69 逆転
試合はそのまま中盤へと進み、気づけば7回裏。
スコアは依然として1対0。
木更津商業のリードのままだった。
だが、この回。
総武学園に初めて大きなチャンスが訪れる。
フォアボールとエラーが重なり、二死二・三塁。
スタンドがざわめく。
「お……」
蒼が小さく声を漏らす。
「今日初めて、ちゃんとしたチャンスですね」
小夜もグラウンドを見つめながら頷いた。
「二死二・三塁か」
「一打出れば逆転だね」
打席には六番打者が入る。
蒼はグラウンドを見ながら言った。
「ここが、今日の勝負所ですね」
小夜はちらっと蒼を見る。
「蒼くんさ」
「今までピッチャー目線の話ばっかり聞いてきたけど」
少し楽しそうに笑う。
「ここはバッター、柏木蒼の目線で聞きたいな」
蒼は少しだけ考えながら、マウンドのピッチャーを見る。
「このピッチャー……」
「初球、ずっと変化球でクサいところ投げてるんですよ」
小夜は頷く。
「うん」
蒼は続けた。
「でも今日は初めてのピンチですからね」
「こういう場面って……」
蒼の視線が鋭くなる。
「初球、ストライク欲しくなるもんなんですよ」
その瞬間だった。
――カキーン!!
乾いた金属音が球場に響く。
打球は鋭く三遊間を破った。
「抜けた!」
蒼が思わず声を上げる。
三塁ランナーがホームイン。
続いて二塁ランナーも一気に生還する。
「うおおおお!!」
総武学園のベンチが一斉に飛び出す。
スタンドの応援団も総立ちになり、大きな歓声が球場を包んだ。
逆転。
蒼は思わずスタンドからグラウンドを見つめる。
そのときだった。
総武学園のベンチの中で、ひときわ大きく喜んでいる姿が目に入る。
――七海だ。
飛び跳ねるようにして喜んでいる。
蒼の口元に、自然と笑みが浮かんだ。
それを横で見ていた小夜が言う。
「蒼くん、嬉しそうだね」
蒼は少しだけハッとして、視線を外す。
そして笑みを隠すように言った。
「……まあ、OBですから」
小夜はくすっと笑う。
「ふーん」
それから、少しだけからかうような目で蒼を見る。
「でもさ」
「バッター柏木蒼の読み、当たりだったね」
蒼はグラウンドを見ながら答えた。
「ピッチャー心理って」
「バッター心理にも応用できますから」




