72 甲子園行きたかったです
試合が終わると、両校の応援団や観客たちは少しずつ球場を後にしていった。
ざわめいていたスタンドも、次第に静かになっていく。
蒼と小夜も席を立ち、スタンドの階段を降りて球場の外へ出た。
すると、球場の入り口付近で両校の部員たちが集まっているのが見えた。
総武学園の選手たちが整列し、木更津商業の選手たちの前へ進む。
そして――
総武学園のキャプテンが、手に持っていた千羽鶴を差し出した。
「甲子園、絶対に行ってください」
木更津商業のキャプテンがそれを受け取る。
そして、隅田の方を見た。
「お前、今まで対戦した中で一番手強いピッチャーだった」
少し笑いながら言う。
「ここでやめたりしないだろ?」
「次の舞台で、また戦おう」
隅田は驚いたように目を見開いたあと、強く頷いた。
「……おう!」
「絶対にやろう!」
そのやり取りを、蒼と小夜は少し離れた場所から見ていた。
小夜がぽつりと言う。
「ああいうの、いいよね」
蒼は真剣な眼差しでその光景を見ながら答えた。
「……はい」
そのときだった。
「蒼せんぱーい!」
声のする方を見ると、目を真っ赤にした七海がこちらへ走ってくる。
蒼の前で立ち止まり、涙をこぼしながら言った。
「蒼せんぱい……負けちゃいました」
「悔しいです……」
少し甘えるような口調だった。
蒼は小さく笑いながら言う。
「みんな、よくやったよ」
そして続けた。
「七海も、三年間お疲れ様」
その言葉を聞いた瞬間。
七海はまた顔を歪ませた。
「うぇーん!」
「甲子園行きたかったですー!」
蒼は少し困ったように笑いながら言う。
「まあまあ……」
慰めるように声をかける。
すると七海は涙を拭きながら、急に甘えた声で言った。
「蒼先輩……」
「もっと慰めてください」
「夏休み、どっか連れてってください」
駄々をこねるような言い方だった。
蒼は思わず笑う。
「お前な……」
少し考えてから言った。
「じゃあ海行くか?」
七海が顔を上げる。
「え?」
蒼は続けた。
「大学のイベントでさ」
「夏休みに海の家の手伝いするんだよ」
「途中で海でも遊べるから」
「七海も来るか?」
その瞬間。
七海の表情が一気に明るくなった。
さっきまで泣いていたのが嘘みたいだった。
「えー!」
「行きたいでーす!」
蒼は呆れたように笑う。
「お前ってやつは……」
そのとき。
「蒼先輩!」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、目を腫らした隅田が立っていた。




