
「すみません……」
小夜は腕を組む。
そして少し意地悪そうに言う。
「で?」
蒼が顔を上げる。
小夜はニヤッと笑う。
「どこまで見たの?」
蒼は固まる。
「み、見てないです!」
小夜
「ほんとに?」
蒼
「ほんとです!」
小夜はクスッと笑う。
「蒼くん顔真っ赤だよ?」
蒼はさらに慌てる。
「違います!」
「ほんとに!」
小夜は楽しそうに肩をすくめた。
「まあいいけど」
「わざとじゃないのは分かるし」
そして小さく笑う。
「……でもさ」
蒼が顔を上げる。
小夜は少しからかうように言った。
「蒼くんのリアクション」
「漫画みたいだった」
蒼は完全に撃沈していた。




