70 ピンチ?
試合はそのまま終盤へと進み、気づけば9回表。
総武学園は1点リードのまま最終回を迎えていた。
あとアウト三つ。
それで試合は終わる。
だが――。
ここまで好投してきた隅田が、ついに捕まる。
ヒットを打たれ、さらに四球。
気づけば一死一・二塁。
スタンドがざわつく。
それでも隅田は踏ん張った。
次の打者を内野ゴロに打ち取り、ツーアウト。
だがランナーは一・二塁のまま。
小夜がグラウンドを見つめながら言う。
「ここでしっかり抑えられるか……」
「隅田くんの実力が試されてるね」
蒼は落ち着いた声で答える。
「大丈夫ですよ」
「隅田は昔から、ピンチのときでも落ち着いてましたから」
次の打者が打席に入る。
隅田は帽子のつばを軽く触り、深く息を吐いた。
投球が始まる。
だが――。
バッターが粘る。
ファウル。
またファウル。
さらにファウル。
気づけば10球目。
スタンドからもどよめきが起きていた。
そして――。
結局、フォアボール。
これでツーアウト満塁。
スタンドの空気が一気に張り詰める。
真夏の太陽の下、隅田の球数はすでに100球を超えていた。
蒼も小夜も、もう言葉はなかった。
ただ黙ってグラウンドを見つめる。
小夜は心の中で思う。
(隅田くん……)
(もう100球は超えてる)
(スタミナも限界のはず)
(しかも、さっき10球も粘られた)
(ここは……)
小夜は自然と考えていた。
(とりあえず、ストライクが欲しいよね)
その瞬間だった。
――ふと、蒼の言葉を思い出す。
「こういう場面って……初球、ストライク欲しくなるもんなんですよ」
小夜の視線がマウンドへ向く。
次の瞬間。
――カキーン!!
鋭い打球音。
打球は一直線にセンターへ飛んでいく。
そして――。
センターの頭上を越えた。
三塁ランナーがホームへ。
続いて二塁ランナーも一気に生還する。
スタンドの木更津商業の応援席から、大きな歓声が上がった。
逆転。
総武学園のベンチは一瞬、静まり返る。
センターがボールを返すころには、打者走者は二塁へ滑り込んでいた。
スコアボードに表示される数字が変わる。
3対2。
木更津商業、逆転。
小夜は小さく息を吐いた。
そして隣を見る。
蒼は、ただ静かにグラウンドを見つめていた。




